前頁へ  ホームへ  次頁へ
政治の研究No.95
ネットの匿名性について

 東芝クレーム問題を虚仮にした週刊文春に、抗議のメールを出しました。内容的には、第94回週刊文春のWHY?」の中段以降を再編集したものでしたが、現在のところ全く返事はありません。ご意見だけは承ったと言うことでしょうか。
 週刊文春9月2日号には第二弾「東芝に謝罪させた男は富士通関連会社課長を退職に追い込んだ」が掲載されましたが、これも一方的な内容です。発行部数数十万部を誇るはずの同誌のトップ記事にも関わらず、反響は「百件にも上った」そうですが、うちのようなプチメディアでも7日間で21本のご意見メールが来ているのですから、それは「百件しか来ないほど、読者に黙殺された」と書くべきではないのでしょうか。
 さらに百件の中身は「概ね好意的に受け止めていただいたようだ。電機販売店や顧客サービスに従事している読者からの意見が多かったのも特徴的だった」とあり、自画自賛に見えますが、実態は内輪受け記事に終始したと言うことです。必要なのは消費者の声じゃないのですか。

 記事の中身はともかく、最後を「実名で意見を述べる勇気を」というタイトルで結んでいます。聞くべき点はありますが、アドレスを文春の代表メールにして、匿名記事を掲載している匿名記者の言って良いセリフではありません。自己矛盾に全く気付いていないのですね。そこでネットの匿名性について書くことにしましょう。
 公の場で発言をするということは大変な勇気を必要とします。抽象論であればともかく、具体的な主義主張に関わる発言には、恒に賛同者と反対者とアウトサイダーが存在します。賛同者からは拍手喝采が寄せられる一方で、反対者からは様々な反発が加えられます。さらに野次馬ともいうべきアウトサイダーの一部が、興味本位に個人攻撃を仕掛けることもあります。発言が大きく受け止められるほどに、その反発や攻撃は大きいと言わなくては成りません。
 昔から、メディアの発言に対して抗議の電話やFAXが寄せられる例が多いのですが、匿名のものに限って悪質で無責任であると聞きます。数多くの抗議は、発言者の意見にプラスに働く場合もありますが、多くの場合は著しく発言者を傷つけて意志を挫きます。もともと悪意ある匿名者は、それが狙いなのですから。

 出版社は作家の創作意欲を削ぐことがないように、出版社や担当者が窓口になって匿名の悪意を排除する方法を採っています。それにより作家本人が傷つけられることを防ぎます。また作家本人も、ペンネームを使うなどして個人情報をオープンにしない努力をしています。普通の物語作家であっても、ネズミの尻尾を送りつけられるなどの嫌がらせを受けるそうなので、当然に必要な措置ですね。
 新聞や雑誌は記者の創作意欲を削ぐことがないように、新聞社や出版社が窓口になって匿名の悪意を排除する方法を採っています。これは記者の言論の自由、報道の自由を保証する意味もあります。通常、誰が当該記事を書いたかはオープンにしませんし、当然ながら記者のプライバシー情報に関する問い合わせには回答していません。その特権を勘違いして、いい加減な記事を書く記者もいますが・・・。
 政治家や企業役員、大学教授、弁護士などは実名で意見を述べていますが、彼らは社会的地位があります。悪意を持つ人間が近づいたなら、すぐさま警察など公権力が保護と反撃を行ってくれます。そのため実名である程度自由な発言が許されます。個人で有れば、実害が発生するか差し迫った危険が証明できない限り、公権力による保護さえ受けることができません。

 メディアの一つとしてインターネットが普及してからは、抗議のメールというのも一般化してきました。インターネットは安価な情報発信を現実のものとし、ホームページという無数のプチメディアが出現させました。それは同時に悪質な匿名メールや怪しげなアングラ系掲示板をも生みました。個人が不特定多数に情報発信できることと引き替えに、不特定多数の攻撃に晒されるように成ったと言うことですね。
 上で述べましたように、個人は公権力のサポートが受けられませんから、自らの身を護るためには「匿名性」を維持することが必要になります。セキュリティーを含む匿名性の保証は、現在のところプロバイダーの仕事です。幸いにもAIRネットは第三者への個人情報の提供は行わないと確約していますが、一定の条件を満たした相手には実名を含む個人情報を開示すると公言しているプロバイダーもあります。
 反対者や悪意あるアウトサイダーは、引き出した個人情報をそのままオープンにしたり、勝手で無責任な噂を尾鰭として着け、徹底的な個人攻撃を加えてきます。どんなに事実無根な内容であっても発言者を傷つけるのは間違いなく、さらに賛同者に歪めた発言者像を植え付けてしまうこともあります。今回の東芝クレーム問題では、アングラ系掲示板がT氏攻撃に積極的に利用されました。数多く生み出された無責任な風聞はT氏を著しく傷つけもしました。その風聞をかき集めて適当な記事を書いたというのが、今回の週刊文春事件の背景でもあります。

 いつかきっと、個人でも個人情報を全てオープンにして発言ができる時代が来るかも知れません。しかし、そのためには完全にネット上での匿名性を排除する必要があります。パーソナルコードの時代が本格化すればあるいは実現可能かも知れません。個人認証システムが完璧に普及すれば可能かも知れません。責任ある発言ができるネット社会が確立される一方で、本当の言論の自由は保障されなくなるかも知れませんけれどね。
 私はネット参加者たちのモラルが充分に確立されるまで、ネットは匿名性を保証するシステムの方が望ましいのではないかと、近頃考えています。

99.08.26

補足1
 日経ビジネス99/08/30号が「東芝問題の論争再燃で露呈した闇」と題した大人の論調を掲載しています。週刊文春の実名を上げていませんが、その8月20日の記事が引き金になってインターネット上で繰り広げられている論争について見解を載せています。ポン太もこういう大人のレポートが書けると良いのですが・・・まだまだです。ちなみに日経ビジネスのこの記事は、記者の実名入りです(偉いですね)。
 毎日新聞のネットニュースでは、報道記者の実名が公開されています。これは速報記事に文責を負わせる目的だと思いますが、良い傾向ですね。実際の問題として、あらゆるメディアの報道記者の名前が、たとえニックネームでもオープンになれば、その記事が信用に値するかどうか読者が判断する一助になるのですが。例えば今回の文春記者が過去にどういう記事を書いてきたか分かることは、重要な要素です。

99.08.27

補足2
 現在のところ、通信履歴を他人に提供しない、利用明細を利用者以外に交付するときは利用者の通信の秘密に配慮する、発信者の個人情報を他人に提供しない、利用者の電話番号を許可なく提供しないなど郵政省の「個人情報保護に関するガイドライン」があります。しかし、罰則規定がないため、データの流出や不正利用が防止できていません。郵政省は規制を強化して法制化を目指すとしており、罰則の導入の他、漏洩情報を入手した企業なども適用の対象になる可能性が高いそうです。
 これにより、ある程度匿名性が保証されますが、同時に悪質なアウトサイダーの匿名性も保護されます。なかなか難しいですね。やはり自衛が先決であるようです。

99.08.29

補足3
 週刊文春は第3弾も掲載しました。もはやネタが切れたものか、読者の意見を多く掲載していました。好意的なものを先に紹介して自画自賛を行った後、批判的なものも一応公開してバランスを取ったつもりのようです。第1弾・第2弾に比べると明かなトーンダウンですが、当初の目的を達したからか、第4弾は連載されませんでした。すでに第1弾に掲載された内容に事実誤認があったことが分かり始めており、名誉棄損で訴えられた場合、敗色は濃厚になりそうです。

99.09.10
前頁へ  ホームへ  次頁へ