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経済の研究No.06
どうして会社更生法適用なのか

 本来は破産倒産であるはずなのに会社更生法の適用申請を行う倒産企業が多いです。債務超過の上、本業で経常赤字が出ている企業に会社再建できる可能性は極めて低いのです。本業が堅調であって会社更生の道を歩んでいる企業は確かに多いでしょう。近いところで京樽、ヤオハンがあり、場合によっては三洋証券と東食にもその可能性が残されています。いずれも大きな資本(支援企業あるいは支援金融機関)が当座の運転資金と残存債務の仮保証を行うことで、営業が継続されて細々と債務返済が続けられるのです。

 ところがこれを悪用するケースは少なくありません。一度倒産させれば債務の削減や株主資本の減資が容易に可能となるため、一旦会社更生法申請を行わせて上で救済に乗り出してくる企業が少なくありません。たとえば京樽の場合は、倒産前から救済企業であるカト吉と密約ができていたという疑惑があります。全く市場に噂が出ず、まだ資金的余力が残っていたうちの抜き打ち申請、早々と決まった管財人など疑わしい点が多いのです。債権者は大半の債務を削減され、株主は十割減資を受けて出資金を全て失いました。吉野屋D&Cも色気を出したようですが、経営陣の強い拒否反応で阻まれました。大きな拾いものをしたカト吉は、経営陣に報酬を支払った上で退陣させた模様です。経営陣は背任も同然でありますが、充分な確証がありません。

 同様の話では、ミシンメーカーのリッカーの例があります。同社はミシンの訪問販売で業績を伸ばしましたが、CPU搭載ミシンの開発が遅れてシェアを大幅に落とし、会社更生法の適用を申請しました。結局、ダイエーが救済企業に名乗りを上げ、債務カットと十割減資を行いましたが、現在は同社は残っていません。何故でしょうか? リッカーは本業のミシン製造を停止してしまい、顧客サービスを細々と続けていました。ダイエーは膨大なリッカーの顧客データを入手し、訪問販売で培ったローンの返済データなどをタダ同然で手に入れたのです。たしかに顧客データは金銭価値が付けられませんが、本来は購入さえもできないデータを救済という大義名分で手に入れたのです。現在はダイエーOMCに吸収されて形すら留めていません。同社にミシンメーカーの技術者が残っているとは考えられないのです。

 さらにニッカツの例があります。国民の映画離れに抗しきれず、ついに倒産した同社は、ゲームメーカーのナムコの支援を受けて再建を目指しているといいます。これが発表された当時は、ナムコ社長の義侠心を持てはやしましたが、現実はきれい事ではありませんでした。たしかにロマンポルノのイメージが強い同社ですが、ヤクザ映画や時代劇映画など過去の名作は数々あります。ところが、これらでビデオ販売されていたのは一部に過ぎませんでした。現在でもファンが多いために片っ端からビデオ化すれば意外に再建は容易であったはずです。結果論ではありますが、ニッカツはその手法に気付かなかったので倒産しました。ところがナムコ社長はソフトメーカーだからこそ、その手法を思いついていたのです。やはり債務カットと系列映画館との契約破棄(本業を止めてどうするのだ)と十割減資を実施しました。そして一作また一作とビデオ化が行われ、ひっそりと利益の吸い上げが行われているようです。

 会社更生法の適用を悪用する例は多いものの、立派に再建した例も多いです。例えば牛丼チェーンの老舗である吉野屋は、1980年に一度倒産しています。店舗網の急拡大に走った同社は、メインの牛丼に使う牛肉の質を急速に落としたために客離れを招きました。売上げ不振は借入金の返済計画を狂わせて倒産の憂き目にあったものです。これを救済したのがセゾングループの西洋フーズであり、現在は吉野屋D&Cとしてセゾングループの一翼を担っています。同社は京樽の救済にも色気を出しましたが、密約に阻まれて実現できませんでした。

 最後に自主再建に成功した例を挙げます。兵庫県姫路市に山陽特殊鋼業という会社があります。その名の通り特殊合金の精製技術に優れ、技術力の高さには定評があります。戦後、沈没した軍艦や砲弾の引き揚げ解体作業で大金を得たフィクサーが、オーナーとして設立した会社です(正確には地場工場を買収したものです)。特殊鋼の精錬には特殊高炉が必要ですが、莫大な費用が必要なために、一民間企業が作れるものではありませんでした。しかしこのオーナーは作ってしまったのです。過剰な投資のために資金繰りに行き詰まり1965年に倒産しましたが、その資金の大半をオーナー個人の信用で集めたために、オーナーの破産によって債務の大半は消滅しました。もちろん上場廃止で減資も行われたと思いますが、その最新鋭工場を武器に自主再建に成功して今日も存続しています。極めて希有な例ではありますが。

98.02.10

補足1
 河本敏夫元自民党副総裁(大ウソの誤り。補足7を参照)のオーナー会社として知られた三光汽船が、1998年3月2日に会社更正手続の解除を受けたと発表しました。かつて日本最大の船会社でしたが、世界的な海運不況の中資金繰りに行き詰まり、当時政府出動の噂も否定されて会社更生法適用を申請しました。当時7,000億円近い負債を抱えていたのですが、申請から13年で完全に清算した模様です。当初計画よりも9年早く、会社更生法による自力再建のモデルケースと言われることになるでしょう。

補足2
 吉野屋D&Cはダンキンドーナツを1998年8月を以て全て閉鎖すると発表しました。

補足3
 ついに、とんでもない事例が出ました。1998年8月10日に適用申請をした三田工業は既に支援企業を京セラに決めた上で申請をしました。未上場会社だからまだ良いものの上場会社であれば株主の怒りが爆発するような事件です。こんな暴挙を許して良いのでしょうか。意図的に手元資金をプールした上で黒字倒産をし、適用申請で当座の債務返済を逃れ、全ての株主資本をチャラにし、金融機関には大胆な債務放棄を迫り、余剰人員は大量に首が切れる。その後支援企業に全面バックアップを受けて最終的に子会社入りすることが可能となります。表向きの理由は大胆な海外シフトが円安でダメージを受けたこととデジタル複写機への転換の遅れであるそうです。

補足4
 支援企業は「支援」という大義名分を掲げる以上は、十分血を流すことが必要であると考えています。人件費の圧縮を至上命題としての首切り等はあってはならないことです。この不況の折に社員を路頭に迷わせるようなことはあっては成らないのです。京セラの場合はmitaブランドという一種ののれんを得ることになる以上、それに見合うだけの援助は行う義務があります。やむを得ず退職するような社員に対しては規定以上の退職金を支給するなど「善意」を示すことを期待します。何より雇用の維持を達成してこその会社更正であります。支援企業として名乗りを上げるところに不透明さがあったものの、それを挽回するだけの奮起を京セラには期待したい。

補足5
 「ニッカツの遺産から利益を吸い上げているという話はおかしい」とのご指摘を受けました。ニッカツのビデオが販売されているのをご存じないらしいですね。例えばキネマ倶楽部というのがあります。東宝・大映・日活・国際放映のビデオを共同販売する組織を唱っておりまして、1本9,600円(税込み)で販売しています。私がチェックした広告では、日本映画傑作全集390タイトル中38タイトルが日活のビデオです。

補足6
#Nに会社更生法適用の申請をした第一紡績が、1998年9月25日にやっと会社更正計画を提出したそうです。同社は戦後誕生の代表的な紡績会社でしたが、700億円を超える負債を抱えていました。管財人の下で従業員半減や工場閉鎖などに取り組み1998年3月期で黒字転換に成功したそうです。更生計画の遅れは、申請後のバブル崩壊で担保不動産の評価割れなど金融機関との調整が悪化したことが原因で、ひとまず債務の7割カットと株式の10割減資、主要取引先であるニチメンへの新株発行による完全子会社化で再建すると言います。残債務の180億円は5年間で完済するといい、それでも残る債務はニチメンの肩代わり融資を受けるのだそうです。(日本経済新聞98/09/26記事を引用)

補足7
 補足1の記載について、政治評論家の赤堀友宏氏より抗議が来ましたので、抗議文を掲載します。「『河本敏夫元自民党副総裁』と明記してあったが、河本氏は自民党の長老ではあったが、副総裁など務めた経歴は微塵もなく、副総理とて経験はない。
この誤りを指摘せずして私の政治評論家としての名分が立たないと言う判断から当事務所としては抗議の声明を発表する」とのことです。
 調査の結果、河本氏は「副総理格」などと新聞に紹介されていますが就任の事実はないこと、副総裁に関しては完全な事実誤認であることが確認されましたので、ここに補足1の訂正をさせていただきます。正しくは、河本敏夫元国務相です。

99.09.30

補足8
 カト吉主導での京樽再建は難しく、結局ノウハウのある吉野屋に支援を仰ぐ形に成りました。ノウハウを十分に持たないスポンサーでは、立て直る業績も立ち行かないようです。結局、吉野屋が半分出資してノウハウを供与する形に落ち着きましたが、さらに吉野屋が過半数の株式を引き受ける(50%→67%)ことになり、追加支援が行われています。
 民事再生法が採用されて数多くの企業が適用を申請しています。こちらは経営陣が居座っての再建も可能ですが、単に負債が巨大であるだけならともかく、経営陣に経営センスが無い場合は、最適のスポンサーや再建引受人を見つけることも経営陣の責任です。雇用を維持するためにも、目前だけの安易な更正法・再生法適用の申請は避けて欲しいところです。

00.09.10

補足9
 使い捨てライターの大手で、会社更生法に基づく経営再建中の東海が10月を目処に更正手続き終結となるそうです。更正計画の認可から3年3カ月での再建は、当初計画より8年9カ月も早いスピード再建です。伊藤忠燃料をスポンサー(78%の大株主でもある)の支援はもちろん、仕入れ条件の見直しや円安要因などもあったという話です。計画は負債総額1,511億円の77%カットで、残債の12年分割でした。こういう良い話を聞くと、会社更生法の良さを痛感しますが、なかなかスマートに再建できる企業は少ないですね。

00.09.10

補足10
 補足8の補足です。京樽は、支援企業であるカト吉(持株比率33%)と吉野家D&C(同67%)から資金を借り入れ、債務(弁済金)の一括(繰上げ)弁済を行うそうです。当初は2015年までの分割弁済を予定していましたが、不採算店の閉鎖や業態転換が効を奏し回復基調のため、一括弁済により更生手続を終わらせるとのことです。
 大手銀行が弁済金相当額を低利融資し一括弁済を後押ししたケースはありますが、支援企業からの借入金で一括弁済というのは珍しいケースです。スマートな更生手続となりますが、体の良い債務免除手段とも成りかねず、運用については今後の検討が必要でしょう。ともかく更生手続を終えることで普通企業としての信用が回復することが利点です。新規事業の展開や資金調達に自由度が回復します。今後の業績次第では株式の再公開も期待でき、支援企業には投資の早期回収が期待できます。
 良いケーススタディとなってくれることに期待します。

02.04.08

補足11
 積極的な海外進出と放漫経営で破綻した「ヤオハン」は、イオングループの支援を受けつつ、食品スーパーとして再生しました。1997年9月の会社更生法適用申請から4年半というスピード再建です。直営店舗を36店擁しており、年数店ペースでの新規出店を継続するそうです。なお、社名は「マックスバリュ東海」に改名されるそうです。
 イオングループでは、新たに民事再生手続中の九州圏スーパー「壽屋」から店舗を買収します。九州ジャスコを受け皿に、総合スーパー6店、食品スーパー40店強を引き受けるとのことです。壽屋は身軽になり再建の目処が立つこと、イオンは勢力の弱い九州圏を梃子入れすること、で共にメリットがあるようです。「ヤオハン」破綻時に、見通しのないまま総合スーパーを高値で買い漁ったダイエーとは、違う堅実な戦略であるようです。

02.05.19
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