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政治の研究No.167
解りやすいお話[政治編]

 いよいよ年の暮れですが、今年は未曾有の失業率であり、大不況であります。機動的かつ有機的に行動し、ダメージを最小限に止めようとする米国政府と較べれば、日本政府の無策ぶりが際立ちます。小泉氏の首相就任以降、数々の改革が叫ばれましたが、何となく掛け声倒れに終わりそうです。いずれ実現だけはするでしょうが、全てが手遅れという改革になるのでは・・?

 経済構造改革、政治体制改革、特殊法人改革、公務員制度改革など、長年の懸案に対して、積極的に取り組んでいるかのような印象を受けます。しかし、現実には何も結実していません。旧態然の政局運営、永田町に今でも巣くう魑魅魍魎、総論賛成・各論反対の政治家諸氏ならびに官僚諸君。いくつもの壁に阻まれているという現実があるにせよ、首相のリーダーシップの弱さが気になります。
 首相のブレーンには、有能な論客が多々あるようです。産業界や言論界からも有力者を引き込んで、委員会や審議会を運営しています。メディアには多彩な情報が飛び交い、数々のパフォーマンスも飛び出します。しかし、政府・自民党内では、小泉氏の非力さがクローズアップされます。全権掌握したとすると、かなり危ない手腕も発揮しそうなので、今が丁度良いのかも知れませんが・・やはり不安が大きいです。

 話は変わり、政治家先生の一般論です。今の先生は、博識でなくては務まりません。古参の先生の中には、訳知り顔で話を聞き流す方もあるようですが、それにはそれなりの知識と努力が必要です。昔ならば、党議決定を支持し、地元に利益を誘導し、議場でヤジを飛ばせば、それなりに務まりました(大多数の先生は、そうではなりませんよね。念のため)。今では、政治も、法律も、経済も、社会も詳しく理解している必要があり、さらには技術・産業動向や海外事情にも通じている必要があります。
 とくに古手の先生方にとって、今更難しい知識を身につけていただくのは大変です。自ずとブレーン達が援護することになります。手近なところで、同僚、党職員、政策秘書、後援会長、支援者である会社社長や大学教授、馴染みの官僚、出身大学の先輩・後輩・・等々でしょうか。偉い先生であれば良い面子が揃いますが、並みの先生はブレーンも数えるほどでしょう。そこに仕入れる知識の格差が生じてきます。

 ブレーンにとって大事なことは、豊富な知識を持つことよりも、上手な説得の仕方を心得ることです。先生が予備知識を持っていれば要点のみ説明し、基礎知識さえなければ基礎を丁寧に教える必要があります。ときには小学生でも知っていることを、噛んで含めるように説明するのです。自分の知識をただ披露しても、先生の血肉に成らなければ恥を掻かせるだけです。
 これが結構難しいところです。多くの大学教授は、論じるのが得意でも、相手のレベルに合わせた説明は苦手です。法律や経済の専門家は、理論や予測が得意でも、実践が苦手です。同僚や秘書は、そのソースが偏っている懸念があり、やや心配です。企業経営者は、立場的には先生と似たような境遇でしょう。これらブレーンを上手に配置し、最適情報を効率よく摂取するには、それを調整する人材を持つことが必須です。つまり、有能な側近ですね。

 ブレーン達がせっせと説明をして、何とか理解して貰えたつもりでも、先生が肝心な要点を聞き流していたり、持論を混ぜたりして、結果的に誤った情報になることもあります。また、複数の情報が提示されたときに、「自分が解りやすいお話」を採用することも多々あるようです。自分の価値観に一番に合ったもの、自分の感性に嵌りやすいもの、自分でも説明できそうなもの、などです。
 世の中は複雑化していますが、複雑化したモデルをそのまま理解するのは大変なことです。何よりも、他人にも複雑化したままで説明できる自信がありません。このため、「風が吹いたら、桶屋が儲かる」方式でなく、「風が吹いたら、桶が飛ぶ」方式をチョイスしてしまいます。自分が解らないと先生は不機嫌になるため、側近やブレーンが追従してしまうこともあります。「先生のご解釈の方がよく分かりますね」、「さすが先生、おっしゃるとおりです」なんて感じですか。

 それ故に、せっかく有効な経済政策や政治改革案が与えられても、理解できません。若手代議士がいかに説得を試みても、鷹揚に頷くだけで、採用しません。各界の専門家やジャーナリストが正論を主張しても、馬耳東風です。いやいや、勉強熱心な大部分の先生方は大丈夫ですよね。ほんの一部の不勉強な先生方が、ときどき一風変わったご発言をされているだけでしょう。
 どうか、解りやすいお話だけ罷り通る国会でないことが、真実でありますように!

02.12.01
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