小泉内閣の構造改革の一環として、金融機関の不良債権の直接償却が挙がっています。現在のところ、金融機関はリスク債権に対して所定の引当金を積んでいます。これを間接償却と言います。倒産や会社更生法適用申請など法的整理に移行すると、債権は引当金と相殺され、バランスシート(B/S)上から消えて無くなります。しかし、法的整理に至るまでの道のりは遠く、いつまでも金融機関の融資総額は減らず、投資効率も低いままで、金融収支が改善しません。金融機関はジワジワと体力を奪われ、新たな不良債権を生んでしまう悪循環です。
不良債権の相手を法的整理して、引当金との相殺する手段が、話題の直接償却です。法的整理される企業にとっては非常識な話ですが、本当に事業性があるのなら必要です。法的整理をして債務を圧縮して貰う方が、良いケースもあります。しかし多くの企業を相手に直接償却を実施すると、自力回復する企業まで破綻させたり、事業性のある企業まで精算してしまったり、リスクが大きくなります。金融機関にとっては、償却までが真意で、経済再建にまで配慮する余裕がありません。
直接償却が雇用不安を拡大するのは事実です。法的整理(会社更生法適用など)や準法的整理(民事再生法適用など)となれば、企業としても雇用を整理しやすくなります。再建計画を組み立てる過程で、不採算事業や不稼働資産・人員を処分することは必須だからです。ゼネコン・流通(スーパー、百貨店)など大口企業の破綻は、大量の雇用を喪失させる効果があります。あまりダイナミックな直接償却は危険です。
また直接償却を焦ると、中小企業へのダメージが大きく、地場産業に打撃を与えることが多々あります。地場産業は代替が利き難く、復元力を欠きます。一つ一つの雇用は小さくとも、多くの中小企業が破綻すれば無視できない大量の雇用を失います。どの企業を生かすのかは、判断を付けるのが難しい現実もあります。加えて、成長を始めているベンチャー企業の芽も摘んでしまいます。ドラスティックな直接償却は考え物です。
政府・与党は、構造改革に伴い大量の失業者が出ることを試算しています。多分に甘い予測ではありますが、無視できない雇用喪失です。段階を踏んで雇用を吸収する受け皿を作らないことには、取り返しの着かない事態を招くだろうと言うのが、世間の見方です。雇用創出と簡単に言うものの、それが最大の難題なのです。とりあえずは、特殊法人や公益法人の改革により、民業転換に伴う新雇用創出です。同様に、規制緩和による雇用創出も言われています。しかし現実には、目一杯頑張って数十万人オーダーでしょう。
単純労働者の職業訓練による新雇用創出も言われています。新卒教育も同様ですが、果たして無事に定職を得られるのか疑問です。現在でも求人は沢山あって、外国人労働者の手助けを得ている業種も多々あります。しかし、それを奪うだけの意欲もなく、競争力もありません。その最大の理由は、給与待遇の低さでしょう。失業保険が切れるまでは浪人する失業者も多く、その後もフリーターであったりするわけで、積極的に定職を得ようと言う動機付けを欠くのが現実です。
一時期はIT事業に望みを繋いでいましたが、それ以外の分野で新事業を創出することが必要でしょう。財政出動に制約が掛かっている現状では、資金を使わずに新事業を興すのは大変です。これまで公共事業で浪費した国費が惜しまれます。果たして、短期的に立ち上がる新規事業があるかどうか。
01.08.12
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