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政治の研究No.183
電 力 危 機 が 深 刻 化 ?

 東京電力が原子力発電所の一斉点検を始めています。そもそもの発端が、長年のトラブル隠しにあり、それが明るみに出るや杜撰な安全管理が槍玉に挙がったわけです。東京電力は、粛々と合計17基の発電所を停止してしまいました。以前から原子力へのシフトを進めていたものの、現在ではすでに電力需要の4割を賄うまでになっています。今夏の電力需要のピークには、原子力不在で乗り切ることになりそうです。

 確かに、長年のトラブル隠しは重要な問題です。しかし、東京電力の言い分では重大トラブルで無いものを逐次発表して、不安を煽りたくなかったそうです。原子力発電へのシフトは国是でもあり、電力各社が必ずしも望んだものでもありません。基本的に、石油・石炭で高コスト発電であっても、一定の利潤は保証されたワケですから。。。急激な原子力シフトの責任は政府にあります。
 ここで、一斉点検に踏みきるのは、一種の意趣返しでもあるかと思います。原子力抜きではピークを乗り切れないのは、まず間違いないでしょう。それでも止めて見せるのは、実際の電力危機を演出しなければ、世論が静かに成らないからだと思います。原子力不在のままで、もしもピークを乗り切れたら・・・原子力廃止論に直結しかねません。真夏の停電が現実化すれば、電力会社のみのバッシングが止まると見ているのではないでしょうか。

 停電を回避するためには、とにかく休止中や廃棄予定の発電設備、民間の自家発電設備をフル動員することになると思います。燃料電池や太陽電池を増設するのは、時間的にもコスト的にも無理ですから、既存設備で何とかするしか無いでしょう。他電力会社からも余剰電力の融通をお願いすることになりますが、50ヘルツ系の東京電力が、60ヘルツ系の関西電力ほかから受けられる電力量には自ずと制限があります。いよいよと成れば、大口需要家に対して、ピーク時の送電停止を通告するしか方法がありません。公的機関・公共施設での減灯や冷房休止・・・なんてのもありそうです。
 5年近く前の話で恐縮ですが、当時はまだ電力会社に余力がかなり残っていたそうです。それは、原子力全てが停止してもピークを何とかできる規模であったそうです。それを勇み足で次々に廃棄してきたのは、上記のとおり政府の失策です。「脱石油」を先走る余りに、まだ稼働できる石油火力設備を廃棄させたり、新型石炭火力設備の新設に待ったを掛けたり、して来ました。当時から、原子力発電のトラブルの多さがクローズアップされていれば、ここまで危機的状況に追い込まれなかったはずです。政府として、もう少し積極的な停電防止策を講じるべきでしょう。民間協力には限度があります。

 そもそも原子力発電は、佳い選択だったのでしょうか。スリーマイルやチェルノブイリの事故により、原子力発電のリスクが過去に何度も語られてきました。日本の原子力発電は、そこまで巨大なリスクを負わずに済むようですが、かといって、100%重大事故を招かないと言い切れません。もしも本当に重大事故を生じたら、東京電力のみでなく、全国全ての原子力発電を停止することになります。そのとき、日本の電力供給システムは、どうなるのでしょうか・・?
 代替電力は、いずれも非力です。本来であれば、火力や原子力にペナルティコストを課してでも、代替発電設備への補助を積み増すべきでした。ささやかな補助金、PR程度の公的機関の取組み、反省すべき点が多々あります。民間による発電事業参入も、電力各社の様々な妨害で、十分と言えません。日本ほどの高品質電力ならば、もっと電力料金は高くても良いでしょう。そこで上がる利潤を電力会社は代替エネルギーの投資に回し、行政は特別税で吸い上げて民間支援に回し・・・とするべきでした。今からでも遅くありません。

 「原子力発電は、低コスト」という触れ込みが、大嘘でした。確かに運用(ランニング)コストは、火力よりも安いでしょう。しかし、設備の初期投資(イニシャライズ)コストは膨大です。さらに、地元自治体への高額協力金が半端でなく、現実のコストは火力よりずっと高いと言われます。さらには、使用済み燃料の保管・廃棄コスト、老朽化発電設備の廃棄コストなども積み上げると、とても競争力があったと言えません。
 こうした大嘘が無ければ、逆説的ですが、原子力発電はここまで普及しなかったでしょう。依然として火力発電が主流でしょうが、太陽光・風力・燃料電池・小水力などの小型発電設備がもっと整備されたと思います。小型発電設備も多く普及すれば価格競争力が増します。自分の近くに発電設備が置かれるようになれば、もっと電力利用に対する意識も変わるでしょうし、節電意識も向上するのではないでしょうか?

 そして今年、私は大規模な停電があった方が良いと思っています。おそらく停電が発生するのは、8月の昼間。急な停電が人命に関わるところには、すでに補助電源や非常電源が確保されているはずです。未確保であれば許されないことですが、今からでもディーゼル発電なり用意するべきです。日本国民は、電力インフラに依存しすぎています。とくに大口需要家が、どれだけ自主電源に精力を注いできたというのでしょうか? 本当の大規模停電が生じて初めて、電力危機への自己管理責任が痛感されると思うのです。
 また、電力料金の引き上げも当然行われるべきです。少なくとも、これまでと同じだけの電力品質を求めるのであれば、もう少し高い電力料金の負担も止むを得ないでしょう。その負担増に耐えられない事業者は、補助金等を受けて安い自主電源を作れば良いのです。一般家庭も、電力料金がもっと高くなれば、今の王侯貴族のような無駄遣いを改めると思います。確かに、家電製品は便利です。TVもパソコンも高機能化し、エアコンも超快適です。しかし、それを極々当然と思っていることが・・・今回の電力危機で最も深刻な課題であると考えています。

 さて、我が家でも真面目に節電を試みることにします。電力使用量は知れているので、自主電源は設置しませんが・・・小型の無停電電源ぐらいは考えてみようかと思っています。

03.04.27

補足1
 誤解のないように、補足しておきます。東京電力としては、早期に点検に入り、何とかピークまでに数基の再稼働を目指しています。他の電力設備がフル稼働すれば、既存17基の再稼働は必要ありません。炉心隔壁の修復などを行うものは間に合いませんが、安全点検だけのものは5月中にも運転再開したい考えを示しています。

 しかし一方で、原子力発電所を抱える地元自治体で、再稼働に反対する声が挙がっています。これが長引けば、運転再開が遅れて、ピークに間に合わなくなる可能性もあります。その場合は、そのまま責任を放棄する選択と、行政による善処への働きかけをする選択と、東京電力には二者択一の選択があると思います。
 地元自治体の示している姿勢は、表向き、東京電力に騙されたというものです。また、大電力需要地である東京などに対する不満を示したとも言えるでしょう。おそらく金銭的手段で調整を図ることになると思いますが、今回のトラブルは致命的でなかっただけに、ゴネ得的な雰囲気もあります。再稼働に反対し、原子力発電所の廃棄まで要望するのであれば、これまで自治体の台所を潤してくれた過去を清算する必要もあると思います。

03.04.27

補足2
 日本の電力危機は、何とか回避されました。喉元を過ぎれば何とやら・・で、おそらく本格的な措置は執られないと思います。8月の最中であるにも関わらず、電力危機が遠のいたことで、官公庁や自治体が行っていた緊急省電力対策も解除されたと聞きます。政府が率先して節電・省電力を推進していかなくては、国民が節電に励むとは思えません。これに加えて、自家発電システムの導入等を、より加速させる施策も出されたように聞きません。今後に出されてくるのかも知れませんが、原子力依存の現状を大幅に改善する必要があるのは、間違いないでしょう。
 米国の北東部では、8月14日に大規模な停電が発生しました。経済の心臓部にあたるニューヨークも大打撃を受け、交通機関が1〜2日も麻痺しました。理論的にはあり得ない連鎖的な大停電が、現実に起きました。確かに、日本の送配電システムは米国よりも優れているでしょう。しかし、「だから日本では大停電が生じない」というのは、大きな嘘だと感じます。ニューヨークでは、幸いにして29時間で完全復旧しました。東京で同様の大停電が発生して、数日間も復旧しなければ・・・経済への打撃は図り知れません。

03.09.01

補足3
 9月28日には、イタリアでも大規模な停電が発生しました。最大9時間で復電したものの、交通機関の麻痺で大きな被害ができました。週末夜間に発生したことで米国に比べると軽微な被害と報道されましたが、イタリア国土全域に影響が及んだようです。電力輸出国であるフランスからの受電に関するトラブルとされましたが、原因究明が待たれます。

03.10.03
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