シンプルがお好み?

ミュージカルは娯楽芸能、しかし哲学は必要、なおかつオリジナル、というのが当サイトの評価基準です。哲学というと重苦しいですが、要するに訴えかけたいことですから、シンプルであることが必要でしょう。

限りある時間

ミュージカルの公演時間は、概ね2時間が基本です。幕間に休憩を挟んでも、2時間半がせいぜいでしょう。多くの作品では、この原則が守られており、格別に観て疲れるということは感じません。これよりも長い作品、劇団四季や東宝の作品には少なからずあります。観て疲れてしまいますが、そこは作品の魅力次第でしょうか。

わずか120分余りの時間で、全てを伝えることは難しいです。背景を伝え、結末を迎えるまでに、いくつかの山場を用意するのが一般的です。ミュージカルでは、ソングやダンスがあるために、そうした時間を除いてのシナリオ作りが大変でしょう。そう考えると、シナリオを不用意に複雑にするのは考え物です。娯楽芸能であることも考慮すると、シナリオはシンプルを基調とし、必要な部分に必要な時間を配分するべきです。

複雑にすることの意味

ところが、意味もなく複雑に仕立ててしまう作品が少なくありません。現在と過去、現実と非現実、主人公Aと主人公Bなど並行したシナリオを複雑に絡める作品を見掛けます。一つにはステージングの都合があり、シーンを交互に絡めると、登場人物が出ずっぱりにならずラクになることが理由です。とくに登場人物が多い作品に、こうした傾向がありますが、観客には負担が掛かる作品です。

また伏線を張りたいのだけれども、一作品で一貫した伏線を張るのは面倒です。目先で伏線を絡み合わせて、何となく厚みや深みを表現しようとしている作品も見掛けます。これはシナリオライターの技量不足の面もあるわけですが、伏線を張りすぎたものの、脚本家も忘れてしまうシナリオ、脚本に手を入れるウチに辻褄の合わなくなるシナリオもあります。

シンプル・イズ・ベスト

要するにシンプル・イズ・ベストだと思います。確かに、絡めることで作品の厚みや深みが増している作品もありますが、そこは程度と限度があります。どんなシナリオでも輻輳させれば良いというものでも無いでしょうね。よほどの技量がなければ難しいと考えるべきではないでしょうか。

また原作ミュージカルに多いのですが、原作が用いている構図をそのままミュージカルのシナリオに適用してしまう問題があります。小説であれば、1冊を読み切るのに要する時間は数時間以上でしょう。数時間以上の世界では、多少の伏線の絡みや、シナリオの複雑さも、読み手に負担を与えるものではないです。何よりも読み返せますし、自分のペースで進行する利点があるからこそです。

限られた時間と場所と人を使うステージとは違うのですから、キャストやエピソードの取捨選択や、必要に応じてストーリーを改変することも許されるでしょう。小説を原作とする映画などに同様のことが言えます。

脚本家には苦にならないであろう上演時間ですが、観客には苦になります。観ていて楽しい作品は時間を忘れさせて呉れるものです。それでも全ての観客が楽しめるかどうかは別ですので、限られた制約条件のもとで、できる限りシンプルで分かりやすい作品作りをお願いしたいです。