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経済の研究No.31
推奨銘柄なんてウソばっかし

 無知な一般庶民に難しい商品を押しつけるのは、金融機関なら良くある話です。証券会社では為替リスクを知らされないままヘッジ無し外債や外国ファンドを買わされて大損したという話が多いです。ところが近頃では、推奨銘柄による被害も多いようです。

 推奨銘柄にはいろいろあります。自社の取り扱うファンドが新規に組み入れたりした「本物の推奨銘柄」はあるものの、こうした銘柄は長期で利益を追求するもので、短期では大きな利益が期待できません。この不景気であるからお客様は短期利益の出る高リスク銘柄を求める傾向がありますし、証券会社も手数料を稼ぐために短期勝負を勧めるのです。
 理想的相場は、歌舞伎用語が転じた「行って来い相場」で、安値で仕込んだ株が即日に高値で売却でき、また即日に安値で買い戻せる相場を言います。浮動株の少ない銘柄では平気で5%前後の値幅上下を繰り返すことがあります。これは「まあまあの推奨銘柄」ですが、市場が大崩れすると日頃の利益が数%とわずかなため、一気に利益が吹き飛ぶことも多いです。一回の売買で往復2%の手数料が儲かる証券会社にはおいしい取引ですが、顧客にはリスクの割にはまずいのです。

 最悪なのは店頭市場の新規上場株です。店頭市場はここ数年の上場ラッシュで著しく銘柄が増えています。規模の小さい企業が多くて、店頭市場全体に流入する資金も小さいです。しかし幹事会社は是が非でも顧客に買わせたいから、あの手この手で売り込むのです。すでに上場している他社とのデータ比較や、予測の甘い将来の業績予測、など尤もらしいデータを示され、公募入札価格の何割増しかで売れると勧めるのです。たしかに1996年頃は公募価格の二倍値で寄り付く銘柄がありましたが、今では珍しいです。また当時は上場後の無償増資や株主優待発表など株価を押し上げる要素が大きかったのです。しかし昨今の上場会社は問題の多いところが少なくありません。キャピタルゲインが多くは望めない現状では、好調企業は上場見送りが相次いでおり、上場する企業は何か資金繰りの問題があると考えるべきです。
 こうした推奨銘柄を掴まされた場合は、まず確実に損をします。上場後大幅に値下がりすると、売るに売れなくなるわけですが、これは値上がりを待つだけ無駄です。公募価格は証券会社が吊り上げるから高値ですが、上場後は公募株以外も放出されて大幅に値崩れします。近頃は公募価格の半値や1/3値になる銘柄も少なくありません。普通は「難平(なんぴん)買い」といって安値で改めて買い足すこともありますが、無名の店頭企業であったなら止めた方が良いでしょう。次々に新規上場する以上は、上場済みの銘柄が見直されて買われる、ということを期待できないからです。

 公募株の入札には素人が参加するものでない、というのが私なりの意見です。

98.07.05

補足1
 難平買いとは予期せぬ災難(つまり株価の大きな変動)を平準化することを指します。

  • 株価500円10,000株購入していた銘柄が、株価400円に下がったとすると100万円の評価損となります。
  • ここで10,000株購入すると都合20,000株平均簿価450円となり、株価500円を回復しなくても、株価450円まで回復すれば評価損はなくなる計算になります。
  • さらに株価400円30,000株購入すると都合50,000株平均簿価420円となるものの、一層の安値を更新した場合は評価損が拡大するリスクがあります。
  • 例えば株価300円となれば20,000株の場合の評価損が300万円であるのに対して、50,000株の場合の評価損は600万円となります。
  • また新たな難平買いで平均簿価の切り下げを行う場合でも、株価400円での買い増し額が少ないほど有利であります。

 難平買いはあくまで資金に余力が在る場合に限るべきで、無理に買い進むことはきわめて危険なことです。う〜ん、やはり上手に説明できませんね。

98.07.05

補足2
 米国のアナリスト中立性問題から、証券業界全般への不信が拡大しました。日本国内でもその影響が波及し、ある意味常識だと思ったのですが、今更ながら証券会社の推奨銘柄の「ウソ」が個人投資家に知られるようになりました。
 詳しくは、第157回エコノミストとアナリスト」を参照してください。今後はアナリストの分析の中立性が求められるとともに、推奨銘柄ごとの事後評価の公開なども必要かと思われます。あるいはインターネットによる情報氾濫の時代ですから、そろそろ推奨銘柄の廃止を選択しても良いのではないでしょうか。純粋に情報のみ提供し、判断は顧客に求めるのが本来の株式投資かと思います。証券会社が相場を作るという考えは、一種の思い上がりです。

03.01.03
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