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経済の研究No.151
ネットワークビジネス

 インターネットビジネスと聞き違えそうですが、ネットワークビジネスとは、「口コミビジネス」とも言うべき人的資産(ネットワーク)をベースにしたビジネスです。インターネットビジネスと重複する部分もあるのだと思いますが、なかなかに定義も説明も難しいジャンルです。ただ近頃ネットワークビジネスと言われているのは、いわゆるマルチまがい商法を指しています。

■ ねずみ講・マルチ商法
 古くは、ねずみ講というものが出現しました。親会員は一定の会費を徴収して子会員を募り、子会員は一定の会費を徴収して孫会員を作ります。孫会員の支払った金の一部は子会員の取り分となり、残りは親会員のものに成ります。孫会員は自らの会費分を取り戻すべく曾孫会員を作り・・・と連鎖的に会員を増やしていく金融組織です。巨大な会員ピラミッドの形成を目指して資金を集めるのですが、そのねずみ算的に増やさねばならない新規会員が集まらなくなったところで破綻します。結局のところピラミッドの頂上だけに富が集まるシステムで、一種の金融詐欺とみなして1979年の無限連鎖講防止法により、ねずみ講の設立は禁止されました。
 次に、マルチ商法というものが出現しました。資金だけを吸い上げる金融組織がダメなら、商品の代償として資金を吸い上げる販売組織にしようと、ピラミッド式の販売組織が生み出されました。ただ販売組織を作り上げ共同仕入れのメリットを受けるのなら生協ですが、あくまで資金を吸い上げることが目的なので、高額の会費が徴収されたり、低価値や無価値の商品を販売して多額の金品を吸い上げます。子会員や孫会員など末端会員までの階層が、一定の販売マージンを貰えるというのも、ねずみ講と同じ仕組みです。結局はねずみ講が形を変えただけの商法であるとして、訪問販売法により、マルチ商法は禁止されました。
 ねずみ講やマルチ商法は、末端会員から吸い上げた資金を分け取りし、吸い上げられた末端会員は自らも甘い汁を吸うために会員を増やそうと動くわけで、その主目的が不就労所得を増やすことにあります(会員集めに働きはしますが・・)。無限に会員が増殖しなくては所得が増加せず、かつ末端会員が取られ損に終わるシステムは、健全と言えないところです。

■ なぜ、ダメなのか?
 結局は利益に釣られて会員に成るわけです。ただ会員になるだけでは取られ損なので、自分でも会員を引き込める当てが無くては、メリットがありません。また、自分の利益を膨らませるために、恐喝に近い形で会員を募ったり、親戚縁者を拝み倒して会費をせしめたり、子会員を叱咤激励して孫会員獲得に酷使したり、するのが社会問題化することを理由に、規制するのでしょうか。
 マルチ商法が流行した1980年代は、口八丁手八丁でビジネスへの出資と称して資金を集め、親戚縁者を軒並み失った人が多かったようです。しかし、被害者であると同時に、それ以上の加害者であったはずで、泡銭を稼ぐために奔走した結果なのですから、自業自得です。
 当局が規制に拘っていたのは、親会員と言いますか、事実上の胴元の存在ではなかったかと思います。ねずみ講やマルチ商法は、それなりの組織力を持つ知能犯が始めることです。企業舎弟組織であったり、詐欺組織であったりするわけで、そこへ多額の資金が集まることは、社会の不安定要因が増すことになります。放置すれば、次々に兄弟組織・類似組織が増殖しますから、非合法化して取り締まりたいということでしょうか。

■ マルチまがい商法
 先に書きましたように、生協など共同購入組織とマルチ商法の境目がはっきりしないことを利用して、マルチ商法との認定を避けようとする商法が横行しています。これがマルチまがい商法です。要するに、実体としてはマルチ商法でも、当局に尻尾を掴まれて認定を受けない限り、マルチまがい商法と呼ばれます。また、自分たちで「いかにマルチ商法でないか」を説明して歩いている商法は、おしなべてマルチまがい商法と見て良いでしょう。
 当局の目を眩ます方法は、いろいろあるようですが、まず動かす商品に一定の価値があるか、価値があると主張するか、しています。あるいは、ピラミッドの階層を数階層に限定し、商業上適正な階層に留める工夫などもしています。また過去のマルチ商法では見られた、架空会員の設定により搾取率を高めるなどの不正を抑制していることも特長でしょうか。実体はよく知りません。
 当局もマルチまがい商法への監視を強めており、個別の事例を取り上げてマスメディアも動員しているものの、なかなか尻尾を掴ませない商法が多いのが現実です。尻尾が掴めないことを理由にして「うちはマルチ商法ではない」と宣伝したりもするだけに、巻き込まれる被害者は増え、破綻者や自殺者が増えています。本当にマルチ商法でないのなら、もう少しシステムを改善するなど、適正な経営方法へ切り替えていって欲しいところです。

■ 填った友人K君
 大学院時代に、大学の元同期K君が北関東の実家へ呼んでくれたことがあります。かつては親しかった彼ですが、実家まで呼んで観光案内してくれるほど親しくはありませんでした。何か相談事があるというので訪れましたが、結局のところ、ある有名なマルチまがい商法への勧誘でした。実名は憚られますので、社名が特定されないようA社(仮名)と呼んでおきます。
 彼からパンフレットを受け取り、根ほり葉ほり質問をし、取扱商品の実物も拝見し、サンプルも土産に貰いました。実感として取り扱い商品はしっかりしていますし、価格も安い。しかし商品カタログの中身に栄養・健康食品が多く、高額商品も混じっていることが気になりました。当時、いくつかの販売店で接客経験があったポン太としては、大いに疑問を感じる商法でしたが、「いつでも返品・解約ができて、会費も返ってくる」と説明するので入会してあげました。
 ところが入会証のはずが、送られてきたカードは販売員証。これは騙されたなと思って速攻で解約することにしました。しかし解約手続きのために、わざわざ上京してくれるというので、それには及ばないと回答して、販売員証の期間が切れるのを待ちました。今では彼から連絡はありません。収入が増えてきたので、上場企業である大手メーカーを退職すると言っていたようです。
 大学同期からK君の動向が聞こえてきます。何人か入会した同期もいるようですが、彼らは軒並み失敗し、続けている者も生活必需品しか買っていないそうです。多くの同期は、結局相手にしませんでした。それでも親戚縁者、それと比較的朴訥な地元の人を巻き込んで、それなりのビジネスをしているようです。しかし不況の影響で、かつてほど高額商品を売り続けているのか疑問です。本職を辞めてまで選択するような仕事であったかどうか。

■ 填り切れなかった友人T君
 今度は就職後、中学時代の同級生T君が久しぶりにコンタクトを取ってきました。当時は一緒に生徒会役員を務めるなどしていましたが、まあまあ親しい程度の友人でした。電話では用件を言わず・・・これは似たような例だなと思いましたら、やはりA社でした。彼は二度転職して当時静岡に在住し、日曜日の夜間に自動車をすっ飛ばして上京し、長々と説明した後に私が断ると、即日に静岡まで直帰していきました。このとき自宅で会うのは不味いと判断して、気心の知れた店を選んだことも幸いし、その後彼からのアプローチはありません。その後関西へ帰ったと聞くばかりです。彼は成功しなかったようですね。
 T君の場合、奮闘も虚しく、実績が上がらなかったようです。きっと再起を賭けて、知人から勧められたA社商法を手掛けたのでしょうが、失敗したようです。彼が説明を続ける際に、「親戚縁者を巻き込んで危ないビジネス」に手を出す問題を指摘したところ、「それは自己責任ではないか」とT君が言い切ったことが印象的でした。そういう説明で感化される人間も少ないかと思ったのですが・・・。

■ むすび
 ネットワークビジネスとは、本来自分のネットワークを拡げつつ、ビジネスを拡大していくはずです。マルチまがい商法は、自分のネットワークを使わされて、しかも結果的には多くのネットワークを失わされている気がします。そもそも親戚縁者は金銭的な繋がりよりも互いの信頼関係で培われたネットワークです。そこへドライな金銭関係を持ち込んだら、崩れるのは当然という気がします。

99.11.26

補足1
 ネットワークビジネスは、自分が胴元になると儲かりますが、それなりの組織力とノウハウと初期資金が必要です。ネットワークビジネスに巻き込まれる人の多くは、自分でネットワークを立ち上げるほどの組織力もノウハウも初期資金もないために、組織の部品として使われるか、ただ食い物にされるか、してしまうのですね。

99.11.26

補足2
 ねずみ講は相変わらず繁盛しています。KKCでも大きな社会問題になりましたが、商品を媒介にしたねずみ講もどきとして新手が摘発されました。商品のカタログ販売を謳った「インターワールド」は、生鮮食品や貴金属類を購入させた上でこれを転売して利益を還元するなどと勧誘し、特別販売費の名目で資金還元を続けていたようです。ただ会員に新規会員を勧誘する義務を課していない代わりに、様々な名目で追加出資を促していた模様で、今後詳細が明らかになるでしょう。集めた資金は40億円と小粒でした。

00.06.24
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