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経済の研究No.85
失敗だった銀行国有化

 ドタバタの中で決められた金融再生法は、わずか2か月の間に、日本長期信用銀行(以下、長銀)と日本債券信用銀行(以下、日債銀)に対して発動されました。政府が一方的に銀行を破綻認定するという強権発動までされましたが、本格化するのはこれからと見られています。都銀が一巡すれば次は業績が悪化している地方銀行と第二地方銀行がターゲットになります。しかし余りに多くの銀行を国有化してしまうと、国が選任できる経営陣にも限界が生じるため、破綻行の全てを処理できるのでは無いようです。やはり従来方式の合併による救済も併用して行かなくてはいけないのでしょう。政府の愚策が招いた結果とはいえ、その尻拭いは国税であります。際限なくつぎ込まれる一方で、赤字国債乱発や財政投融資の動員にも限界が見え始めています。どうなるのでしょうか。

■ まだまだ膨らむ不良債権
 長銀を国有化して明らかになってきたことは、問題子会社は三つのノンバンクだけではなかったことです。以前から指摘されていたように、郵便ポストしか設けられていないゴースト会社が大量の不動産を抱え込んでおり、全て不良債権化していました。もはや長銀が債務超過かどうかの議論ではなく、長銀の債務超過額は何兆円か、という議論に転じています。これでは、バブル時代に社会に巣くった妖怪たちに政府自ら免罪符を発給し、尻拭いは国税ですることに成ってしまいます。これで責任追及もなし、で済まされるとすれば国民の怒りが爆発する危険があります。
 そこへ来て日債銀も強引に国有化しました。こちらは始めから不良債権が大きいことは分かっていましたが、金融監督庁による査定の結果、自己査定よりも第2分類、第3分類が多く認定され、全額処理済みとされていた第4分類まで認定されました。金融監督庁の査定が正しかったかどうかは論を待たねば成りませんが、金融監督庁の査定に従って引当金を積み増すと債務超過に転落するということで国有化宣言がされました。このまま不況から抜け出すことができなくなれば健全債権である第1分類債権が次々に悪化する可能性もあり、不良債権はまだまだ膨らむ余地があります。

■ 買い手が見つからない国有化銀行
 国有化銀行は「一時国有化」と言われているように、無期限で存続できるわけではありません。30か月以内に市場で売却するか、自力再生するか、いずれかを迫られます。30か月しても目処が付かなければ清算作業に移行することになります。現在の段階では国有化銀行から融資を受けている企業への融資は継続されています。しかし国有化銀行から継続して融資を受けるということは、他行への借り換えが難しい企業であると目されることであり、その企業の資金繰りは厳しいのではないか、と市場から不信の目で見られることになります。このため優良な融資先は次々に離脱をし、結果として灰色債権(不良債権であるとも、ないとも認定が難しい債権)を中心とした融資先が残る可能性が大きいと見られます。この結果、国有化銀行そのものの商品価値が低下して売り物にならない危険があります。
 とくに不良債権そのものは売却できないことが確実であるため、最終的には整理回収機構へ時価売却されることになります。その際灰色債権の扱いが問題になります。引き取り手が見つからなければ、やはり整理回収機構へ売却されることに成りますが、機構は融資機能を持たないため、資金回収は資産売却のみによって行われます。このため灰色債権の企業を存続させて資金回収をするという選択肢はなく、当該企業の即時清算に成ってしまいます。そうなるとますます国有化銀行の商品価値は低下してしまいます。
 最終的に売却先が見つからない場合は、国自ら受け皿銀行を設立して正真正銘の国有銀行を作るか、政府系金融機関と合併をさせるか、拓銀の営業譲渡のように多額の持参金付きで大手金融機関に引き取らせるか、といった選択をすることになります。しかしいずれにせよ、これでは売却したことには成りません。買い手は見つかるとの楽観的見通しで発動された国有化ですが、全く甘い判断であったことは明かです。

■ 失敗だった国有化
 結論から言えば国有化は全くの失敗でした。国がバックについて信用を補完するという目論見は崩れて、預金の解約が相次ぎ、新規金融債の売れ行きも思わしくなく、急速に国有化銀行の資金は減少しています。当初は余剰資金を運用して収益改善に使うつもりだったようですが、結果的に日銀から多額の資金援助を仰いで支えて貰う形に成りました。低利金融債の発行を再開した国有化長銀の場合、大部分を購入したのは政府系金融機関であるようです。民間資金からは完全に見放されてしまいました。資金力が細れば銀行としての価値は低下し、一層身動きが取れない状況になります。また極論になりますが、国有化銀行の資金が全て政府系資金に置き換わってしまえば、銀行売却の意味も失われてしまいます。
 国有化したことで、国は全く足抜けができない状況に陥ってしまいました。本来であれば国が丸抱えする必要もなく、強制的に清算する選択肢もあったはずです。国会では貸し手責任ばかりが強調され、善良な借り手の救済が叫ばれましたが、実際の問題として、借り手責任もあるはずです。どこの銀行から融資を受けるかは企業側にも選択権があり、特定の一行に融資を依存していたのだとすれば、それは企業側の責任でもあります。
 ただ即時清算が多数の企業を危機的状況に追い込むことは確実ですので、例えば一時的に公的資金を注入し、期限を定めて清算するというソフトランディングも可能であったはずです。長銀に資本注入を行い当座を凌がせるために要する資金は、1兆円程度であったろうと言われており、国有化するよりも遙かに少ない負担で済んだものと思われます。
 繰り返しに成りますが、国有化という選択をしたのは、やはり政治案件を多く抱えた銀行を清算することを避けたいと考えた政治家たちのエゴに過ぎず、そのために日本の金融システムが歪められ、多額の公的資金が投入されることに至ったのは残念で成りません。不幸にも国有化されてしまった銀行に勤務する職員や、巻き込まれた関連会社や取引企業の社員も、とんだとばっちりを受けてしまいました。せめて同じ様な愚考が再び繰り返されないことを願うばかりです。

99.01.05

補足1
 日債銀の不良債権が自己査定よりも膨らんだ最大の原因は、「親会社が健全な企業への融資は全て健全」という安直な債権分類がされていたことに問題があったようです。この論法を使うなら、日債銀が健全であれば、子会社や孫会社にどんな巨大な不良債権があっても健全債権と扱われることになります。おそらく長銀の場合も同様でしょう。
 国有化にあたっては全て時価会計によるべきとの判断を下した金融監督庁の査定では、そんな大甘な自己査定が認められるはずもありません。しかし一方で、金融監督庁は日債銀の査定においても税効果やデリバティブの含み益を考慮しなかったようで、依然として片手落ちな査定を行っています。どうせ大量の不良債権が明るみに出て債務超過は間違いないと見ての査定結果かも知れませんが、一応は真っ当な査定を行って欲しいものです。

99.01.05
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