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政治の研究No.26 |
政治批判の前に、まず納税
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参院選前夜のとある居酒屋でのお話です。女将さんが常連さんと政治談義をしていました。近頃は税務署がうるさいだの、税務署員の裁量徴税権がどうの、消費税は3%にする○○先生が良いだの、結構難しい話をしておりました。
「女将さんてTVチェックして新聞チェックする時間あるんやなぁ。ずいぶん週刊誌も呼んでるなぁ」と感心しました。よくよく話を聞いていますと、税務署員が来ているのは消費税納付金の滞納の要件だそうです。昨年度の預かり消費税が運転資金に消えてしまって、女将さんが滞納しているらしいのです。お店も借り物で差し押さえるモノがないそうなのです。もちろん勘定書には消費税が外税で書いてあるのですが・・・これも滞納になりますね。
「おい、オバはん、ちょっと待ったらんかィ! ドタマかち割ったろカ!」とは言いませんが、政治談義は税金を払ってからにして欲しいです。町中にはこんなオバさまが多いですね。何かと「私たちの税金が・・・」とおっしゃいます。そのくせ体調が悪いと騒いでは、せっせと病院に通って医療費を無駄遣いしています。所得税と住民税は旦那が払い、消費税だって家族の分を合わせて払っているだけでしょう。その総額と医療費補助とどちらが多いのでしょう。税金を払っていない人は「納税者の皆さんの税金が・・・」と、静かに政治批判しましょう。
納税義務と公民権は表裏一体です。「義務を果たさずして権利無し」です。とはいえ、国民として国政に参加することは当然の参政権です。国政参与は納税金額とは関係がありません。しかし誰かの納税負担が軽いということは、他の誰かの納税負担が大きいということです。お金持ちからはたくさん取れば良いとおっしゃいますが、それは一人の国民としての立場を考えれば、不公平な話です。国税を10倍払っても、行政サービスは2倍も受けられません。高額所得者には高額税納付の義務があるなどとは矛盾した理屈です。
かつて高額所得者の最大累進課税率は80%で、実質税負担率は90%近かったと言います。消費税導入に当たり直間比率是正を看板に最大課税率は65%に引き下げられました。個人的にはこの辺が妥当だと思います。資本主義の下ではお金持ちはどんどん肥え太るので、自由主義と民主主義の秩序を維持するためにはお金持ちが太りすぎないシステムが必要なのです。もちろん生活に余裕がありますから、人並み以上の税負担をお願いしていることも理由です。稼いだ金額の1割しか残らないのでは勤労意欲に影響が出るでしょうが、1/3残る現行制度ではまずまずでは無いでしょうか。1億円稼げば3,500万円は残るのですから。普通そういう人たちは所得から諸経費を控除できる身分の人ですし、貯める気になれば年間3,000万円は貯められる人たちです。
累進課税のシステムは確かに無茶があります。しかしシステム理論上の欠陥ではなくて、計算機のない時代の大まかな累進課税方法に問題があるのです。しかも不当に高い足切り額も気になるところです。今回は特別減税が実施されたとはいえ、子供2人の平均世帯で約500万円以下の所得の人は所得税が免除されています。サラリーマンの3人に1人が所得税を払わなくて良いのだそうです。これを有り難いと考える人はどこか異常です。自分が行政サービスを受けているのに、それに見合う程度の税金を納めないのは変だと思います。ODAや土木工事は、お金持ちの税金で勝手にして下さい。しかし国民一人一人が受けている行政サービス程度のコストは個々人で負担するべきではありませんか。
55年体制下では社会党と自民党の馴れ合い政治が展開され、社会党が名目の、自民党が実質の果実を得るために最低課税所得(課税最低限ともいいます)を引き上げてきた経緯があるそうです。欧米では100万円〜200万円程度なのに日本はその数倍です。そのために税金を払わなくて良い国民が増えているのです。日本人は政治に無関心だと言います。とくに若者は顕著だと言われています。当然でしょう、若者は高水準の最低課税所得のお陰で税負担の痛みが少ないので、自ずと政治に無関心になるのです。現在の年功序列制から考えれば若者の給与は絶対的に低いのですが、独身であれば生活に困窮するほどでもありません。相対的に可処分所得が多いのですから、最低課税所得は欧米並に引き下げて若者からも徴税するべきなのです。国民一人一人が公平に税負担した上で、お金持ちには余分に税負担をお願いするのが筋ではないかと思うのです。
小渕新政権では全く逆のことが議論されているようです。最低課税所得は現行据置き、さらなる恒久減税の実施、最大累進課税率を50%にするとしています。しかも代替財源は見つからず赤字国債で実施するのだと、言うのです。借金で減税したならば問題の先送りでしかない。財政均衡も大きく崩れる。そんな基本を省みず、ただただ人気取りに徹している政治家たちはバカばっかしです。もしも財政が行き詰まったら増税をしなくてはいけませんが、増税はそのまま政権の命取りになります。今一時的な人気取りのために減税に踏み切っても、将来のダメージを拡げるだけなのです。まず、減税は見送って赤字国債の圧縮に務めるべきです。こんな無謀な減税は恒久に続かないから、恒久減税という呼び方は止めて欲しいです。むしろ最低課税所得は引き下げて徴税額を増やした上で、みんな公平になるような恒久減税をして欲しいです。
98.08.09
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補足1
所得税の最低課税所得の比較データがありましたので、ご紹介します。
日本は361.6万円、米国は267.4万円、英国は119.1万円です。ドイツとフランスは350万円前後で日本と同水準です。ただし今回の特別減税で日本は標準世帯で491.7万円にまで跳ね上がりました。家族の頭数で定額減税を行ったことが原因です。また最高累進課税率が米国は46.45%、英国は40%(地方税を除く)だそうです。比較データだけでは日本の税制はいびつなようです。(読売新聞朝刊5月23日の記事から一部引用)
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補足2
本文中の「大まかな累進課税方法」の話を補足します。現在の所得金額と課税率との関係は、曲線状でなく階段状に設定されています。そのためしきい値前後の所得の人は寄付をするなどしてしきい値以下になるよう調整するなどしています。そうした調整ができない人から見ると税負担の不公平さが目立ってくると言うことです。現在のように計算機が普及すれば、所得金額と所得税の関係を定義する曲線を二次関数等で与えることは容易になりますから、不自然な調整をすることもなく、ある程度税負担の公平性も担保できるのではないかと考えています。
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補足3
話は変わりますが、参院選で消費税3%へ引き下げ、最低課税所得の引き上げを主張した先生方、あなたたちは政治家を辞めなさい。国民は納税義務を負うと同時に納税権を担保しています。貴方たちは何の権利があって納税権を取り上げようとするのです? 私たちを政治の世界から遠ざけて何をしようというのですか? 先生方ご自身で現在の危機的状況が理解しない上での公約でしたら、無知を恥じて辞めるべきです。理解した上での公約でしたら、公僕たる資格がありませんから、不明を恥じて辞めるべきです。
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補足4
本題とは外れますが、消費税の滞納額が7,000億円を上回っているそうです。不況の影響と、取立の甘さが手伝って、滞納額は年々拡大しているとのことです。税負担の不公平感を解消するためにも、抜本的な改革を望みます。
会計検査院は国税当局の対応が不十分であると指摘しましたので、国税庁は各省庁や地方自治体が実施する入札資格審査の際に、消費税の納税証明書の添付を義務づけるのだそうです。全体としては微々たる効果でアリバイ確立とも見えますが・・。
99.11.29
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補足5
消費税の滞納は、一向に解消される様子がありません。1989年の導入以来一貫して増加していますが、補足4に記載のとおり7,000億円にも達しています。これは新規発生滞納額の約半分の水準です。10年前に問題となった法人税の滞納は、バブル企業の消滅もあって圧縮されています。申告所得税や源泉所得税の滞納も相変わらずありますが、消費税が群を抜いています。また、累積滞納額も年々膨らんでおり2兆円に迫る勢いだそうです。
#N決算での消費税額は51兆円。国税の20%弱を占める巨大財源であるだけに、その益税問題は早急に解消される必要があると思われます。
01.06.03
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補足6
補足1の補足です。税制改革の一環として配偶者特別控除が廃止されることに伴い、所得税の最低課税所得が引き下げられます。夫婦に子供2人のモデルでは、現在の384.2万円から325.0万円へ下がります。同じモデルで諸外国と比較すると、独408.1万円、米336.0万円、仏317.4万円、英148.1万円となるそうです(2002年1月時点。為替変動要因を含む)。地方税についても配偶者特別控除が廃止されるため、同じモデルで325万円から270万円に下がります。
結果的に単純増税となって好ましくありませんが、税負担の公平性の観点では一歩前進の感があります。
02.12.29
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