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経済の研究No.07
そして、ゼネコンは潰れた

 会社更生法ネタの第三弾。ゼネコン問題です。

 ゼネコンとはゼネラルコントラクター、つまり総合工事業者です。土木一式工事を請け負う土木総合工事と、建築一式工事を請け負う建築総合業者の総称であります。土木工事と建築工事の請負比率は各社各様であり、得手不得手分野の違いもありますが、一般工事に対する能力は同等です。公共投資として土木建築分野への集中投資を行ってきた我が国では、いくつもの大型ゼネコンが成長しました。鉄道や架橋、ビル建築にしても工事規模は大がかりになり、中小ゼネコンでは受けられない工事も増加してきました。この結果、中小ゼネコンと大型ゼネコンの共同受注や、大型ゼネコンの名目貸しによる丸投げ受注などの弊害も生んできました。
 バブルの時代、大型ゼネコンも全盛期を迎えました。多数の大規模工事を同時に引き受け、弱小ゼネコンや工事業者を系列化し、あらゆる分野に進出しました。工事を受注しさえすれば儲かるために、背伸びをした受注が多かったのです。受注能力を上回る工事に対する丸投げ工事手抜き工事、利益の均等配分を目的とした談合底上げ見積もりなど多くの弊害を生んできました。しかし今、問題であるのは過剰な不動産資産と有利子負債の問題です。

 工事は待っていても受注できません。自ら土地を買収し、プランを建てて、売り込みを図るという事例も少なくありませんでした。本社ビルの移転を望む企業には一等地の地上げを行い、ゴルフ場の経営を希望する企業には山林買収と造成を代行しました。しかしバブルの崩壊とともに、作ったものの工事代金を支払わない企業や、計画を撤回する企業が相次いで、カネを生まない不動産が数多く残りました。また地上げに失敗した虫食いの土地も多く、さらに地価の大幅下落も手伝って、投資費用が回収できない案件を多く抱えることとなりました。とにかく銀行へ利払いを続けなくてはいけないため、自らがビル貸しやゴルフ場経営に乗り出したものの、この不況下では充分な収益が確保できていません。
 また経営多角化や海外進出など手を広げすぎた結果、資金繰りに困っているゼネコンが相次ぎました。これは銀行が過剰に資金を貸し出したことが原因ですが、無計画が祟って企業経営を圧迫しています。有利子負債は利払いの負担を増やし、遊休資産は管理費負担も増大させました。また銀行借入のほかに株式転換社債など無担保社債も多額に上り、その償還費用の捻出に四苦八苦しています。
 さらに受注に当たって当座資金のない企業のために行った債務保証も問題です。債務保証は本来の借入金ではありませんが、保証相手が返済できなければ連帯責任を負わなくては行けない債務です。地上げやゴルフ場建設のために行った保証額は莫大です。また系列ノンバンクを設立した場合、そのノンバンクに対する債務保証も背負わされることとなり、見る間に負債額が膨れ上がりました。債務保証額が1兆円に迫り経営危機に陥ったのは飛島建設です。

 飛島建設はゼネコンの老舗であり、飛島家のオーナー支配が行われましたが、無謀なまでの債務保証と工事受注の拡大により現在の経常利益水準では債務返済までに400年以上掛かると言われていました。まだ中堅ゼネコンの村本建設が倒産(会社更生法適用が認められて再建中)した状況であり、メインバンクの富士銀行は飛島建設の倒産を回避する手を着実に打ってきました。まず飛島社長を解任して銀行の管理下に置き、自ら債務の大半を権利放棄しました。そして他の金融機関に対しても金利減免と債権カットを依頼し、有利子負債と債務保証額を約90%も削減しました。これにより飛島建設は30年未満での債務解消が可能になったと言われています。
 だがこれが例外であったことは、やがて明らかになりました。東海興業が会社更生法適用の申請を行ったのは1997年です。ゼネコン倒産の先陣を切った同社は、技術力を武器に他ゼネコンとの救済合併を目論みました。しかし、ゼネコン同士の合併はメリットが少なく、管理部門を統合し共通の取引先に対するスケールメリットは出るものの、入札では二口から一口に権利が減るために受注できる工事も一社分にしかならず厳しいと聞きます。小口の取引先が増えすぎて管理費が膨張する問題もあります。加えて下請け孫請けが増えすぎて整理が大変になるという問題もあります。結局は倒産したお陰で身軽になってから四国のゼネコンとの合併の動きが進んでいます。

 その後、多田建設大都工業が会社更生法適用を申請しました。そもそも土建業者は日銭の商売ではありません。倒産時点での受注工事は完工する義務を負うが、いつ無くなるか分からないゼネコンにオーダーするバカはいないでしょう。勿論下請け孫請けも危ないゼネコンの仕事は現金先渡しでなくては応じません。うま味が大きい公共工事も赤字会社は受注できないという壁があります。そこに都市銀行のウルトラCが生まれる余地がありました...

98.02.10

補足1
#Nに入って上場建設会社のうち、株価が規定に満たない企業は入札から閉め出そうとした地方自治体が相次ぎました。自治体によるゼネコン選別の幕開けですね。一応、株価を入札条件に加えるのはおかしい、という議論になったようですが。これからも倒産するゼネコンが増えるとその危険は高まるでしょう。自治体にしても工事が完工されなくては問題が大きくなるから当然でしょうか。

補足2
 本コラムを書いてから4年が過ぎました。結局のところ、過剰債務に耐えかねるゼネコンが増えました。それを支援できる金融機関は減り、四大銀行グループに編成したことにより、何とか整理損を負担できる状況になりました。とりあえずは債務放棄(金融機関では債権放棄)を受けられるゼネコンもありますが、モラルハザード問題の指摘が強く、過剰な放棄も難しいのが現実です。
 フジタ・長谷川コーポレーション・ミサワホームなどは再建計画を認められて、法的整理は回避できる見込みです。しかし、佐藤工業は3月3日に会社更生法適用の申請をしました。リゾート・ゴルフ場の開発にのめり込んだ同社は、1999年に一旦金融支援を受けましたが、メーンであるみずほグループが継続支援を断念しました。上場ゼネコンの破綻は8社目です(青木建設は民事再生法でした)。
 また本文に書きましたように、1997年に多額の債務免除を受けた飛島建設は、同じみずほグループの枠組みで、佐藤工業との経営統合を目指していました。佐藤工業の破綻により、飛島建設単体での追加金融支援を求めていくとのことです。ゼネコン不況は、まだまだ長いトンネルを抜け出せないでいます。

02.03.03
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