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政治の研究No.93
時機逸した参院攻防戦

 8月13日の会期末を目前にした国会では与野党の攻防戦が展開されたようです。とくに激しかったのは11日と12日です。
 9日に国旗・国歌法が圧倒的多数で成立し、残る懸案は通信傍受法案と住民基本台帳法改正案、衆議院比例代表定数削減法案の3本になりました。多くの法案には反対を表明しながらも、国旗・国歌法の成立にはいそいそと協力した民主党は、タイムアップ直前になって与党との対決姿勢を明確にしました。
 しかし、国旗・国歌法案の審議では、採決当日に公聴会を開くという前代未聞の悪行に荷担した民主党のこと、攻防戦も勢いがなくパフォーマンスばかり目立つ結果に終わりそうです。本来で在れば、賛成したい法案であっても質疑を繰り返したり投票時間を稼いだりと引き延ばしが可能であるにも関わらず有効な手を打たず、また与党サイドの自由党や公明党に揺さぶりを掛ける努力もしなかったことが惜しまれます。完全に時機を逸したと言えましょう。

 一応は戦術について書きましょう。まず10日、衆院本会議で内閣不信任案を提出しました。これは参院に不信任決議権がないため当然ですが、与党側が圧倒的多数を占める衆院で成立しようもありません。せめて比例代表定数削減で亀裂を生じつつある自由党や、自公連合に反対する自民党非主流派に呼びかけをするべきですが、何ら手を打つことなく・・・反対多数で否決されました。
 それでも一応は参院での審決入りを一日遅らせることに成功しました。次に、参議院では動議を連発して審議入りに抵抗を始めました。通信傍受法案は参院法務委員会で自自公の強行採決が行われたことを受け、公明党の荒木法務委員長解任決議を動議して・・・否決。つぎに小渕首相の問責決議を動議して・・・否決。さらに斉藤参院議長の不信任決議を動議して・・・否決。
 相次ぐ動議で攻勢をかけ、さらに牛歩戦術なども展開して動議案の否決だけで審議は12日までずれ込んだ模様です。かつて野党の恥と言われた牛歩戦術ですが、それなりに時間稼ぎには成ったと言うことでしょうか。ただし、今回の野党側では牛歩を恥と感じて素直な投票を行った議員もあり、法務委員長解任決議では、斉藤議長が職権で投票箱を閉鎖するという荒技を演じました(投票箱閉鎖は1956年以来43年ぶりの強権発動だそうです)ので、有効性は損なわれました。。
 また長時間討論による引き延ばしについては、与党側が趣旨説明や討論の時間を1人10分に制限する動議を出して採決し、事前封じ込めに動きました。駆け引きでは自自サイドに数日の長があるということですね。結局は11日夕刻から18時間という無意味な動議を繰り返して、目先の時間は稼いだ模様です。

 話を戻しますが、やはり有権者へのアピールとして演じた引き延ばし戦術に過ぎず、実効のないことは承知の上だったようです。セクハラ発言への抗議など野次が散発的に出たようですが、掴み合い取っ組み合いは見られませんでした。紳士的と褒めるべきか、淡白に過ぎると貶すべきか、難しいところです。
 結局のところ12日中にも通信傍受法案は成立します(今原稿を書いている時点では成立していません)。続いて住民基本台帳法案(第80回パーソナルコードの時代」を参照)も成立するでしょう。与党側は宿題を全て片づけ、本来なら内閣の一つや二つが平気で潰れると言われた多くの懸案を成立させたことになります。
 与党の頑張りについては、百点満点で九〇点を付けますね。個々の法案の中身や審議の在り方については辛い点数を付けたくなるところですが、その努力は素晴らしいものです。対する共産党には七〇点でしょうか、いつもながら実力の及ぶ範囲で頑張りを見せました。民主党は三五点(でも甘いかも知れない)ですね、結局パフォーマンスさえも成功させませんでしたから。
 もしも民主党が充分なポイントを稼いだと考えているのなら、あまりに甘いでしょう。有権者をバカにしすぎています。攻防戦を仕掛けるのなら、徹底した戦略と周到な戦術の展開が必要であるにも関わらず、何も手を打ちませんでした。メディアへのアピールもなく、有権者を巻き込んだ運動も見えてきませんでした。これでは万年抵抗野党の指定席しかありませんね。

 最後に自由党です。与党離脱をちらつかせて衆議院比例代表定数削減法案の成立を目論んでいます。このままでは継続審議扱いで、来期にはお蔵入りになりそうです。一応は政治倫理・公職選挙法改正特別委員会での審議を始めさせましたが、残る2日で衆院決議に持ち込むのは至難の業です。
 結局は主要な法案には全て与党として賛成票を投じており、全ての懸案を片づけて勝利を印象づけた自民党にとっては怖くない存在です。自由党は、通信傍受法案などを質にとり削減法案を優先するよう求める戦術もあったはずですが、あの小沢氏が率いる割には「?」な活動が目立ちました。今さら与党を離脱しても得るものは何も残っていないでしょう。

 国会議員の先生方、何はともあれ、お疲れさまでした。これからお国入りかと思いますが、今回の個々人としてのご活動が、地元有権者からどう受け止められているか、よく聞いてみて下さい。ご自身は有権者との公約を全て果たしたか、有権者の権利を制限するような問題に荷担しなかったか、地元から後ろ指を指されるような言動をしなかったか・・・来期以降のご活躍にこそ期待を掛けさせていただく次第であります。

99.08.12

補足1
%の午後2時過ぎに、通信傍受法案が参院で可決されて成立しました。賛成票142に対して反対票99で、抵抗の虚しさを浮き彫りにしました。
 比例定数削減法案に関して、公明党の反対で成立しなかったと印象づけるのは得策でないと判断し、ある程度の譲歩を示すようです。自由党はすでに継続審議入りは避けられないため、特別委員会での決議までの実績作りを要求しています。すでに審議開始まで譲歩した公明党ですが、もう一歩踏み込むかどうかに思案中だと言うことです。

99.08.12

補足2
%に住民基本台帳法案も賛成多数で成立しました。通信傍受法案が個人のプライバシーに関わると大揉めした割には、総背番号制については揉めなかったようです。野党は形ばかりの反対票を投じましたが、そのギャップは不思議なくらいですね。
 民主党は審議時間が不足を理由に継続審議に持ち込んでポイント稼ぎに持ち込もうとしましたが、委員会採決を省略して本会議採決できる特例を利用して成立させました。自自公の数の傲り、与党としての自負というところでしょうか。
 比例定数削減法案については、来期冒頭で取り上げるという形で継続審議の決着になりました。自由党としては、形ばかりの公約達成ですが、辛うじて面子を保ちました。小渕首相はこれで安心して総裁選挙に望めるコトになりました。
 一方の民主党は全くポイントを稼げませんでした。菅党首は引き続き党首選に出馬するそうですが、その実績は何を以て主張されるのでしょうか? 実績無き党首に続騰を許すとすると、もう民主党も未来がないかなぁ。せめて明確な公約を打ち出して欲しいと思います。

99.08.13

補足3
 今期国会での自自公の成績は、政府提出124法案のうち110法案を成立させて88.7%とのことです。昨年の82.9%を大幅に上回るとともに、新ガイドライン関連法・国会活性化法・地方分権一括法・憲法調査会設置の国会改正法・改正住民基本台帳法・国旗国歌法・通信傍受法など重要法案はパーフェクトに成立させました(数字はJamJam政治ニュースから引用)。

99.08.14
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