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経済の研究No.44
拡がれ! 直接金融

 貸し渋りが続いています。実質的には資金の引き揚げに動いているので貸し絞りなのだそうです。これまでは大手一流企業でもメインバンクに負んぶに抱っこでありました。企業は安定した資金供給を受け、見返りに預金や給与振込などに便宜を図ってきました。そんなことが可能であったのは、銀行の懐に余裕があったこと、どの金融機関も横並びでサービスに差が生じなかったことなどが理由です。このため不効率ではありますが、銀行主導の間接金融による資金調達に甘んじてきました。もちろん直接金融へ乗り出してきた企業は沢山あります。普通社債、転換社債やCP(コマーシャルペーパー)の発行が盛んに行われています。しかし、これまでは補助的な要素が大きく、余程の成長企業か、急激な事業展開に積極的な企業でなければ、何も言わずに資金供与をしてくれる銀行への依存度が大きかったと言えます。

 しかしここへ来て直接金融の重要性が認められ始めてきました。一つには上記の貸し絞りがあり、返済期日通りに返済した資金を改めて借りることができないことや、融資途中に融資条件を厳しくされることが増え始めています。これは運転資金が突然調達できなくなる危険を生じており、銀行の身勝手で黒字倒産(つまり業績は黒字なのに、短期的な資金ショートで倒産すること)に追い込まれる危険が高まっていることにあります。当面は現預金額(いつでも使える状態にある現金と預貯金)を増やし、遊び金にはなりますがいつでも引き出せる多額の資金をプールするようになっています。またこれまでは相対預金(融資をしてくれる銀行に預ける預金)でしたが、市場で噂が流れただけで相対預金を担保に抑えられた山一證券の例もありますことから、メイン以外に預金を預ける企業もあるようです。
 とはいえ運転資金のために多額の現預金をもつことは無駄です。せっかくのキャッシュフローが効率的に運用できないわけですし、有利子負債の圧縮に使われず無駄な利払いを生じています。そのため現預金はそのままに資金調達の途を探り始めています。以下は大手企業の話をしますが、売掛債権や半製品、保証金など手持ち資産を証券化して流動化を図っています。長期債の格付けが高ければ社債などの長期債発行が有効ですが、近頃は相次いで格下げが行われているために調達金利が高く付く傾向にあります。普通社債は1998年2月以降発行ラッシュで、毎月1兆円、発行残高10兆円に積み上がっているそうです。運転資金であれば無担保約束手形であるCPで調達できますが、これとても一般企業には難しい話です。また現在の発行ラッシュで社債もCPも調達コストが少しずつ上昇しているようです。
 そこで格付けの貸し借りがビジネスとして浮上してきました。損保会社は比較的高い格付けを維持しています。保険財務格付けAAAの会社も比較的多いのです。これら損保会社が支払保証を付けることにより、低格付けの企業が高格付けの長期債を発行する方法が採用され始めています。損保会社は所定の手数料を受け取り、企業は長期債利回りより手数料分だけコストが割高になりますが、それでも低格付けの場合に負担すべき金利に比べればわずかなコストで済みます。投資家も高格付けの損保保証があれば安心して買うことができます。あるいは、親会社の信用を付けて子会社が資金調達をしたり、海外に進出している高格付けの子会社が調達資金を調達し、本国の親会社や系列会社に融資するということも行っています。ただし高格付けの会社がリスクを負担するので、将来的に当該企業の格下げ要因になります。

 現状では何でも債券化をすることに限界がきていますし、格付けの貸し借りも一時凌ぎにしか成り得ません。しかしこれを機会に直接金融へ目を向け、積極的な財務改善策を図り続けることができれば、結果として企業の発展が約束されることになります。これまではメインバンクによる手厚い間接金融のために、自己改革が疎かであった企業が多かったのですが、これを機会に革新が進むのならば貸し渋りも悪いことではないでしょう。それに大手企業が相次いで間接金融のウェートを引き下げれば、大手金融機関も中小企業への融資を増大せざるを得ず、VB企業の育成にも本腰を入れるようになるのではないでしょうか。

98.08.09

補足1 
 大手企業が相次いで直接金融に乗り出すと、機関投資家以外の投資家も市場に参入するようになります。国内ファンドもリスクとリターンを組み合わせた魅力ある商品作りをする選択肢が広がります。その結果、国民の預貯金が銀行を経ないで企業資本へ注入される余地が大きくなります。そうなれば相対的に銀行の地位は沈下し、現在のような横並びの時代も終わりを迎えることと思います。業界再編も進み、現在のような等閑な接客態度も改まってくるのではないかと期待しています。

補足2 
#Nまでは国内投資家は海外格付け機関の格付けに無関心でしたが、1998年以降はかなり厳しい見方をするようになっています。このため現在把握している限りではBBB企業の起債は1998年に行われていません。1997年12月のミノルタ債が最後となると思います。損保保証社債発行の第一号はホイール大手のトピー工業で、BBB格付けのところ安田海上火災のAAA格付けを借りる形で4月27日に起債した社債です(日本経済新聞朝刊4月14日)。これによりトピー工業はR&Iの長期債格付けAAAを取得した模様です。起債額が50億円と小振りである点も評価を受け、BBBで起債するよりも0.8%の利回り抑制効果があったそうです。

補足3
 CPの発行が促進されている理由は、1998年4月から銀行の介在する間接発行を廃止した効果が多いと言います。米国では信用の高い企業が手形代わりに発行して残高100兆円以上と言われていますが、日本では10兆円以下です。その理由は銀行経由の場合はCP発行に掛かる印紙税が軽減されたり、CPの大半の引受を銀行が行っていたことにあります。つまり形を変えた銀行融資であったわけで、実質的なCP発行ではなかったという事です。(週刊ダイヤモンド98年5月2/9合併号を一部引用)

補足4
 銀行の貸し渋りに始まった、積極的な直接金融が安定成長期に入っているようです。1996年度まで6兆円以下だった公募普通社債が、1997年度に8兆円、1998年度に10兆円強への拡大しました。主な引受先も取引金融機関から一般投資家へとシフトし、1999年度以降も8兆円の水準を維持しています。2001年度は大幅な償還を控えていることもあり、調達額が大きく膨らみそうだと言われています。企業にとっては、予想以上の長期低金利であり、金融機関の間接金融よりもメリットが大きいようです。
 一方の金融機関は、都銀を中心に貸出資金が大幅にだぶつき、低利の国債を買い漁っているようです。低利の運用になれば、投資家はより利回りの良い社債にシフトしますから、ますます直間比率は改善されそうです。銀行が投資銀行的な性格を強めてくれば、この傾向は益々顕著になることでしょう。

01.06.03

補足5
 いつまで経っても大手銀行は、中小企業向けの有リスク融資が下手です。大手企業と同じ尺度で測ろうとするためか、存続能力のある企業を潰し、存続能力のない企業を生殺しにしているようです。その根底には、企業の業務内容が理解できず、その将来性を分析する術を持てないことです。財務諸表だけで将来性が解るはずもなく、口べたで朴訥な経営者よりも、能弁でイカサマ臭い経営者を信用するという話もあります。
 近頃では、新たに貸さない「貸し渋り」、継続貸しするけど額を削られる「貸し絞り」に加えて、貸してくれる約束だったのに返済を強く迫られる「貸し剥がし」が流行だとか。おそらく金融当局の査定能力の限界とも関係があるのでしょうが、不良債権化している先、財務上不良化しそうな先は相手にしないのが、その姿勢のようです。
 一方で優良な企業ほど、一般投資家向けに社債などで資金調達を行う傾向が活発で、どんどん直接金融化が進んでいます。銀行が賢い有リスク融資を始めないことには、間接金融全体が細ってしまい、中小企業も壊滅的な打撃を受けかねません。つまり、銀行に間接金融の何たるかを勉強して貰うことが先決なのでしょうが・・。

02.11.30
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