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政治の研究No.118
受益者負担 の 原則

$「紀初頭のお話です。当時のヨーロッパを代表する国は、イギリスとフランスでした。上流階級や中産階級を中心にして、馬車の普及が目覚ましかったそうです。元来、人口の密集度が高く街路も狭かったロンドンやパリの市街よりも、近郊都市との連絡手段として、馬車の普及とともに道路の整備が進んだそうです。

 さて、ルイ14世の栄光が残っていたフランスでは、地方各地の農民が動員されて道路建設が進められたそうですが、それらは全て無償奉仕でした。正確には、国家による強制労働であったそうです。地域によって違いがあったようですが、年に10〜30日程度も借り出されて、しかも自分たちでは使わない道路を延々と造らされたそうです。
 一方のイギリスでは、市民革命を経た市民達が無償奉仕や強制労働に従うはずもなく、馬車を使いたい貴族や商人たちが資金を出し合って道路を整備したそうです。やがて規模が大きくなるに連れて、整備する道路を有料道路とし、その資金を以て道路の延長を実現していったそうです。

 イギリスでは、受益者負担の原則が貫かれたと言うことです。結局は、国家による主要道路の買い上げが進んで、結果的には道路が国家のインフラとなり、公有へ移行して行ったわけですが、それが今日のPFI制度の根幹になっているところが興味深いところです。一人一人の市民意識の高いイギリスならではのお話です。
 対するフランスでは、約40年間も農民の無償奉仕を受けて国内を縦横に走る道路を整備しました。しかし、その代償として農村部は疲弊して不満が増し、ほどなくフランス革命によって王権は覆されます。整備された道路は、思想と活動をすばやく全国へ伝達して、革命を瞬く間に広めました。オーストリアへの逃亡を目指したルイ16世が、馬車で逃走するところを捉えられたことも皮肉でしょうか。

 それはさておき、我が国の土建事業は、長い間、国家・自治体の専売でした。必要以上に巻き上げた税金を湯水の如く土建事業に注ぎ込み、世界に冠たる土建国家を築きました。しかし、国のできる借金にも限界があります。バランスシートが大幅な債務超過を示すに及んでは、もはや土建を国営でやり続けることもできなくなりました。仕方なく、PFI制度の導入を始めましたが、お囃子はにぎやかでも実績は力不足です。
 そもそもPFI事業が日本に馴染むのかどうか、疑問があります。明治維新・GHQ進駐の時代を以てしても、日本に受益者負担の原則が浸透したとは思えません。たしかに通称ガソリン税の導入によって道路は拡張されていますが、東京でガソリンを使ったユーザの税金が、はるか地方の道路建設に使われるのが正しい受益者負担であるのか疑問です。費用対効果さえ検討されていませんが、これも受益者負担の原則に対する意識を、政治家が持っていないことが理由です。
 道路を造れば金が掛かります。しかしそれ以上に、保守にも金が掛かります。高速道路では、基幹数路線が黒字で叩き出した通行料を、地方路線の赤字穴埋めに使っています。JHはファミリー企業との癒着など厳しい批判も多いところです。ここにも、受益者負担の原則をはき違えている人々があります。

 グリーン税などという議論を始める前に、受益者負担の原則を政治家や官僚に理解させることが先決ではないかと考えています。もちろんユーザとしても主張すべきことはたくさんあるはずです。首都高速はいつまで混雑を放置するのか、なぜ通行料を取り続け値上げまでするのか、本四連絡橋は三つも必要だったのか、などなどボルテージを高めて主張していきましょう。

00.06.03

補足1
 英国での道路建設は、議会が承認した通行税徴収委託会社にて進められたそうです。利用者は委託会社に利用料を支払い、委託会社はそれを資金源に道路を伸張させました。このため国会財政を歪めることなく、急速に道路整備が進んだようです。今で言うところのPFIですが、委託会社が暴利を貪るでもなく、悪徳政治家に資金が流れるでもなく、競争原理が働いたようです。
 当時の道路舗装は、大きな石を敷き詰め、その石を繋ぐ接着剤的な役割を軽い小石片に担わせるマカダム道路で、車が走れば走るほど小石が砕かれて石は引き締まり、堅いしっかりした道路舗装が実現できたようです。その後、ゴムタイヤ走行には適さなくなり、今日の形に近いアスファルト道路が普及していったとのことです。蛇足でした。

00.08.20

補足2
 新たな架橋プロジェクトをブチ上げて、存続の方向性を模索していた本州四国連絡橋公団(本四公団)は、2002年廃止の方向が決まったようです。利用料だけでは負債返済が難しく、国税投入で決着を付ける必要が確認されたためですが、おそらくどこかの公団に事業移管されて、その後も生き続けることでしょう。
 これまで本四公団への税金投入は533億円(道路特別会計)に限定されていたようですが、金利支払額1,400億円に対して通行料収入870億円の現状では、かなりの規模の国税が必要になるようです。

01.02.17

補足3
 国会では、凍結されていた整備新幹線(北陸・九州)の着工開始も大きな課題です。公共事業の大幅な見直しが進む中で、相変わらずの「我田引道」「我田引鉄」が盛んです。代議士先生にとって、地元民への良いお土産なのでしょうが、結果的にマイナスの経済効果を押しつけられる地元民にも、迷惑な話です。美味しい土建事業を行ったゼネコンからは、先生にキックバックもあるでしょうが・・・。
 そういえば、大野伴睦先生が東海道新幹線の進路を大きく歪めたのは、有名な逸話です。大雨や大雪のトラブルも絶えず、直線走行の新幹線メリットを失わせたことは、今でも惜しまれます。高速道路の延伸も見直しを実施する必要があります。
 与党は、旧建設省・旧農林水産省が中止の方針を示した公共事業279件のうち、255件の中止を決定したそうです。残した24件の検証も必要ですが、大規模公共事業の見直しは、その後に発生する保守費・人件費も考慮して判断して欲しいです。また本四連絡橋については、2橋を強制閉鎖するなどの大胆な決断も必要ではないかと思いますが、いかがでしょうか。

01.02.17

補足4
 全ての有料道路が無料になる時代は、多分訪れないのだと思います。一般道路でもそうですが、大型車が多く走行すれば道路は傷みます。車が走らなくてもアスファルトやその他の設備が劣化するのは、当然のことです。国道や県道などはメンテナンス費用を国や県が負担していますが、その出所は税金です。

 少なくとも高速道路は、受益者負担の原則が必要だと思います。道路系公団の民営化が進む予定ですが、道路を利用する者がその利益に応じた負担、もしくはその施設維持に要する負担をするべきです。今なお地方には計画中の高速道路が多々あります。多くは計画凍結となる見込みですが、政治家先生は強い不満を表明して居られます。現在のプール制を採用すると、不採算路線の赤字が採算路線の料金値上げに直結します。有料道路単位での独立採算と自己負担を前提とし、受益者負担の原則を明確にして欲しいです。地方として必要であれば、県道や市道と同様に自治体が負担するのも一手でありますが。

 なお、イタリアでは、高速道路を民間のアウストラーデ社に移管したところ、受益者負担の原則が守られて、順調に債務圧縮に貢献しているようです。1キロ当たりの通行料金は、平均8.48円だそうです(日本は、27.8円)。それでも利益が唸っていて「儲けすぎ」批判が出るほどだとか。
 また、ドイツでは、高速道路も公共財ということで通行無料だそうですが、メンテナンス費用の負担増大で、有料化の検討を始めているそうです。しかし、ドイツの負担増大の原因は国外から流入する大型車の影響だそうで、とりあえず大型車については走行距離に応じた受益者負担を求める方向であるそうです(来年8月から衛星を使った車両探知を始める予定)。

日本経済新聞2002/12/03朝刊を一部参照しました
02.12.31

補足5
 英国では、日本の国道に相当するモーターウェイが無料です。ロンドンなどの大都市を除けば、十分に高速道路として機能しており、有料道路はほとんど存在しません。しかし、その維持費が嵩んでいることから、メンテナンス相当の費用を徴収する有料化の議論も盛んだそうです。道路は社会インフラとして重要ですが、新規道路の着工が困難である状況や、マイカー族の跳梁跋扈、排ガス問題への対策などから、いつまで無料化を継続するのか定かでありません。
 英国では、ナショナル・ヘルス・サービスという制度が第二次世界大戦後に設けられ、医療費は全額国庫負担です(個人診療のシステムもあり、こちらは有料)。国費に占める医療費負担の増加が課題であり、医療の再有料化が議論されています。受益者側からは激しい抵抗がある一方で、非受益者側は負担の公平性を求める声が上がっています。フェア精神を重んじる国柄だけに、正当な受益者負担に関する議論が、今後続けられそうです。

03.10.03
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