「日本では政教分離が確立されている」と豪語される政治家先生は多いようです。たしかに宗教組織が政治を牛耳っているのでない点で事実ですが、後援組織が丸々宗教団体である政党や、選挙の基礎票に宗教団体の信者票を組み込んでいる政治家さんは、大勢います。選挙だけの付き合いという理屈が通る理由もなく、宗教団体のロビー活動もしているのでしょう。
我が国の場合、課税や参入規制の点で宗教法人に極めて甘いです。宗教法人の公益事業は非課税であるのが当然ですが、収益事業についても巧みな税金逃れがされています。お布施等の収支も明瞭でなく、宗教法人法を改正したにも関わらず財産目録等の提出をしない法人が10%近く残っています。そもそも宗教法人は規制事業で、課税等に恩典があるため法人格を得ようとする者が大勢います。それにも関わらず新規認可はなかなか下りず、信徒0人の法人格を信徒数万人の法人が買い取ることは許されるという歪な制度になっています。
それはともかく、第78回「自自公連合」で否定的見解を示しておいた自自公連立政権が成立する運びとなりました。数々の障害を乗り越えて実現にこじつけた自民党執行部の努力は素晴らしいのですが、ここで政教分離の問題を放置できなくしてしまいました。
たしか自民党は、一貫して公明党が政教分離できていないとして攻撃を繰り返してきたはずです。自民党の支持母体にも数多くの宗教団体が在るわけですが、人様を批判していたと言うことは、少なくとも自民党は政教分離をしていると自負していたと思います。ところが、自自公連立が現実化したとたんに、足下の宗教団体に揺さぶりを掛けられて慌てています。
有力な支持母体に「四月会」というのがあります。反学会の宗教団体が作った共闘組織で、新進党が政権を握っていたときに、激しい学会批判を繰り返したことで有名です。この四月会が、自分たちが支援して当選した代議士達にアンケートを実施したり、自民党幹部に再考を促したりしています。しかし自自公連立にやっと漕ぎ着けた党執行部は無視する意向のようです。確かに、今更政教一体だったと認められませんものね。
なぜ、公明党が与党に加わると他の宗教団体が抵抗するのか、考えてみましょう。学会は元来日蓮の教えを広める「講(集まり)」の一つとして発足しました。そのため名目上は日蓮正宗の下部組織だったのですが、学会側が巨大化した組織を背景に圧力を加え、反発した正宗側と喧嘩別れをしてしまいました。したがって、新興宗教の一派という位置づけになるのでしょうか。
さて、教祖の日蓮です。鎌倉時代、安房国生まれの日蓮は、辻説法という方法で自らの教えを広めようとしました。中でも国難を予言した「立正安国論」を幕府に提言したことから伊豆に配流され、赦免後も幕府批判を止めなかったため、佐渡にも流されました。日蓮の特長は、徹底的なまでの他宗派攻撃です。異教のみならず、同じ仏教の他宗をも「邪教」と呼んで攻撃しました。その激しさ故に日蓮宗は主流と成り得ませんでしたが、現在日蓮宗、日蓮正宗、法華宗など多くの分派を生じ勢力も拡がっています。
学会が政権与党に荷担する以上、他の宗教組織が協力することは望めません。自分たちを邪教と言い切る団体、天下を握ったら他宗派の一掃を遣りかねない団体、を攻撃するのは組織自衛上、当然のことでしょう。せめて公明党が学会との無縁宣言でもすれば違いますが、神崎公明党代表は学会会長を大先生と呼び、いろいろなアドバイスを受けていることを雑誌インタビューで公言して憚りません。他宗派がキリキリする様が目に浮かびます。
先のレポートでは公明党にとって、閣内協力する自自公連立はメリットがないと述べました。ところが、自民党を支持する宗教団体全てを自民党から切り離すというメリットがあったのですね。結果として自民党は支持基盤が弱まりますから、公明党の協力無しに与党でありつづけることが難しくなります。幸いにも野党の足並みがバラバラですので、付け入る隙があると言うことでしょうか。
残念ながら学会の強引な活動には嫌悪感を抱く有権者が少なくありません。そうした有権者の行動次第では、今は全然子供の民主党が地滑り的勝利を掴む可能性も残っています。自自公連立により一時的には強力な政治勢力が誕生し、数多くの法案をごり押しで通すことにもなりますが、見ようによっては政教分離が進み、自民党一強の時代に終止符を打つ可能性も残されていますね。
さて、公明党の活躍はどうなるでしょうか。また自民党代議士達の個々の動きも注目されます。そこに民主党がどう食い込んで来るでしょうか。政局は面白くなりそうです。
99.07.24
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