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経済の研究No.107
リストラ時代の執行役員制度

 相次ぐリストラ発表ですが、最近目立つのは執行役員制度の導入です。日本企業は取締役の人数が過剰な傾向にあり、その多すぎる平取締役に執行役員という肩書きを与えて経営陣から切り離すことが狙いです。
 取締役はどんな末席でも役員ですから、企業戦士の誰もが憧れるポストでありました。能力が及ばないことを承知していても、会社に忠誠を誓い続ければ、いつか報われるかも知れないポストでありました。企業側もそれを承知していて、それなりの忠誠を果たした社員に平取締役のポストを与えてきました。しかし相次ぐ業績低迷、能力主義の採用、厳しいリストラ圧力の中で・・・経営に参画できない取締役は不要になったという背景があります。

■ 執行役員制度の現状
 日本企業の取締役の大多数は、社内登用者で占められています。このため、社内事情に明るく人脈も繋がっているという特長を活かして、取締役が経営判断と日常業務の遂行を兼務してきました。正しく言うならば、代表取締役と一部の上級取締役が経営判断を行い、平取締役は経営判断の追認と日常業務の遂行を行っていたと言えるでしょう。日常業務とは、経営の執行業務に当たります。このため取締役会が執行業務の報告会に成ってしまい、いつまでも肝心の経営指針が定まらないと言うことがありました。結局十分に議論もせず、実力者の鶴の一声で経営方針が安直に決められてきたようです。指針なくして方針無し・・・。
 執行役員制度は、経営の執行業務を執行委員に一任することで、取締役は経営判断に専念させようとする制度です。自ずと名目だけ取締役だった平取締役を執行役員と呼び換えてしまおうという制度です。
 日本の商法には執行役員という身分が定義されていませんから、現状では各社各様の定義が成されることになります。例えば、従業員のトップという位置づけになって役員待遇でなくなる企業があり、身分不確定のまま役員待遇としたりする企業があり、取締役の全員または一部が取締役の身分のまま執行役員を兼務する企業があります。現在のところ取締役が執行業務から開放されたとは聞こえてきません。また執行役員に経営責任が問われるのか、執行役員が株主代表訴訟の対象に成るのかさえ明確でありません。

■ 導入を急ぐ理由
 現在では上場企業のうち200社近くが名乗りを上げ、すでに50社強で導入されています。今後ますます追従する企業が増えるだろうとのことです。導入を急ぐ理由はどこにあるのでしょうか?
 当面の目的は取締役の人数を削減し、役員コストを圧縮する狙いがあります。取締役を削減するためには大量の取締役が退任すればよいのですが、経営責任を取って経営陣が入れ替わったばかりの企業が多いことや、当事者である代表取締役らの抵抗が大きいため難しいことが理由です。また退任取締役に多額の退職慰労金を支払えない懐事情も理由にあります。結果として平取締役を執行役員に就任(降格)させ、見掛け上の役員数を削減する方が簡単だということになります。
 次に企業イメージです。日本で始めて執行役員制度を導入したのはソニーです。現在大躍進中のソニーに表向きでも習うことで、自社の企業イメージ向上を狙っているのです。最近、カンパニー制導入というリストラ策が増えているのも、早期に導入したソニーのイメージに習おうとするものです。昨年は自社株消却がブームになりましたが、こうした流行に習う会社のイメージは高く、習わないイメージは低いという安直な市場評価も圧力として働いているのでしょう。
 好意的に見れば、判断と執行の分離による意志決定のスピードアップです。取締役に経営判断のみを行わせ、執行業務は完全に執行役員に移管してしまうことで、経営に専念させることが狙いです。経営判断を下す上では数十人もの取締役の存在は益なしです。例えば、さくら銀行には現在でも45人の取締役がおり、平取締役が経営判断に介在しているとは考えられません。無用な取締役会から開放し、執行業務に専念させる方が企業としてはプラスになります。

■ 今後の展望
 相次いで導入された執行役員制度を緊急避難という形にしないで欲しいところです。執行役員の位置づけを明確にし、これまでの担当役員制度に代えていくことができれば、企業全体としてのモラールは高まるでしょう。そのために必要なことは、中途半端でない権限委譲と、取締役に成れない執行役員にモチベーションを与える工夫です。カンパニー制など独立採算体制の構築と、執行役員に限定したストックオプション制度の導入が求められるでしょう。
 それから取締役及び取締役会にも改革が必要です。執行役員と権限が重複しないよう経営判断のみに専念させること、代表取締役に対するチェック機能を強化すること、執行役員らの業績評価を公正かつ公平に行う手法を確立すること、などです。また取締役が社内の細部を知る必要はなくなりますので、積極的に社外取締役を迎え、経営のプロフェッショナルによる取締役会を形成することも必須です。
 執行役員制度を導入した時点で一息つくのではなく、この不況の機会をこそ活かして、取締役制度も大きく変革してくれることを望みます。

99.05.05

補足1
#N4月現在の株式公開会社の役員数を調査したものが、週刊東洋経済の5月1日8日合併号で紹介されています。対象は日銀を除く3,293社で、名誉会長は36社36人、会長は1,288社1,288人、会長兼社長37社37人、社長3,252社3,252人(頭取含む)、副社長1,066社1,551人(副頭取含む)、専務取締役2,176社3,795人、常務取締役2,920社9,107人、取締役3,281社21,939人、常勤監査役3,257社5,264人、監査3,224社6,501人ほかであるそうです。
 広義の取締役は41,470人で、単純平均すると1社あたり13人弱となります。これを多いと見るかは論を待たねば成りませんが、ポン太は多いと思いますよ。できれば上場企業のみのデータが欲しいのですが、どなたか数えていただけませんか?
 ちなみに、4月末現在執行役員を導入しているのは、51社489人に上ります。1社平均で10人ですから大変な数ですね。

99.05.05

補足2
 ソニーが執行役員制度を導入したのは、平成9年6月のことです。取締役を38名から10名に削減し、執行役員に38名を選任しました。加えて社外取締役2名が選任されました。1998年12月までのデータですが、執行役員制度を導入した企業一覧があります。人数配分や概要が書かれていますので、本文中で舌足らずだったケースについても紹介されています。
:未承認

99.05.06
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