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政治の研究No.123
保保逆転劇・・成立せず。

 第97回自民党総裁選が面白い」を書いたのは、昨年8月末でした。加藤・山崎の両氏が小渕総裁(当時)と対決して、総裁選を戦っている最中に書いたレポートであります。この中で、小渕総裁に遠く及ばなければ、まず両氏が手を組み、さらに自由党(当時)や民主党と提携して、保保逆転を行うべきとの見解を書きました。当時であれば、それは実現可能であったはずなのです。裏を返せば、今では時期を逸していたのです。

 なぜ、20世紀最後の通常国会で、その終わりに差し掛かるこの時期に、クーデターを狙ったのか。両氏の胸のウチは分かりません。たしかに森総理(自民党総裁)の人気は記録的な低さであります。次から次へと失言を繰り返し、他人から指摘されるまでその問題点に気づかない、かなり不適任な総理であります。しかし、今の自民党を見渡したとき、森氏に代わる適任者がありません。加藤氏を以てしても、森氏以上の活躍が期待ができないのです。
 森氏に代わる人材が自民党に居ないのならば、いっそ下野して野党に明け渡すか、公明党か保守党へ総理ポストを預けるか・・自民党としてはいずれも呑めない選択です。自民党の首相経験者に預からせる手もあります。橋本氏か、宮沢氏か、いずれも世論が許さないでしょう。何と言われようが、森氏留任しか選択肢がないと思います。しかし、ジリ貧は避けられません。先の衆議院選挙でも、あれだけミスを重ねた民主党が躍進したのですから・・。

 加藤氏としても、上記の認識を持っていたはずです。昨年の総裁選で小渕氏と争っていなければ、非主流の冷や飯を食うこともなく、ポスト森の第一候補であったでしょう。しかし、あまりに早くに反旗を翻したことと、総裁選に破れた後の処理が拙かったこと、は間違いありません。なぜ森総裁誕生にストップを掛けなかったのか、あの時点で波乱に持ち込めば、加藤総裁・総理もあり得たはずです。それができなかったのは、すでに派閥内の統率ができなくなっていた証拠でしょう。
 自民党において、非主流派のレッテルは大きなマイナス要素です。選挙で主流派にしっぺ返しを喰らうのは、間違いありません。ボスに相当の力量がなくては、派閥として纏まりません。総裁選で加藤・山崎両氏に投じられた賛成票でさえ、派閥のボスへの付き合いでしかなく、波風を立てずに居てもらいたいのが本音だったでしょう。ボスの面子に一応は付き合いましたが、派閥の面子を守る意味合いから協力しやすかったと思います。両氏はそれを、自身の派閥への掌握力・統率力と錯覚したのでしょう。

 しかし今回のはダメです。野党が提出する、総理(内閣)不信任案に賛成しようというのは・・。主流派の幹部が息巻いたように、不信任案決議では欠席でさえ問題であるのに、賛成であれば造反です。一法案なら赦されても、政権生命に関わる造反は、党執行部が赦しません。最初から脱党を宣言するか、脱党を前提に総理・総裁の退陣を迫るか、もっと明確な行動が必要でした。党内に留まって造反しようという考えが甘すぎます。
 過去に自民党から袂を分かって見せたのは、何グループかありますが、残っているのは現・自由党のみです。辣腕といわれた小沢氏が、自ら育てた子分を率いての脱党でさえ、参議院議員で多くの脱落者を出しました。その後、与野党逆転や自自連携で政局をかき回しましたが・・今はご覧の通りです。そういう基盤さえない加藤氏や山崎氏に、脱党を前提にする造反さえも難しかったかも知れませんね。
 今朝のニュースでは、造反派の完敗であります。森内閣不信任案は、賛成190票、反対237票の大差で失敗しました。結果的に除名の脅しに負けた造反派は、多くが欠席しましたが、その人数は42人にすぎず、加藤派・山崎派の合計にさえ遠く及びませんでした。仮に初志貫徹したとしても、賛成232票、反対237票という微妙なラインです。両派からもう少し同情票を集めれば、成立もあり得たかも知れませんが、この票差では加藤総理実現に全然足りませんでした。勝負は早々に着いていたのです。

 さて今後ですが、加藤氏と山崎氏は自民党に残留するつもりのようです。野中幹事長が何らかのペナルティを課すようですので、両氏が派閥のボスとして残れる可能性は低く、分派して一派を旗揚げするとしても、42人以上を集結できる可能性も低いでしょう。このまま干されてしまうのでは、ないでしょうか。これでポスト森は、一層見えなくなりました。森総理が長期化する可能性も高くなりそうです。。。

00.11.21

補足1
 一夜が明けて、22日。自民党最大派閥の橋本派は、総会を開きました。総会では、新たに2衆議院議員の加入を認めて、合計101人となりました(綿貫氏は、衆議院議長のため、カウントせず)。ますます他派閥に差を付けつつあり、今後加藤派・山崎派が分裂する事態にでもなれば、さらに肥大化する危険があります。
 その総会の席上で、野中幹事長が「今度の内閣不信任決議案は、決して森喜朗首相の信任を決定したものではないと思っている」(毎日新聞社報道)と発言し、物議を醸しているそうです。字面だけを見れば、「勝って兜の緒を締めよ」との警句なのかと思われますが、その場の雰囲気では「平家であらずば、人にあらず」であったらしいです。困ったモノです。

00.11.23

補足2
 加藤派は欠席21人・反対24人で、山崎派は欠席17人・反対2人という集計結果になるようです。結束の強さということでは、山崎派の方が強かったようです。加藤派の反対に投じたグループは、池田・古賀の両氏を軸にして加藤氏と距離を置き始めており、早くも派閥分裂の動きを示しています。
 加藤派は、元々宏池会と称しており、池田元首相を初代会長とする古株派閥です。上記の池田行彦氏は元外相で、池田元首相の女婿に当たるそうなので、池田・古賀グループが宏池会の本流として残る可能性が高いともあります。加藤派の参議院議員は今回埒外でしたが、参議院選挙が近いこともあって加藤氏と心中する考えが無いとも言われているようです。
 加藤氏が決議当日になって欠席を決めたことは、同調議員にも大きな動揺を与えたようです。このままでは、離党という選択肢も失われてしまったのでは無いでしょうか。非常に残念な結果であります。

00.11.23
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