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政治の研究No.59 |
ドナーカードは普及するか |
昔は、臓器提供者と呼ばれていましたが、ここ数年ドナーという呼び方が定着してきましたね。もともと日本では「角膜及び腎臓の移植に関する法律」(通称、角腎法)があって、心臓停止の時点で移植が可能な臓器を提供することができました。これをもう一歩踏み込んで、脳死した人の体から臓器を提供するよう規制が緩和されました。1997年10月に成立した「臓器の移植に関する法律」(通称、臓器移植法)です。これ以降、厚生省は「臓器提供意志表示カード」(通称、ドナーカード)の配布に重点を置いてきました。
ドナーカードの配布は、意志表示カード普及委員会が200万枚以上配布したといわれており、携帯者が増えていますが、無事に移植が行われるまでに、いくつか難関があるようです。ある例では、所定欄に丸印が欠落していたため、ドナーの意思が尊重されず、移植は中止されました。ある例では、遺族が強硬に反対したため、同じくドナーの意思が尊重されず、移植が実現しませんでした。そして、不携帯のため意志が伝わらなかったこともありました。
ドナーカードは、「1.私は脳死の判定に従い、脳死後、移植の為に○で囲んだ臓器を提供します。(×をつけた臓器は提供しません)」とあり、選択肢は「心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸」とあります。先の例では、「1.」に丸印がなかった不備により移植が見送られたのです。あるいは選択肢に丸印を付ける点を読み落として臓器提供の意志無しと判断された例もあるようです。次に「2.私は心臓が停止した死後、移植の為に……」で「腎臓、眼球(角膜)、膵臓」とあり、最後に「3.私は、臓器を提供しません」とあります。
以上の選択欄の下に「署名年月日」「本人署名(自署)」「家族署名(自署)」となっています。本人署名の欠落は問題ですが、署名年月日が落ちていても無効だそうです。また家族署名は「可能であれば、この意志表示カードを持っていることを知っている家族が、その確認の為に署名して下さい」とあるように任意ですが、当の家族や別の家族が異議を唱えると移植はできないことに成っています。臓器は相続対象でないので、家族が反対しても問題なく移植できるはずですが、家族の感情を本人の意思よりも尊重するということなのでしょうか。
ドナーカードは普及のため簡便であることを優先したようです。ドナーカードはボールペンで記入する安直な方法であり、印鑑が捺される訳でもありません。裁判などになれば厄介だと言うことで病院が尻込みするのでしょうか。また携帯していても見つけられなかったという事例もあったようです。そこで、運転免許証に張り付けてはどうかという話になっています。
今年1月から運転免許証のウラ面に「ドナーシール」を貼ることが可能になりました。先ほどの項目番号の代わりにそれぞれに対応したシールを貼るように成っています。丸印を付ける点と、自署・署名年月日を入れる点は同様です。一応は携帯しているのが分かりやすくは成りましたが・・・もっと本質的な課題があるのではないでしょうか。
#N11月19日の日本経済新聞夕刊によれば、ドナーカードを保有して亡くなった事例は、わずかに35例で、全て心臓停止後に報告されたと言います(ある事例では、死後数か月後に遺品から発見された、とあります)。このため脳死移植は1例も無いと言います。携帯しているのが分からなかった・・・というのもあるでしょうが、家族が知らなかったり、知っていても医師に伝えなかったのではないか、と思います。運転免許証への添付の場合、事故死などなら気付かれますが、病死の場合は気付かれにくい問題があります。健康保険証なら医師の目に触れる可能性は高いですが、家族が途中で剥がす可能性もありますし、家族共用の保険証には貼らせない場合もあります。あまり有効に機能するように思えないのです。
もう少し踏み込んで、免許証の「条件等」の欄に活字で表示することと、「健康保険証」の所定欄に活字で印字することを行ってはどうかと思います。公的文書に活字で印字すれば署名も署名年月日も不要で、家族や医師が手を加える余地もなく、ドナーの意志を尊重することできます。いささか手間の掛かる方法ですが、運転免許センターと保健所等の協力を得てドナーカードに代える方法として欲しいと考えます。
ドナーの尊い意志が、記載不備や他人の意志や偶発的な不保持で無駄にならないよう工夫をしていただきたい、と考えます。また早期に脳死で移植を成功させて欲しいです。成功事例が積み上がっていけば、ドナーに成っても良いと考える人が増えるでしょうし、普及もするでしょう。そのために行政が少しばかり不効率になっても良いのでは無いでしょうか? ドナーカードの普及よりも、ドナー意志入りカードを普及させて下さい。
99.01.31
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補足1
このテーマは、読者の方が提言して下さったものを膨らませたものです。
99.01.31
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補足2
ドナーの話ではありませんが、海外では風変わりな移植の実験が発表されています。一つはドミノ移植。三人の対象者から順番に臓器を移植するというものでしたが、対象者の一人が亡くなったために、とん挫するのだとか聞いています。二つは手の移植。生命に関わらない移植の為、拒否反応などリスクの大きい「手」の移植は三例目だと言いますが、過去の戦績は一勝一敗だそうです。三つは異種動物間の臓器移植。記事を取っておかなかったのですが、たしか成功だったと思います。
しかし、移植実験は人体実験です。単なる研究実験とすることが無いよう、人間の尊厳を重んじることを忘れないで欲しい、と願っています。
99.01.31
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補足3
ついにドナーカード保持者の脳死移植が実施されそうです。高知赤十字病院に入院した患者に対して脳死判定を実施し、家族の意思確認(承諾)を経て再度の脳死判定を行うのだそうです。この患者はドナーカードを所持しており、その意志が尊重されるが、患者の家族にはわだかまりもあり、承諾はしたもののあまり積極的ではないと報道されています。ちなみに件の患者は全臓器の提供を申し出ていたそうです。
ただし、マスメディアが詰めかけて取材攻勢を強めていることが最大の原因でもあるようです。本来は提供者(ドナー)のことは被提供者(アクセプタ)には知らされない。同時に被提供者のことも提供者には伝えられない原則になっています。今回の報道の結果、提供者も被提供者も名前は伏せられるもののほぼオープンになってしまった。提供者と被提供者のプライバシーが保護されなかったことは誠に遺憾です。今後は同じ様なことは無いようにして欲しいと期待しますし、今回の移植で追跡調査なんてバカな考えを起こすメディアがないように期待します。
99.02.28
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補足4
脳死段階での心臓移植は1968年8月に一例あるそうです。すでに南アフリカで史上初の手術が行われ、世界では30例目に当たるのだそうです。ところがドナーの脳死判定を巡って疑惑が浮上し、結局は執刀医の和田教授(札幌医大)が殺人罪で告発されたそうです。その後も脳死患者から膵臓や腎臓を摘出した事例が相次ぎ、タブー視されてきたのだそうです。以上の出所は2月28日の時事通信の配信記事です。
99.02.28
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