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経済の研究No.108
預金金利は高くできる

 銀行の預金金利は一向に上昇しません。日本銀行は政策金利をゼロ金利に誘導しています。金を借りても金利を払わなくても良いなんてマヌケな政策です。日本銀行は、長期金利が低水準で下げ止まっていることや、株式市場に資金が流入して市場が活性化したことを取り上げ、政策の有効性を主張しています。しかし、本気なのでしょうか。低水準であって一般国民が得をするのは住宅ローンぐらいですが、地価下落が止まらない限り喜んでばかりも居られません。それに、借金をする者だけが儲かる社会っておかしいですよね。

■ 低金利は誰を救済する?
 低金利であれば、有利子負債の大きい企業が得をするはずです。しかし有利子負債の大きい企業ほど、低利への借り換えに制約が掛かり、メリットを享受できていないのが現実です。そもそも金利が払えないほど苦しければ、従来通り債務免除を申請するか金利減免を申し出れば良いのです。彼らが低金利の長期化を望んでいるとは思えません。
 事業拡大中の企業は、社債発行などで低利資金を調達しています。しかし近頃は有利子負債やキャッシュフローが企業経営の指標になり始めたこともあり、それほど積極さも見られません。国内企業で低金利のメリットを享受しているのは、ごくわずかでしょう。
 例外は消費者金融業ですね。消費者金融の上場大手各社は、最近年利3%で資金を調達して年利25%で融資しているそうです。このため経常利益が続伸して絶好調です。とくに低利で資金調達ができるようになった上場大手6社による市場寡占化は進行しており、6社合計のシェアは70%を越えるそうです。消費者金融を肥え太らせる為だけの低金利政策では悲しいものです。消費者金融も社債発行が解禁されることですし・・・そろそろ低金利で優遇する必要もなくなるでしょう。
 銀行を救済することが最大の目的だったはずですが、大手銀行は公的資金の注入を受け入れるまで追い込まれました。低金利政策は、銀行の体力回復にほとんど役立たなかったのです。景気は冷え込む一方で貸出先は相次いで破綻し、不良債権の処理が追いついていません。低金利誘導が経済を停滞させたのは間違いなく、銀行は低金利によって首が締まったと見えます。早くから逆ざやで喘がせておけば、もう少し体力のあるウチに大胆なリストラに取り組んだのでしょうが・・・。

■ 高金利は提示できる
 大手銀行が現在提示している定期預金の年利は一律0.12%です。10万円を1年間預けても100円の金利さえ付きません。消費者金融なら10万円を1年間貸し出して25,000円の年利を稼ぐというのにバカな話です。大手銀行は消費者金融に最低でも年利3%の金利を提示しているのですから、10万円の預金から最低でも3,000円は稼いでいるはずなのですけれど、高コスト体質から脱却できないため利益に結びついていないのですね。
 ところでオリックス信託銀行をご存じですか? オリックスが山一證券の子会社信託を買収し、現在の名前に改めたものです。このオリックス信託銀行が4月9日に発売した「ダイレクト預金」は、わずか1週間で10億円を集め、1か月も経たないウチに100億円を集めました。その金利は、1年物で年0.50%〜0.75%です。たかが年0.38〜0.63%高いだけですが、話題が話題を呼んで多額の資金を調達しています。オリックスのリース資産の利回りから見れば破格の低利調達資金ですが、わずかな金利差でも資金シフトが進むことを示した功績は評価できます。
 高利を提示するのは簡単でしょうが、高利が提示できる理由を説明しなくてはいけません。オリックス信託銀行は、電話やインターネットで申し込みを受け付けるようにしたため、省力化が進んで高金利が提示できるようになったと説明しています。省力化によるコスト削減だけでは無理な数字だと思いますが、発想は良いですね。高利で多額の資金を集めたと言うことでマスメディアが積極的に取り上げていますし、宣伝費も節約できたわけです。見事な戦略ですね。
 さらに先日、オリックス信託銀行は業界団体「信託協会」から脱退しました。準会員の会費が高くて無駄だからという説明でした。その年会費は530万円ですから100億円の資金に対して年利0.05%を積み上げられる計算です。530万円と言えば行員一人の年俸にも満たないのですが、この発想も良いですね。国内信託銀行は全国銀行協会にも加盟しており、こちらの準会員会費は年15万円。信託協会の活動ははっきりしませんから他の信託銀行も見習って脱退し、コスト削減に取り組むべきです(協会に天下っている大蔵省OBの方々には災難ですけどね)。
 コスト削減の成果を見せ少しでも高金利を提示する姿勢を、大手銀行にも持って欲しいところです。運用する資金量が違うなどの言い訳は通用しません。ゼネコンといえども一私企業です。一私企業に数百億円単位の債権放棄をする一方で、預金金利を0.1%でも引き上げられないという理屈は許されません。株主に配当を出す前に預金者にも報いるべきです。何しろ赤字決算なのですから。

■ 資金シフトはこれから
 今回のオリックス信託銀行の成功は、大手銀行には蜂の一差しに過ぎないでしょう。たかだか100億円の資金シフトですが、これが蟻の一穴に成らない保証はありません。
 貸し渋りで資金繰りの厳しい企業は沢山あります。今は様子を見ている段階でしょうが、オリックス信託銀行の快進撃が続くようなら、同行から資金を調達したいという企業が増えるでしょう。ほかにも経営が安定している独立系ノンバンクや、中堅地銀が同様の手法を展開してくる可能性もあります。同様の手法を採用する金融機関が増え一般的な手法として確立されれば、大手銀行の預金は雪崩を打って逃げ出すでしょう。その時点で慌てて高金利を提示しても、資金シフトに勢いが付けば止められません。
 いい加減に預金者軽視の姿勢を改めることです。銀行預金者に報いる最良の方法は、預金金利を引き上げることです。粗品や懸賞ではありません。まず高金利を提示しましょう。どう運用するかはそれから考えても遅くないでしょう。黒字経営ながら倒産に追い込んでいる取引先は沢山あるでしょう。資金さえあれば成長するベンチャー企業も沢山あるでしょう。そろそろ担保万能融資のスタイルを捨てれば、いくらでも高利で運用できる相手は見つかりますよ。本格的な資金シフトが始まる前に、高金利を提示しましょう。

補足1
 近頃は保険の申し込みも電話やインターネットを活用するようになっています。外資系を中心に低コスト高保証という新商品を売り出し、シェアも拡大しています。外交員による人海戦術で拡大してきた大手生保・大手損保は、遠からずジリ貧に追い込まれるでしょう。同じような現象が銀行に起きない保証はありません。

99.05.05

補足2
 ゼロ金利に誘導するという点を補足します。銀行は翌日物無担保コール市場で短期資金を調達する必要があり、資金の借り手である銀行はリスクに応じた金利を出し手に支払います。その金利レートをコールレートと言います。そのコール市場に日銀がじゃぶじゃぶ資金を提供しているため、コールレートは0.03%以下に成っています。取引は短資会社が仲介して手数料0.02%を徴収するため、資金の出し手が得る金利は0.01%以下です。これがゼロ金利への誘導です。
 これまでは地銀や生保など機関投資家が出し手に成ってきましたが、0.01%では運用益とは言えません。結局は資金を遊ばせられないので、タダ同然で都銀に資金を提供して運用難に陥っています。本来ならリスクの大きい銀行に高利で貸し出せるところを、日銀が邪魔をしているわけです。
 日銀は「貸し渋りは銀行が資金調達に慎重になっていることが原因であるから、潤沢に資金を提供すれば思い切った融資に動くだろう」と判断をしていますが、金融監督庁マニュアル問題など政治的な問題が絡んで実効は上がっていません。そのほか銀行は、調達した資金を日銀への準備預金の積立てに回しているともいい、余資の一部を株式の買い戻しにも当てている疑いがあります。また日銀は、コール市場での運用を諦めた機関投資家が株式など高リスク高リターン市場へ資金をシフトすることも狙っているとされます。現在の株式市場の好調はゼロ金利政策の結果だと説明されるのは、このためです。

99.05.05

補足3
 消費者金融業の社債発行が解禁される点を補足します。これは5月20日に施行される「金融業者貸付業務社債法(通称、ノンバンク法)」のことです。これまでは出資法により、社債の発行は設備投資という使途にのみ認められてきましたが、資本金10億円以上で金融再生委員会に登録している業者には、貸付資金を社債によって調達することを認めるものです。銀行からの借入に依存するよりも低コストで調達できる社債に途を得ますが、同時に貸付金利引き下げや与信審査の適正化について金融当局の指導・監督を受けることになります。メリットを享受するのは大手消費者金融ですが、合わせてリース会社なども享受できます。例えばトヨタ自動車系の金融子会社が社債発行を計画しています。

99.05.05

補足4
 長崎県民信用組合(本店・長崎県佐世保市)が、ユニークな預金を行って成功を収めているそうです。三角普通預金というもので、1994年末から導入し現在も3〜4%台の高金利を誇っている商品です。信組の高金利と言えばコスモや木津の悪例がありますが、同組合の場合は独自に手掛ける消費者金融がその強みです。
 本来の事業金融を放棄し、多重債務など高金利に悩む債務者の債務一本化を図る代わりに年利12%(実績に応じて減額)で融資することで安定した収益を得ているそうです。広告も使わず集金も行わない代わりに高金利を実現しているという面もあります。一応、第122回の補足4もご覧下さい。
 要するにコストを使わず、高利で回せる融資先を確保することが、高い金利を提示できる唯一の方法だと言うことですね。

99.10.09

補足5
 イトーヨーカ堂グループが銀行子会社を持つ可能性が高くなりました。コンビニATMを模索していたセブン=イレブンを中心に、日債銀もしくは日債銀の系列信託を入手して銀行業務を手掛ける模様です。事業会社が銀行を買収した場合、その銀行が事業会社に優先的に融資して、場合によっては焦げ付きを作る可能性がありますが、モラルハザードさえ維持できれば、事業会社は安いコストで資金調達でき、かつ預金者も多い金利を稼ぐことができます。
 これまでの銀行主体の間接金融では、銀行が自分で設定した利幅を取ると共に、自らの高コスト体質による応分のコストを、事業会社と預金者に強いてきました。その結果、タダ同然の超低金利になっているわけですが、事業会社が銀行を逆買収するようになれば、事情は変わってきます。
 ただ気になることは、今回の日債銀買収は、ソフトバンクが主導であると言うことです。それでなくとも株式流通量を制御して、子会社株価を高止まりさせ、巨額の含み益経営を行っている同社の場合、同社の戦略がもしも行き詰まると、日債銀全体が吹き飛ぶ危険を生みます。公的資金を注入して再生される銀行だけに、事業会社のエゴで道連れにされることだけは回避しなくては行けません。
 巨額の資金を必要としている事業会社が、銀行を買収することには一定の歯止めが必要でしょうか。

99.11.19

補足6
 オリックス信託銀行は、投資信託の受託業務から撤退して信託業務の縮小に動いているそうです。専ら銀行業務に重点を拡大する一方で、名称と実態が合わなくなったとして「オリックス銀行」に改名するのだそうです。
 インターネットや電話を利用した店舗外預金業務を手がけ、名称も銀行にすることで一般顧客の拡大を図る模様です。現状では、オリックス信託銀行を追撃するのはインターネット銀行ぐらいで、都銀の動向は定かでありません。オリックスの強みは、不良債権や固定資産・人員など無駄な負担が無いことにあります。都銀が追撃するのは至難の業なのかも知れません。

00.03.31
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