カミテ と シモテ

 知人から、演劇関係のサイトをしているなら、芝居用語をもっと使うべきだと言われます。いつかも書きましたが、古典芝居ならともかく、ミュージカルに日本の芝居用語を持ち込む方が不自然だと・・常々思うのであります。

本場でも通じます?

舞台関係者は、共通の暗号を使うことで仲間意識を強めるようです。使う言葉で、キャストやスタッフの舞台歴が分かるということらしく、素人には分からない言葉を使います。「バミル」「キエモノ」「ブタカン」「ナラク」だの言われても困りますね。「コケラオトシ」や「センシュウラク」なんて、いかにも古風ですし。。。

普通は、ベテランがいる中に新人が参加して、キャストやスタッフが育っていくわけです。ベテランが芝居用語を使っていると、新人も憶えて使う必要があります。その新人が中堅になり、次の新人にも芝居用語を憶えさせる構図になりますか。自分たちで由来の説明をできない言葉も平気で使うので、困りものでしょ。

近頃は、欧米劇団の来日公演も多いです。彼らには、彼らの芝居用語があるわけです。そして、どちらがメジャーかと言えば、もちろん欧米劇団ですよね。ブロードウェイ物を上演するのであれば、ブロードウェイの「しきたり」に従うのは当然ですから、ブロードウェイで通じない用語をブロードウェイ物で使うのはどうでしょうか。使うなと言いませんが、日本の芝居用語に拘るのも苦しくないですか?

カミテ&シモテ

一番に言われるのが、「カミテ」と「シモテ」です。コラムで「右手側」と「左手側」(舞台を客席から見ての話)などと書くために、素人呼ばわりして下さる方もあります。

しかし英米では、「カミテ」を「ライトハンド(右手)」、「シモテ」を「レフトハンド(左手)」と呼びます。どちらが正統派でしょう? そもそも舞台を「カミ」「シモ」で呼び分ける理由を知らない関係者も多く、「そんなの常識じゃん」で済まそうとする人もありますね。

それとは別の理由は、漢字で書くと誤解を生じやすいことです。「上手」と書くと、「ジョウズ」と読むのが一般的。「下手」と書くと、「ヘタ」と読むのが普通ですよね。とくに「下手」という表現が出てくると、読者の皆さまが「この劇団でヘタクソなんだ」と誤解しやすいわけです。相撲好きが「ウワテ」とか「シタテ」と読んでも困りますし(ウソです)。

 蛇足ながら、「カミ」「シモ」の由来を。古くは、室町時代。京都に多くの芝居小屋が掛かるようになった頃、舞台の左右を呼び分ける必要から、舞台から客席を見て、左手を「上」、右手を「下」と決めたそうです。つまり、客席から舞台を見ると、右手が「上」、左手が「下」ですね。
 当時は、中国の伝統を受け継いで、「左が上位」。左大臣が右大臣より偉く、男雛が左で女雛が右(京雛の場合)であるのと同じ理由です。英米人がこの理由に納得できるなら、ミュージカルで使っても問題ないのでしょうけれど。