昨年の3月、金融市場の凋落ぶりに慌てた橋本前首相は、株価PKOを発動しました。これは第23回「株価PKOの敗戦」ほかで書きましたが、あまりに露骨な市場介入は、政府の一人負けで終わった様子です。その原資は、郵貯の自主運用資金と公的年金資金だったと言われましたが、損失がいくら出て、どう処理したのかは分かっていません。しかし今年3月にも公的資金の買いがジワジワと出てきているようです。今回は大蔵省の通称・資金運用部が動員されていると耳にしますが、実際は資金運用部という部門はありませんので、実態はよく知りません(実際は理財局ほかが独自動き、総体として資金運用部と呼ばれているようです)。ただし、その資金源は財政投融資資金です。
■ 日銀による国債引受議論
今年1〜2月に、日銀による新発国債引受の是非が議論となりました。99年度に増発される赤字国債を、資金運用部がこれ以上引き受けられないと言い出したことが発端でした。運用可能な資金が細っているという表向きの理由でしたが、既発国債に含み損が生じている折でもあり、日銀にも分担させたいという政治的理由が加わっていたようです。日銀が日本国債を購入することは、日本国の信用を担保にして発行する日銀券で以て、日本国の信用である国債を購入するわけですから、「タコが自分の足を喰うこと」に等しい訳です。日本銀行法では日銀による新発国債の購入を禁じており、これを楯にして抵抗しました(日銀は通貨発行の裏付け保証として一定額の既発国債を購入しています。新発国債の受入が難しければ、既発国債の買い切りオペ(満期まで保有)枠を増額するようにも求められました)。
結局は資金運用部が折れて、余力のある範囲で引き受ける意向を表明しました。日銀はとりあえず虎口を逃れましたが、新しい政治圧力が静かに加えられてくるでしょうから、先行きは明るくありません。明らかなのは、資金運用部にはまだ資金余力が残っており、その資金を何かに使う予定だったと言うことです。また追加引受額は4,000億円程度という発表でしたが、余力は数兆円オーダーのはずです。この余力を使って株式市場に介入してくる可能性は大きいものと考えます。
■ PKOはどうするか?
この3月末にPKOがあるとすれば、日経平均の目標水準は17,500Pです。ここまで回復すれば、9月期の株式含み損は昨年並みに持ち込めますので、銀行のバランスシートはかなり軽くなります。もちろん既に持合株式の売却などは進めていますが、含み損の大きいグループ株式は売却できないはずですから、身軽になるのは間違いありません。自己資本比率の問題も公的資金注入と円相場の安定があればまずまずのはずです。最悪でも含み損が半減する16,000Pの水準までは持っていきたいと考えているはずです。
PKOの手法ですが、前回の失敗は繰り返さないと思います。昨年は1兆円を担保にして指数先物を買い上がり、正面から外国人投資家の売り玉を浴びせられました。ですから、今年は小口に分散しながら買い上がってくると思われます。3月5日の相場で日経平均が急騰し、翌営業日の8日に15,000Pを一時回復しましたが、ここで公的資金の出動が囁かれています。両日合わせて13億株近い東証一部の商いでしたが、その多くは提灯買いと見られます。出動を印象づけることで市場回復を狙っているようです。外資による買い越しの噂も撒かれており、多分に口先介入を始めています。
あと17営業日をどう乗り切ってくるでしょうか。ある程度の市況回復が見込めれば国内機関投資家も出動して急回復する余地があります。しかし期末ギリギリでの損切りや益出しは回避してきますから、あと10営業日程度が正念場でしょうか。また、月内にはSQもやって来ます。
■ 資金運用部のアキレス腱
資金運用部にはアキレス腱があります。一つ目は、今回の出動では大幅な損失が計上できないことです。前回同様に4月以降に大下げすると莫大な損失が出ます。政府系機関への融資が不良債権化していると言われていますから、損失が出ると分かった大胆な介入はできません。
二つ目は、郵貯の2000年問題です。実質年利8.65%(年利6.33%の半年複利)という夢の定額預金が2000年までに満期となります。元金にして60兆円、元利合計100兆円などと聞こえてきます。今の低金利では継続契約は難しく、かなりの資金が外債や株式にシフトすると予測されています。これは財政投融資の運用資金が細るということです。郵貯が100兆円近くを引き揚げようとすれば、すでに保有国債の売却や、融資資金の回収が必要になります。財政投融資制度に隠された不良債権問題などのウミを吐き出される恐れがあり、制度自体にとっては極めて危険です。
£實~はオーバーであるにしても、資金運用部が手元流動性を高めるべく現預金の確保に動いたとしても不思議はありません。これまでは第2の国家予算などと揶揄された財政投融資資金も、株式市場に介入するパワーを失っているかも知れません。そうなれば、ますます口先介入に頼らざるを得ないことに成ります。
■ 問われるPKOの是非
昨年は派手に騒がれたPKOでしたが、期末にドレッシング買い(実態を伴わない、株価上昇を見せかけるための株式買い)をしているのは、バブル崩壊後ほぼ毎年のことです。昨年9月の中間期は長銀破綻や公的資金再注入が未確定だったこともあり、積極的なPKOはありませんでした。しかし、通期では株式評価損の繰り延べは好ましくありませんし、せっかく公的資金注入を決めたばかりですので、何とか株価を引き上げたいのは事実でしょう。
しかしPKOを政府主導で行うのは明かな問題です。銀行や生保など大型機関投資家が自らのバランスシートを健全化するためにPKOをするのは多少やむを得ないことですが、それを黙認するばかりか手助けすることは許されないことです。それでなくとも日本の株式市場は歪みが多く不透明だと言われます。その元凶は日本政府であるのですから・・・今期はほどほどにして欲しいものです。少なくとも、PKOに駆り出されるであろう資金運用部と公的年金資金に大穴が開かないよう努力して欲しいと思います。さて、どうなりますでしょうか。
99.03.08
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