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経済の研究No.99
ソニー・ショック

 ソニーと言えば、今は「プレステーション2(仮称)」が話題ですが、これは子会社のソニー・コンピュータエンタテイメント(SCE)社の新製品です。DVD−ROM,USB,IEEE1394,PCカードスロットなどを搭載し、デジタル家電のスタンダード化を目指しています。その発表が3月2日でした。翌々日の3月4日には、そのCPUの生産のために東芝との合弁会社を設立すると発表し、東芝の優遇されぶりが大きく話題をさらいました。そして3月9日ソニー・ショックと名付けられた大発表がありました。
 業績不振企業が相次いで大胆なリストラ策を発表する中で、業績好調企業がリストラを発表するという衝撃が、市場に大きなショックを与えたのでした。「優勝劣敗は世の習い」ですが、その優劣差が一層拡大してしまうことに成りました。ソニーは、1998年3月期に過去最大の連結利益を上げましたが、1999年3月期は大幅に落ち込む予定です。そこで、上場3子会社の完全子会社化、事業部体制の再構築、海外拠点の統廃合、1割近くの人員削減を打ち出しました。

■ 上場3子会社を完全子会社化
 ソニーが完全子会社化するのは、ソニー・ミュージックエンタテイメント(SME)、ソニーケミカル、ソニー・プレシジョン・テクノロジー(SPT)の3子会社です。また、SMEと折半出資をしている上述のSCEも完全子会社化することになります。
 上場会社の完全子会社化は、海外ではコンパックによるDEC買収など多くの先例がありますが、国内では先例が無かったように思います。完全子会社化には全株式の買収が必要となりますが、次期商法改正案に盛り込まれる予定の「株式交換制度」を活用して、子会社株主にソニーの株式を割り当てることで買収する予定です(上述のコンパックの場合も米国の株式交換制度を活用しています)。なお、株式交換制度の適用に問題を生じた場合は、3子会社の吸収合併も視野に入れているそうです。
 SMEは売上高が横ばいであり、一株利益で見れば年々収益力が低下していますが、子会社のSCEが成長してくればシナジー効果で大化けする可能性があります。またケミカルは、磁気媒体製品の好調で一株利益が着実に増加しています。SPTは売上高を毎年1割ずつ積み上げており、有価証券売却損や海外子会社整理損が一巡したこれからは、高利益が期待されています。今回の株式交換では、現状の一株利益を目安に株式交換比率が決められていますが、ソニー本体よりも短期的成長性が見込まれる3子会社の株主にとって、成長性が織り込まれていない現在の比率が望ましくないと思います。
 また、株式交換によってソニーの単位未満株主が増加することが予想されます。単位未満株主は、そのままでも株主で有り続けることはできますが、権利行使ができませんし、自由に市場で売却できませんから、端株の買い取り請求をすることになります。結果としてソニーの株主数は減少します。3子会社に対するソニー本体の持株比率は7割近いため大きな問題は生じないと思います。

■ 事業部体制の再構築
 前項の3子会社には、これまでの分社化路線に沿った独立事業部の地位を与えるとともに、ソニー本体の事業部制を再構築して、家庭用AV、パソコン・電話、ゲーム機、半導体・電子部品の4事業本部制に再編するそうです。コア事業に整理統合し、機動的で効率的な事業部運営を図るのが狙いです。とくにSCEを取り込んで1事業本部を構成することで、重点的な戦略運用を図るのが狙いのようです。これから大きく育ちそうなSCEの経営権をSMEから取り上げるのが、今回の完全子会社化の目玉ではなかったかと思います。
 また海外に点在する事業所も、事業部体制の再構築に従って整理統合されるようです。とくに製造事業所は2割近くも削減して55拠点に集約されます。前向きな事業拠点編成という点で、高く評価できます。

■ 人員の1割削減
 残る問題は人員です。事業の再構築をする以上は余剰人員が生じるのは確実で、今後の国際競争力を高めていくためには人件費圧縮が必要です。3子会社を完全子会社化することにより管理部門のスリム化が可能であり、拠点の統合も進みます。当面は国内新規採用の抑制を行うとのことですが、現在グループに17万人いる従業員を、今後4年間で17,000人も削減するため、海外ではレイオフが積極的に行われそうです。
 ソニーは国内で最初に執行役員制度を実施するなど、人件費問題には積極的な取り組みを見せています。同時に人的資源の効率的活用を視野に入れてきています。ただし、これまで社員一人一人の個性を重視し、自由闊達な空気の中で新しいパワーを生み出してきた社風を崩してしまう可能性があります。人員リストラは、社員のモラールを下げる危険があり、余剰人員を持たないギリギリの人員構成では新しい発想が生み出されてこない危険があります。さらに今回完全子会社化される3社の従業員は、上場企業社員から非上場企業社員へ逆戻りするため、彼らの元気が損なわれないか心配です。

■ その後の展望
 今回の完全子会社化は、SCEを含む4子会社が実力を付けすぎてソニー本体から離れていくのを警戒して実施されたのではないかと、勘ぐってしまいます。SMEのミュージックソフトは、DVDやインターネットなど新媒体での普及が見込まれており、とくにソニーのハードウェアに依存しないソフトですから、あまり成長してしまう前に完全子会社化したかったのではないでしょうか。ケミカルもSPTもソニーグループ以外への出荷割合を高めており、過半数株式を保有しているとしても、不安があったのではないかとも考えます。
 機動的戦略と言えば耳心地は良いのですが、結局子会社株式を上場させてしまったことは失敗であることに気付いたということでしょうか。上場子会社を完全子会社化するメリットはあまり無いように思います。管理部門や拠点の統廃合により固定費が圧縮できるとしても一時的なメリットに過ぎず継続的な成長を望むとすれば圧縮にも限度があります。上場企業と一事業部とでは視野も戦略も違ってくるのは確実で、今回の完全子会社化によって成長持続性が損なわれないか心配です。
 今回の人員削減は積極的な雇用解除ではありませんが、新卒採用を抑制することは将来の不安を大きくするような気がします。ソニーが志向しているのは情報産業であり、それを支えるのは新しい技術力と柔軟な発想です。大幅な人余りが生じているのではない以上、極端に新卒採用を削減することは、メリットよりもデメリットを増やすと思います。多少の人的余力を担保してことは必要だと思います。

 完全子会社化される上場企業の株主や社員に大きな負担を掛ける以上は、それに見合うだけの成果を提示してみせることが必要です。またリストラで心配される社員のモラール低下にも充分な配慮をして欲しいと思います。ソニーは常に斬新な経営改革に取り組んでみせているため、本当は楽しみにしています。さて、どう成りますでしょうか。

99.03.26

補足1
 ソニーはSCEの「プレステーション2」を戦略の要に据え始めています。単なるゲーム機ではなく、汎用型の家庭用情報端末を志向しているようです。しかし家庭用情報端末の標準形態が依然として定まっていない現状では、中途半端な普及は今後のスタンダード確立の妨げになるのではないかと心配しています。今回の新機種は機能が盛り沢山ですが、家庭用機器として厳選されたという印象は薄く、ユーザー本位の設計ではないような気がしています。ゲーム機としてはある程度の普及は見込めると思いますが、現在パソコン向けのエミュレーションソフトが出回り始めており、あまり注力しすぎるのも問題があるかも知れません。

99.03.26

補足2
 補足1の補足です。エミュレーションソフトは、コネクティックス社の「バーチャル・ゲーム・ステーション」(http://www.connectix.com/)と、ブリーム社の「ブリーム・エミュレータ」(http://www.bleem.com/)です。前者はパワーマックG3仕様で、後者はペンティアム仕様です。コネクチックス社に対してソニーは訴訟を提起しています(http://www.hotwired.co.jp/news/news/Business/story/1941.html、または、http://www.hotwired.co.jp/news/news/Technology/story/1868.html)が、ソニーのオリジナルソースは使われていないらしく、旗色が悪いようです。相手が米国企業と言うこともあり、市場で圧力を加えるのも難しいようです。安価な媒体であるCD−ROMを使っていたことが裏目に出ています。

99.03.29

補足3
 ソニーは生命保険など金融事業にも手を拡げています。またゴールドマンサックスの顧問が立ち上げるインターネット証券事業に50%出資するそうです。生命保険は軌道に乗り始めていますが、メーカーとマーケットとファイナンスを上手くバランスして行けるのでしょうか。研究の素材としては非常に興味がありますが・・・ちょっと心配もあります。

99.03.29

補足4
 株式交換制度は欧米の企業買収で一般的な手法で、いずれレポートにしたいと考えているテーマです。日本でも積極的に活用することで企業再編が進むことが期待されていますが、いろいろ問題もあります。一番の問題は、交換比率の妥当性です。交換される買収側の株値が著しく低下した場合、被買収側の株主から不満の声が上がる例が多く、最近では相次いで破談しています。また積極的に過ぎるM&Aの素材として流用され、業界バランスが崩れるなどの問題も指摘されています。金融などで大きな混乱を生む一因にも成っています。
 我が国が商法改正によって対応しようとしているのは、少数株主の抵抗を排除し、煩雑な手続を観便にすることが狙いですが、本文中に指摘したように、70%近い株式を保有するソニーの一方的な意向で交換比率を押し切るなどの弊害も出るようです。日本企業は個人株主を軽視する傾向が強く、比較的重視路線を布いているソニーらしからぬ行動に疑問符が付きます。

99.03.29

補足5
 ソニーは社外取締役に一橋大学商学部の中谷教授を選任すると発表し、波紋を拡げています。国立大学の教授による役員兼任は明確に否定されていないものの人事院が異議を申し立て、内閣も不可の判断を下す模様です。極めて画期的なアイデアですが、国立大学の教授という立場では公平な立場にあるべきで、1民間企業に肩入れするのもどうかと思われます(ちなみに中谷教授は経営戦略会議のメンバーであり、社会的影響力が大きいと目される人物でもあります)。一方で与謝野通産大臣は研究職など理系公務員の兼任で有れば認めても良いとコメントをし、新たな問題を振りまいています。

99.04.01

補足6
 ソニーは法制化の準備が始まっている「第2種銀行(仮称)」の成立を待って、ネットワーク決済銀行を設立するという。ネットワーク上でのみ有効な電子マネーとする方針で、即時決済を簡単に行わせる機能を持たせると言います。話題作りに励んでいますが、最近統合・再編が始まったインターネット業界への足場を気付くことと、幅広い提携相手を見つける狙いもありそうです。投資額そのものは少額と見られますが、あまりにも派手に事業展開を始めていることに危惧が持たれます。とくに人的資源を始めとする経営資源の混沌化が心配なのですが・・・・大丈夫でしょうか? 舵取りは誰が行っているのでしょうか?

99.04.18

補足7
 SMEの99年3月期における連結純利益は、前期比12%減の318億円でした。持ち分法適用会社のSCEの収益は拡大し、その利益は358億円に上っていますから、SCEを除くと実質的にマイナス決算です。ソニーがSCEを取り込みたい理由が分かりますね。
 別件です。ソニーは4月28日、無線を使った市内通信事業に参入するため、第1種電気通信事業者の免許を申請しました。すでにインターネット接続事業、CSデジタル放送事業、企業向けデータ通信事業に進出しているとはいえ、いささか経営資源が分散しているのが気になります。また立て続けに話題を市場で撒いていることも気になりますが、今回の経常利益減少と直接関係があるのでしょうか?

99.05.03

補足8
 ソニーは6月29日の株主総会で定款に「金融業」と「電気通信業」を含む変更を加えるそうです。一連の電子マネー、証券、無線通信など事業を明確に盛り込んでいくことが狙いですが、定款変更には議決権株式数の過半数出席、3分の2以上の賛成が必要です。資金と人材を分散化させて積極的な事業展開を行っている現状を株主が追認するかどうかに注目されます。

99.06.21
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