前頁へ  ホームへ  次頁へ
経済の研究No.08
都銀のウルトラC

 会社更生法ネタの最終回。最近の申請増加の意味づけを探ってみます。

 都市銀行がBIS規制を気にしているのは既にご紹介した通りです。BIS規制に係る自己資本比率をクリアするには貸出資産の圧縮を図る(分母を小さくする)方法と、自己資本の充実を図る(分子を大きくする)方法とがあります。自己資本の充実を図るには第三者割当増資をするのが簡単ですが、現状では割当価格の設定が難しい上に引受先が見つからない問題があります。そこで政府に優先株の引き受けを求め、生命保険会社に劣後債の株式転換を求めているのですが、これとても即効薬には成りません。株価が急上昇すれば含み益を吐き出すことができますが、どこも同じことを考えているので実現は難しいです。となれば、貸出資産の圧縮を図るしか選択肢がないのです。
 貸出資産を圧縮するには、資金を回収して新たに貸し出さないことが有効ですが、これは貸し渋りと呼ばれて社会、政府に対するウケが悪いので実行が難しいです。そこで都市銀行が考えたウルトラCは、貸出先を倒産させる方法だったのです。もともと不良債権については破綻の可能性に応じた引当金を積み増しているため、破綻先債権の場合は倒産しても決算に影響を出さずに償却することができます。従来も引当金を増やしてきたのですが、この金は全く利益を生まない遊び金です。また金利減免債権は別として、一応の利払いがある債権は年々総額だけが膨らんでいます。とくにゼネコンへの貸出額は半端でないので、積み増す金額も年々負担になっています。しかも税法上の問題ですが、引当金は内部留保金の一部であるので、これは経費でなく利益の一部と見なされます。したがって、銀行が黒字決算である限り、引当金に対して高率の法人税が課税されるのです。

 銀行にとって、こんな莫迦な話はありません。国策上、潰すことが出来ないゼネコンに生命維持装置を就ける仕事をやらされ、海外事業からの撤退を迫られ、しかも引当金には高い税金が掛かります。かといって赤字決算を続ければ国際的信用を失うのです。そこで考えたのが貸出先を会社更生法の適用申請に追い込む方法です。
 まず、提携解消売りを仕掛けて相手先持株を放出します(その持株比率と、握っていた情報次第によってはインサイダー取引になるので放出できませんが、近頃はインサイダーでの立件は難しいようです。持合株式の放出という建前も使われています)。そして資金供給を絞り、貸付金の早期回収を図ります。この際メーンバンクが債権を肩代わりすれば労せずして回収ができますし、メーンバンクが肩代わりしなければその会社は倒産になります。そうなれば債権放棄を迫られますが、一般の債権カットとは違い不可抗力で倒産に巻き込まれますから、堂々と債権放棄ができます。つまり株主代表訴訟や背任罪に問われることなく、債権を償却し損金処理をすることができます。もちろん決算に悪影響は与えますが、引当金と違う損金勘定ですから有税償却と成りません。しかも最終赤字となれば、損金相当分は来期、来々期の黒字と相殺して将来の法人税を軽減することも可能です。
 相手が大手企業であれば、まず破産倒産と成りません。会社更生法適用を申請する余地が多いですし、雇用は担保され、身軽になった会社は再建の見込みができます。自身がメーンであれば、会社再建を名目にした追い貸しも堂々とすることができます。企業の命運は潤沢な運転資金の有無に依存するのです。煩わしい株主総会で増減資を決定する必要もなく、十割減資を実施すれば株主資本を全て債権回収に回すことができます。メーンバンクは自己責任もあるため、事前の売り抜けはできませんが、再度出資すれば、株式公開により将来取り返す余地もあります。

 旧財閥系を中心として、都市銀行は傘下企業を率いる責任が大きいです。以前はグループ会社を倒産させるなど論外でしたが、今では率先して会社更生法を適用させて健全経営に戻す方が有利に成りつつあります。銀行主導でグループ会社を再建することで、グループ内の発言力を強めつつある銀行もあります。例えば富士銀行は、一時経営危機が噂された飛島建設の再建に尽力して傘下に収め、安田信託銀行の救済を名目として、安田系金融機関(富士銀行、安田信託、安田生命、安田火災海上)の連合化を図りつつあります。金融持株会社の設立構想がそれです。
 彼らはウルトラCの連発によって、負の遺産を一掃し、無税で不良債権を償却し、貸出債権を大幅に圧縮してBISを向上させることが可能になりました。ただしどの銀行でも可能な手法ではありません。株式や土地の含み益が無ければ自己資本の取り崩しでしか決算赤字を埋めきれません。要するに体力のある銀行ほど経営の健全化を図ることが可能となり、体力のない銀行ほど負の遺産を引きずり続けて一層の体力消耗に繋がるのです。

98.02.11

補足1
 東京三菱銀行は不良債権に対する引当金を100%以上積み終えたと発表しました。その安心感から他行の預金が東京三菱銀行へ流入し続けているそうです。そんな優位に立った同行が次に打ち出すのは、自社株購入とその消却です。この1998年2月に定款を変更した上で自社株購入を開始すると表明。他行との体力差をさらにつけようとの戦略です。

前頁へ  ホームへ  次頁へ