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経済の研究No.179
ダイエーの御家騒動

 ダイエー研究家を自任するポン太は、本コーナーで何本かのダイエーレポートを掲載しているところです。中内会長兼社長(当時)にレターを送った時代もあり、ダイエーの研究と題してもいます。さて、今秋にわき起こったダイエーの御家騒動は、あっという間に収束してしまいました。

■ 内紛か否か
 今回の御家騒動は、流通の巨人であるということもありますが、非常に多くの雑誌が誌面を割いていました。単体売上高ではセブンイレブンに抜かれ、その少なすぎる収益力では批判の多いところですが、日本経済の動向を見極める上で、重要な意味を持つものと注目されているわけです。それにしては、お粗末な事件でしたが・・果たして表向きだけを捉えて良いのでしょうか? 詳細な展開は週刊誌等を参照していただくとして、簡単にお浚いをしてみます。

 まず社内の倫理を改めるとして特務委員会が設置された。委員会は、鳥羽社長と川副社長が無届けで系列企業の株式を購入していることを掴んだ。その委員会の報告は意図的にリークされ、当事者は事実関係を肯定した。委員長の佐々木副社長が辞意を表明したが、慰留された。鳥羽社長と川副社長が辞意を表明したが、結局は取締役への降格に落ち着いた。中内会長も辞任するが最高顧問として代表権を持つと宣言した。佐々木副社長の留任が決まり、社長代行に就任した。中内最高顧問は代表権を返上した。
 以上のような経緯であります。また次期社長含みとして、リクルート再建に手腕を示した高木氏を特別顧問に迎えています(株主総会で未選任のため)。
 一見すると、明らかな権力闘争の結果と見えます。会長派と社長派が争った末の、両者痛み分け・・。しかし、不自然であります。金融機関の要請があったとは言え、社長派(あればですが)が会長派を追うべき明確な理由がありません。そもそも会長から招聘されて日も短く、所詮はオーナー会長に適わないことを知っていて、古巣でも内紛の末に社長を追われた経歴を持つ、もはや二代目の潤氏への禅譲も望まれていません。その時点での闘争は、よく見えません。

■ 公約のタイムリミット
′獅ノ公表される予定だった次年度計画に理由があるという見方は、全ての記事において一致したものでした。当初1兆円の有利子負債削減を掲げていたダイエーが、リクルート株やローソン株での見込みを誤り、その他関連子会社の上場や資産売却が進まず、計画未達成であることは間違いありませんでした。また目前に、ダイエーファミリー企業のDHCが連結される見通しという悪材料もありました。
 計画未達である以上は、さらなるリストラや、中内ファミリーの切り離しを打ち出す必要があったのは間違いありません。中内会長の棚上げ(代表権返上など)も選択肢にあり、その巻き返しが内紛の原因とする説が多々ありますが、少し不自然です。今期早々から中内会長は代表権返上を口にしていたそうです(本心は不明です)し、棚上げすることでDHC問題が決着するわけでもありません。実際のところ、DHCの整理は数年先延ばす方が、ダイエー本体にも有利なのは間違いないです。加えて東海=三和連合の影響で、一転して負債圧縮計画の緩和が許される可能性があります。謎であります。

 現状のダイエーグループにとって見れば、もはや有利子負債の圧縮は苦しい段階にあります。ローソンを丸々手放すにしても、ダイエー本体の経営不安で株価は暴落状態にあります。現在の利益水準や今後の成長性を見れば、株価は現在の2倍でもおかしくないのですが、連想効果が大きいと見られます。ここで全株放出したところで、焼け石に水であります。メーンバンクがダイエーを解体して旨味を得ようとしているとも過去書きましたが、そごう・セゾンの例を見るように、銀行や商社主導では丸損しかねないことに気づいてもいます。もはやダイエーは現状維持での業績回復に期待する方がメリットあり、とエコノミストの評価も変わっています。
 とはいえ、今期にもっと具体的で現実的な再建計画の提示を迫られたのは間違いありません。期初の公約を達成できなかった以上、市場はより厳しい見方をしてくるのですから。それを回避する唯一のカードが、トップの混乱であります。内紛を演じてみせることで、トップを空席にし、その間に金融機関の理解を得る。つまり、これ以上の債務圧縮は棚上げでも良いとのコメントを貰うわけです。切り札は、株価の大幅下落と、売り上げのさらなる減少、そして民事再生法ほかデフォルト可能性の示唆・・。

■ 筋書きは、当初通り?
 何はともあれ、金融機関の支持が厚い鳥羽社長が、どうすれば前線から下がれるのか、これが至上命題であったはずです。鳥羽社長がある限り、多少の遅延は許される一方で、ダイエーとしても多少でない譲歩を示す必要があります。故に、社長の首をすげ替えるのが早いでしょう。代表権を持つのは4人ですから、他の3人から選抜することになります。それは、中内会長、川副社長、佐々木副社長。中内会長の復帰はあり得ませんし、両副社長も会長直系のイメージが強く、グループ企業のトップでもありましたが、金融機関の受けは良くないと聞いています。ちょっとやそっとでは、鳥羽社長の交代は理解が得られません。
 そこで事前に用意されたのが、スキャンダルでは無かったでしょうか? 鳥羽社長がダイエーOMCの株式売買で1,500万円近くを儲けたらしいという事件でした。単なる噂でなく、委員会の調査結果という形で否定できないスキャンダルでした。しかし、あまりに出来過ぎた話です。川副社長も取引に噛んでいたという発表ですが、川氏はマルエツ株の売買では、正規の届け出手続きを踏んでいたそうです。中内ファミリーも同様だとされています。なぜ今回に限って無届けの売買をし、それを調査し、さらにリークさせたのか、怪しいです(そもそも取引の事実は外部から分からないのですから)。

 役員が自社株や系列株を購入することは悪い話ではありません。自身の経営に責任を持つ意味で価値がありますし、ストックオプションよりも責任意識が違ってくるので良いと思います。たとえ値上がりを知って購入したのであっても、退任まで持ち続けるのなら問題ないはずです。それを他人の勧めで売ってしまい、利益を確定させてしまいました。利益は寄付に回されたと公表されていますが、これがインサイダー取引と認定されると、利益はダイエーOMCに返却されなくてはいけません。なんのために、誰の指示で売却したのか、ここに作為的なトラップが感じられます。
 その後も、鳥羽氏や川氏は値上がることを知り得なかったなどと、苦しい弁明を広報がしていました。本来の内紛であれば、ここは知り得たことに仕立てて追放劇に持ち込むはず・・取締役に降格とは生ぬるい処分です。降格であれば、いずれ正規の退職金で穴埋めできますし、復権の余地もあります。初めから逃げを作った上での一芝居と見るのは、いかがでしょう。

■ むすび
 以上は、ポン太の勝手な仮説です。必要なことは外面であって内面では無いわけですから、無駄な仮説であります。しかし、もしも意図的に作為的に経営の混乱を招くようなことが行われたのであれば、そこへの投資は控える方が良いでしょう。株価は暴落しましたから、破綻しないことを前提に買い支えるのもの選択でしょうが、それは投機であって投資ではありません。言い換えますと、投資家失格のギャンブラーです。作為がなくとも、ダイエーの経営陣は、失格だと思いますが・・。
 もしも筋書きがあったとして、もう一点だけ気になることがあります。佐々木氏の辞任騒動は、どこまで織り込まれていたのかです。心証としては、中内顧問のみが代表権を持ち、他の三人は代表権返上の上で取締役降格・・ではなかったかと思います。上場企業として、会長・社長不在で顧問のみが代表権を握るなんて、許される事態でありません。それを回避するために、佐々木氏が復任し、中内氏に代表権返上を迫ったと考えたいです。
 本来なら、まず臨時株主総会を開いて、新体制の即刻承認を受けるべきだと思いますが・・来年5月まで暫定体制なんて呑気なことで、良いのでしょうか?

00.11.05

補足1
 2000年度中間期は、大幅なリストラ効果が貢献して、数年ぶりに業績の下方修正無しと成りました。中間期の営業利益64億円、経常利益は15.5億円だったそうで、まだまだ道のりは遠い印象です。
′�14日の日本経済新聞朝刊によれば、家賃引き下げや販促費削減など店舗・本部経費で100億円の削減、運送委託料のなど物流費で27億円削減した結果であり、純粋な売り上げ改善では無いとのことです。まだまだ絞る余力があるのかないのか、今後に注目されます。また人員は出向社員の転籍を積極化することで、1,469人削減するともあります。店舗は引き続き閉鎖する方向で、かろうじて300店舗のラインは維持するものの、中間期の売上高は1兆円を9年ぶりに割り込んだそうです。
 赤字店舗の閉鎖という後ろ向きな対処だけでは先行きは危うく、経営陣の体制一新や中内ファミリーの負の遺産の精算など、積極的な試みが必要でしょう。また魅力が少ないと言われる商品・店舗構成の改善、企業イメージのアップなど優先的に着手すべき問題は多いようです。

00.11.11

補足2
 日本経済新聞11月22日朝刊の記事によれば、ダイエーは新3か年計画を策定中とのことです。いつもの先走り報道なので、話半分で聞いておく必要がありますが、これによればダイエー本体はOMCを除く全ての子会社を売却するとのことです。子会社で債務超過のものは売却できないため、中内ファミリーが100%出資する会社へ全て売却し、ダイエー本体事業とファミリー事業とを完全分離するとのことです。
 これが実現可能なのであれば、本文のような御家騒動も要らなかったのですが、果たして纏まるかどうかです。主要4行は、上記案に賛成とのことですが、不振企業ばかり集めたファミリー企業に1兆円以上も継続融資できるのかどうか、分離後のファミリー企業精算は説明が着かないでしょう。難しいところだと思います。
 日本経済新聞の記事にいう本業にはどこまで含まれるのか分かりません。マルエツやセイフーなどスーパーマーケット事業を残すのか吸収するのか明確でありません。またローソンの保有株(発行株式数の30%)の全株を放出ともありますが、これはダイエーの将来性を完全に摘んでしまうため、本業を棄ててでも死守すべきと思いますが・・。OMCには銀行系カード事業会社が買収を狙っているとの報道もあります。

00.11.23

補足3
′�24日、大胆な再建計画「フェニックスプラン」が正式発表されました。
 ダイエーは、DHCを含む子会社45社を新たな連結対象に加えるとともに、その整理に3,100億円の特別損失を計上するとしています。主力四行は1,200億円規模の第三者割当増資(優先株となる方向)を引き受けて、ダイエー本体の債務超過を回避するとともに、2,000億円規模の融資枠設定(ダイエー側は5,000億円枠を要請)に応じると発表されています。加えて、来年5月の定期株主総会を待たず、1月にも臨時株主総会を開いて、高木顧問を社長に選任しする。同時に、中内最高顧問、鳥羽取締役ともに退任して経営陣から外れるとのことです。
 株式含み益が1,500億円あり、これを吐き出すようなコメントもされたため、補足2のような優良子会社売却の観測もあります。しかし、不良子会社群を整理し多額の膿を吐き出すことから、一応主力行の理解は得られる模様です。人員削減は、本体とグループ会社のそれぞれで2,000人の計4,000人に拡大し、新たに32店舗の閉鎖を決めたそうです。縮小均衡になりますが、金融機関の大幅な支援を取り付けることで、大きく前進する模様です。
 これまで中内氏には銀行頭取でも太刀打ちできないと言われ、鳥羽氏も豊富な財務知識を動員して対等の交渉を続けていたとされますが、今回の再建計画によれば、かなり銀行管理の面が強くなります。非常に惜しいことですが、これにより巨大流通の草分けが名を残すことに意義を見いだしましょう。

00.11.24

補足4
 上記発表を受けて、24日の株価は一次ストップ高を記録しました。思い切った計画の発表、中内ファミリーとの決別、金融機関の積極支援、ようやくダイエーにとって望ましい形ができあがったようです。再建へのエールを送ります。

00.11.24

補足5
 ダイエーは、立て続けに新人事を発表し、グループ総力を挙げての再建を打ち出しています。新社長となる予定の高木社長は、1980年代にV革と呼ばれるダイエー再建に取り組んだメンバーであった平山氏(系列外スーパー社長)を副社長格で呼び戻し、会長に通産省OBの大物を据える予定です。
 しかし、前途は多難であるようです。(1月に安値で売却してしまった)リクルート株式はリクルート子会社から金融機関へ高値転売との噂があり、東海観光に売れたはずのOMC銀座ビルが契約不履行でチャラに成りました。また高山氏が、ダイエー取締役を退任した1999年に、退職金を前払い支給されていたという疑惑(またかよ・・)が撒かれるなど不穏な雰囲気が漂っています。
 さらに、中内前会長の処遇の問題も上がっています。中内氏は、ローソンの代表取締役顧問と、フォルクスの代表取締役会長と、球団ダイエーのオーナーを全て退任すると発表しています。ダイエーの取締役退任に伴い、他のグループ関連の要職も退くと見られますが、その退職金問題が大きな課題です。ダイエー本体だけで30億円、グループ全体で50億円とも言われる退職金の受け取りを、中内氏は辞退したそうです。
 ただし請求権を放棄したわけでもなく、「経営状況が好転するまで」という条件付きで、身分もファウンダーという半端な役職で処遇し影響力が残るようです。10億円程度の最終黒字のダイエーに、中内氏の退職金を支払う余裕はなく、仕方のない選択だったと報道されています。常勤取締役8人のウチ5人が退任する予定であることから、金融機関も承諾したようです。

00.12.30

補足6
 ダイエーは、中小型の食品中心店舗を分類し、GMSなど大型店主体の経営に専念する方針を打ち出しました。社内カンパニー制を1月に廃止して本部直轄制に戻し、中小店56店舗を系列スーパーに譲渡する方向での調整ということです。関東圏店舗をマルエツに、関西圏店舗をサカエに譲渡し、食品スーパーとの切り分けを明確にする模様です。同じく関東圏のセイフーをマルエツに統合するとの報道もあり、マルエツが日本最大の食品スーパーに躍り出る可能性があるそうです。しかし、マルエツの筆頭株主はダイエーから丸紅に変わる予定でもあり、スリム化と引き替えに求心力低下が心配されます。

01.01.21
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