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経済の研究No.176
株主オリエンテッド

 当コーナーでも何度か触れてきましたが、「株主重視の経営とはどういうものか」について整理してみたいと思います。再び経営破綻が顕在化するケースが増えています。国内金融機関が外資に触発を受け、融資先に厳しい姿勢で臨むようになったことが一因でしょう。常日頃、株主を裏切らない経営を続けているならば破綻は回避できたと思うのですが・・。。

■ 基本は、情報開示
 株式のネット売買が盛んであるそうです。数が増えすぎたネット証券会社も、再編の時期を迎えているといいますが、それなりにシェアを占めた証券会社は顧客も増えて利益も上げているそうです。これまで株式投資に興味を示さなかった個人投資家も、ネットブームに乗ってネット投資を始めていると聞きます。
 ネット投資であれば、投資対象の情報もネットで仕入れがちです。しかし、これは正しい方法ではありません。ある投資信託に投資するとして、その情報を販売窓口会社のサイトから収集するのは愚かなことです。販売窓口会社が悪材料をオープンにすることは、本当にあり得ないからです。株式も同様で、その企業のサイトにある業績報告や、証券会社のサイト、投資家向けの情報提供サイトを信用するほど馬鹿な話もありません。
 もちろん企業には、情報開示義務が課せられています。投資家である株主の利益を損なえば、それは背信であり犯罪であります。しかし積極的に悪材料を示す必要もなく、数字の羅列等で誤魔化せるのなら、何も問題がありません。投資家向けに適正で公平な情報を開示する企業は優秀です。ただし、不適正で不公平な情報を開示する企業が圧倒的に多いので、正直すぎることも良くないようです。せめて「正確な情報を迅速に公開すること」が、株主重視だと言えるでしょうか。
 しかし、基本中の基本でもあります。

■ 業績は、安定成長
 つぎに重要なことは、業績は常に安定成長を続けるべきであることです。急速な業容拡大も有り難いですが、そうした拡大の後には、構造的矛盾や歪みを生んでしまい、結果的に業績を混迷させかねません。継続的かつ着実に業績を積み上げ、利益を確保し続けることが、結果的に株主のために成ります。
 ベンチャー企業で多いですが、毎年の業績のブレが大きいことは問題です。波のある設備投資をしてみたり、急激なリストラを断行してみたり、不安定な経営は株主の利益を大きく損ねる危険があります。また業績にリンクしない高株価というのも考え物です。キャピタルゲインを稼がせることも有効ですが、それは安定株主不在の状況を招きかねません。順調に配当を支給し、株価も着実に伸びるのが理想でありましょう。
 ある年度に利益が上がったからと、大幅に配当を増やす企業があります。翌年に多額の損失が出たからと、一気に無配に転落する企業もあります。一見、業績にリンクした利益還元をしているようですが、こうした不安定さは投資家に支持されません。毎年業績見通しや計画を組み上げるのは何のためでしょうか? その見通しや計画を上回る利益が得られれば、それは余資として、資本充実や先行投資に活用すべきです。

■ 増配や株式分割は、万能でない
 業績のアップした企業は、記念配と称した増配や、積極的な株式分割を行いがちです。経営陣はその代償として、自分たちも大きな報酬を得ようとして行うのでしょう。繰り返しますが、増配は企業資本の流出です。無借金の同族経営企業であり、業績の成長を犠牲にする覚悟があるのなら良いのですが、普通は借金もあり業績の成長は株主に期待されています。増資資金は、内部留保として積み立てるなどし、将来の成長に備えるべきです。
 また株式分割についても、結果的には配当支払額を増加させるものであり、よほど資本準備金と配当原資に余裕があるのでない限り、行うべきではありません。短期的には株主を潤しますが、長期的には利益を逸しさせています。今後の資金需要が見込まれる場合などは、思い切った増配や分割を実施せず、内部留保充実を図る方が有効です。
 赤字であったり、配当が一株利益を上回る状況になったり、次期業績の大幅悪化が予見できたり、という状況においても、配当金額を据え置く企業は少なくありません。経営陣の評価や報酬に影響があるという見方もできますし、大口株主の要請に従わざるを得ないという見方もできます。しかし結果的には、企業の体力を奪い成長の芽を摘んでしまうため、過大な配当は調整されるべきです。調整は短期でなく長期的視野が欠かせませんが・・。
 また無配企業において、業績が少し上向くと復配をしたがる経営陣が多いです。しかし、消耗した資本を回復させることが先決です。再び無配に転落させないためにも、まず自己資本の充実を図ると共に、継続的に配当原資を捻出できる体制を構築してから復配を行うべきです。目前の配当を求める株主は切り、企業自身の継続的な成長を願う株主を大事にするべきだと考えます。もちろん配当よりも資本充実を優先することを株主に説明し、理解を得ることも欠かせません。

■ 配当よりも内部留保
 たしかに、これまで無用に内部留保を積み上げた企業もあります。土地や株式の含み益を顕在化させないでため込んだり、有税の積み立てまでしたり、と株主還元を拒んできた企業も多々あります。その後の経営判断のミスで留保金を食いつぶした企業も多いです(銀行とか)が、厚い株主資本を背景として不況にも強い体質を培った企業も少なくありません。
 自己資本比率(近頃は、株主資本比率とも言うそうです)も一つの指標になると考えます。自己資本比率が50%を割り込む企業は、自己資本と同額以上の有利子負債(借金)をしているわけで、見かけ上利益が出ていても配当するべきではないでしょう。まず有利子負債を圧縮し、不良債権や不良債務を整理し、極力自己資本比率は高く維持するべきです。結果的に不況に強くなり、景気による業績のブレも少なくできます。
 ベンチャー企業の場合は、配当よりも成長を優先するべきです。内部留保の充実のために配当は行わず、株式分割や新規株式の第三者割当増資(もちろん時価発行で)が必要です。無配当であれば株式分割は配当負担にならず、かつ株主はキャピタルゲインの恩恵に浴し、さらに安定株主を増加させるオマケが得られます。時価発行での新株増資は、その余剰分の半分を資本金に組み込めるほか、分割の原資に活用できるメリットがあります。広く浅く公募するのがコツでしょう。

■ むすび
 適正な水準は、毎期の内部留保分と配当が半分半分ぐらいだと思います。とくに配当原資には法人税が掛かりますから、限度額一杯の内部留保はするべきだと思います。業績が十分に伸びれば配当を増やせば良いのですし、一株資産が膨らめば株価は上昇するので還元効果はあります。配当は一時金ですが、資産価値が増えることも有効な投資です。
 資本が余りすぎて経営効率が悪いのであれば、株主に還元した方が良いでしょう。まず自社株購入の資金に充てるのが良い還元方法です。配当負担が軽減するとともに、一株資産が増大します。結果的には投資家のために成ります。

00.08.05

補足1
 無配を貫き、株式分割による株主還元を続けている企業にヤフーがあります。配当は内部留保に、あるいは投資に振り向け、さらに新規株式の時価発行による新規資金調達や資本拡充に邁進しています。これまでは株式分割と高株価対策で株主に還元してきましたが、配当は更なる投資へ振り向けて成長しています。ヤフーが早くから配当をしていたなら、現在までの急成長は否定されたでしょう。配当はなくても年々伸びる業績を見て投資家は株式購入に動き、安定保有を始めています。

00.08.05

補足2
 これまで横並びだった電力各社で異変がありました。東京電力は配当金の25%アップを打ち出しましたが、関西電力などは配当金の据え置きを発表しました。目先では配当アップの東京電力が注目されましたが、最近の論評では内部留保充実を打ち出した関西電力のポイントが高いです。これから電力会社も競合の時代を迎える以上、新たな投資や経営基盤安定化に使う姿勢が評価されたのです。市場も目先の配当だけでは振れなくなり、厳しく経営姿勢をチェックするように変わりつつあります。

00.08.05

補足3
 ある外資系石油会社では、親会社の意向で含み資産の吐き出しまで強要されて、体力を上回る高配当を出さされました。また某流通大手のように、大株主であるオーナー一族の企業が潤うように、赤字でも多額の配当を継続させ、結果的に企業体力を弱めてしまったところもあります。本気に企業のためを思う株主であれば、まず企業の自己資本充実を優先させるべきで、合わせて経営陣に無用な借入金拡大をさせず、不効率な経営を行わないようコントロールしていくことも欠かせません。自己資本に余裕ができれば放漫経営にも陥りがちです。チェックできるのは株主だけですから、使用人である経営陣に厳しい姿勢を求めましょう。

00.08.05

補足4
 補足1の補足です。ヤフー(ジャパン)と同様に配当原資を再投資し株価上昇に使っている企業は、RAJ・楽天・メッツ・モーニングスターなどIT系企業に多いようです。また米国市場では、マイクロソフト・アップル・デル・ヤフー・アマゾン・AOL・パーム・シスコ・サンなど同じくIT企業がずらりと並んでいます。ベンチャー全般に広がる方向だと良いのですが、オーナーの立場ではインカムゲインも得ておきたいでしょうから、難しいかも知れませんね。

00.08.21
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