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政治の研究No.69
国家公務員の大家さん

 日本の公務員は高給取りだと世間で言われております。しかし、それは指定職と呼ばれる局長クラス以上での話です。管理職手当を受給する部課長クラスなら上場企業の同クラスと同水準かやや安い水準です。平公務員であれば断然に上場企業よりも安月給です。毎年毎年公務員の給与平均が発表されますが、これをちゃんと階級別に公表すると、一層歴然とするのですが・・・まあ、しないでしょうね。
 その実態を調べる手掛かりは、俸給表といわれる給与計算表を使うと見えてきます。俸給表というのは職種によって何種類もあり、一般に横軸は級、縦軸に号俸が設けてあります。号俸は毎年1号俸ずつ上がり、一定の要件を満たすと級が上がります。公務員の給与は○級×号俸などと呼んでいますが、各級にある人数は常に制限されているために、キャリアを除いてはなかなか昇級に手間取ります。号俸は毎年上がるとは言え、早くに昇級していかないとどんどん上昇幅が小さくなります。そのためノンキャリアは何年勤めても安月給でこき使われてしまいます。

 ところが、実は俸給表だけでは実態は分かりません。様々な名目で昇級するほどに諸手当が増えるためです。一応はその中身も公開されていますが、複雑な計算式や例外規定などが付記されていて、どんな仕事をしていれば、何手当が付いて、いくらの手取りなのかが分からなくなっています。そこがミソなんですけれど、それを具体的に示さないのはキャリアならではのテクニックです。恩恵を受けているのはキャリアだけなのですから。彼らの発想では、厳しい競争を勝ち抜いたからこそ手に入れることができる特権ということなんでしょうが。
 他に表に出てこないのが、官舎の問題です。近頃は週刊誌が叩いていますが、都心の一戸建てを与えられている幹部が多いです。しかも家賃が数万円という破格値であったりします。だからといってディスカウントしているのでもなく(もちろん補助は出ているはず)、取得したのが大昔で安かったことと、国有財産には固定資産税がかからないことのメリットを生かして、現状に合わない破格値で提供されているわけです。ただし幹部だけのメリットで、普通の官舎はもっと不便な場所にあり、老朽化も進んでいます。ここでも幹部と平の差別がされています。

 ここからが本題です。国家公務員の官舎は、一部の借り上げ施設を除いて、全て大蔵省が管理しています。官舎は全て国有財産だからです。官舎は大きく分けて独身寮と世帯寮があります。独身寮は各地に点在していますが、近頃は次々にスクラップ・アンド・ビルドが進められています。老朽化の進んだ施設は見放されて入居者が減少する傾向にあるため、ワンルーム型の新寮建設を急ピッチで進めているようです。寮費は割高になりますが、住環境が著しく改善するために、人気を維持している様子です。
 一方の世帯寮は、広い敷地に集合住宅として建設されたものが多く、かつてのマンションブーム時代の老朽化した施設が目立っています。入居している人数が膨大であるため、建て替えが自由にならない様子です。それでも民間の世帯住宅よりははるかに破格であるため、こちらは老朽化しても入居者は多いと聞いています。近頃、国家公務員の給与水準は漸増の傾向を示しており、これまでのように世帯寮に入居しないと生活できないということも無くなりつつあります。しかし、大家さんこと大蔵省の意向が働いているようです。

 国有財産の有効活用という観点では、やはり一定の入居者を維持したいのが本音です。しかも老朽化したまま使えるのなら、住宅補助を出すよりも格安です。世帯寮は人気が衰えないのでそのまま放置し、空室が目立ち始めた独身寮は改築を進めているのは上述のとおりです。独身寮の改築が一巡すれば、世帯寮の改築にも着手していくのでしょう。しかし、多数の国家公務員が国有財産に住み続けるということは、この住宅不況の最中に官業による民業の圧迫と言えないでしょうか。新築や改築までして国有財産に住まわせることは、妥当なのかどうか。
 国家公務員が自発的に民間住宅を借りれば良いと、国民は考えるでしょう。しかし経済的に難しい様子です。例えば、住宅手当は原則半額補助ながら、上限は27,000円です。民間企業と比べると格段に低いのが分かるでしょうか。さらに持ち家への住宅補助は、月々1,000円のみ(しかも世帯主であることが条件)。新築または新規購入住宅の場合2,500円を5年間支給しますが、住宅ローンに比べれば焼け石に水です。共働きで無い限り、住宅購入は狂気の沙汰です。
 住宅手当が低水準で在れば、老朽化した世帯寮でも入居しようと考えるのは当然のことです。この結果、国家公務員は住宅の積極的取得に動かず、的外れな地価対策を行うことに成るわけですが・・・この事実に大家さん自身が気付いているのかどうか・・・。

99.05.01
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