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経済の研究No.10 |
総会屋がなぜ怖い? |
新聞の経済面を何度も騒がせるのは、政官癒着問題と総会屋問題です。一見違ったように見える現象ですが、いずれも経営者の事勿れ主義から来ている同根の現象なのです。政官癒着問題は、民から官に便宜を図って貰うことを目的として接近することにより生じるのであるが、図られる便宜に対する見返りが接待と天下りであることは周知であります。これに対して総会屋問題は、経営者が株主である総会屋に便宜を図って貰うことを目的としたものであり、接近するのは、経営者からの場合と総会屋からの場合とがあります。
経営者から近づく場合とは、総会屋対策のために大物総会屋を雇うことを指しています。つまり総会屋は株主総会で経営者に因縁を付けるのが一般的ですが、これに対抗するために大物総会屋から圧力を掛けさせたり、「異議なし!」の連呼で発言者の発言を封じ込めることを目的とするのです。この手はかなり有効であるそうで、例えば大幅赤字などを出した企業が一般株主の質問提起に備えて総会屋を雇うケースも少なくありません。ある大手百貨店では、株主を収容する会場を二つに分割し、メインには一般株主を入れず、強行意見を排除するという荒技を使った例もありますが、これは違法スレスレなので総会屋を雇うのです(株主社員を動員することもあります)。
総会屋から近づく場合とは、もちろん脅迫するネタを総会屋が握っている場合です。ネタにはいろいろありますが、周知の経営問題を取り上げて総会を混乱させるゴネと、経営者や社員のスキャンダルを業界紙(数頁のタブロイド紙ですが)に掲載すると脅すユスリとに分類できます。ゴネへの対応は、最初から相手にしないことです。日本企業は総会が長時間になることを嫌がる風習がありますが、本当のところは大きな問題にはなりません。ロングラン総会を演じたところで、翌日の新聞が面白おかしく書き立てることと、大株主の金融機関が良い顔をしないだけのことです。しかし、ユスリへの対応は難しいです。彼らを追い返したり、警察に引き渡したりしても新聞でスキャンダルが公開されるので、企業イメージは低下してしまいます。そもそも金銭や女性に纏わるスキャンダルを持つ人間が経営者サイドにいるのが問題なのですが、体面を気にして総会屋の意を汲んでしまいます。
総会屋への見返りはもちろん現金です。しかし、総会屋もただ現金を受け取るのは脅迫罪が成立するため、名目を欲しがるのです。相手が小者であれば、数万円のお車代で良いでしょう。相手がミニ業界紙(まあ数十部程度を発行するゴシップ紙だ)を発行していれば、その購読料や広告掲載料という名目で数十万円支払う方法もあります。三菱グループは機器のリース代やレジャー会社との利用契約金の名目で数百万円単位の資金を払っていました。その他、総会屋系のトンネル会社を経由して商品を仕入れてマージンを抜かせるいうのもあります。さらには非売品の優待券などを融通するという手もありました。これらは金額に依るが総務部など総会屋窓口の一存で支払われるのですが、帳簿上は正常な経費に紛れ込んで分かりません。最近は見つかりやすい裏金処理は形を潜めたようです。
総会屋を撲滅するには、総会屋に資金供与する企業を無くすことですが、法律だけではダメです。まずオープンな総会を目指すことが必要であり、総会屋風情のタメにする議論を排除して見せることです。まず他社とバッティングしない日を株主総会の日に選び、可能ならば日曜日や祝祭日に開催することです。金融機関など大口株主は敬遠しますが、彼らの分は委任状でも得ておけば良いのです。一般株主が多数参加すれば、初歩的な質問で時間を食うかも知れませんが、ガラス張りで総会屋の活躍できない総会が増えるはずです(総会屋も一般市民に面が割れると仕事が難しくなるのです)。
またスキャンダルを起こした役員は即刻解任することです。いまの日本企業の平取締役クラスは余人を以て容易に代えることができる程度の人材です。むしろ有能な取締役はスキャンダルの元になるような下手を打っているヒマがないはずなのですから。さっさと問題役員を解任し、スキャンダルを私人問題に矮小化してしまえば株主総会や新聞記事掲載に怯える必要もなくなります。問題役員を企業側が庇おうとするから企業イメージが低下するのです。
さらに1株株主などを相手にしないことです。単位株(例えば50円額面で1,000株)も持たない相手を株主として相手にすることに問題があります。単位未満株はさっさと買い取るように約款を変更してしまうことです。それが健全な株主育成につながるのです。経営者よ、総会屋など恐れるなというのが結論であります。
98.02.27
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補足1
株主総会において、総会屋や特殊株主・社員株主の暗躍がずいぶんと収まってきたようです。総会屋や特殊株主は、一連の不祥事問題が明るみに出たことや、警察当局の封じ込め作戦が効を奏した格好で、結果として社員株主による八百長が無用になってきたようです。
加えて、いわゆるシャンシャン総会が企業イメージにマイナスに働くようになり、開かれた総会を志向する企業が増え始めたことも理由のようです。とくに一般株主による質疑応答に十分な時間を取る総会が増え、相対的に総会時間が長くなり始めています。これまでのように長い総会は問題総会という評価をマスメディアが取り下げたことも影響しているようです。
本文を書いてから約2年、結構世の中は変わってきていますね。
00.01.01
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補足2
総会屋による表だった総会妨害は、無くなったようです。世間の株主総会を評価する目も変わり、総会が無難に早く終わることではなく、十分に株主との意志疎通を果たしたかを基準にしつつあります。無意味に総会時間の短さを競っていた時代から、大きく前進したと言えましょう。これを受けて、対話に価値を置いた総会が増え、開催集中日を避ける企業も増えてきました。良い傾向にありますが、まだまだ少数派です。
本来、株主重視の経営を行えば、開催集中日に総会を開くという非常識はできないはずですが、これまでは総会屋の存在を理由にお座なりでした。総会屋が跳梁跋扈しなくなったのですから、そろそろ総会を個性的に開催するように変わって欲しいと思います。近頃はネットで総会を同時放映するという試みも始まっているようです。株主総会のあり方を見て、株主となるかどうか投資家が決める時代も来るかも知れません。
01.06.30
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補足3
すっかり過去の存在になったと思われた総会屋が、日本信販を大きく揺るがしました。総会を助ける側の「与党総会屋」に対して、過去15年間に約9,000万円支払っていたという事実が、非常に奇異に映ります。とくに年々金額増える傾向にあり、直近では年間1,000万円に達していたそうです。社長の山田氏は退任に追い込まれました。
とはいえ、元総会屋との認識で、社内には総務部顧問であり、危機管理のアドバイザーとして説明されていたそうなので、難しいところです。1997年の商法改正により総会屋との「絶縁宣言」と無関係に継続されていたことから、旧来の総会屋問題とは違っています。専務以下の多数の逮捕者を出しましたが、変わった事件です。
日本信販は、信販業界では最大手ですが業績が低迷しています。バブル期に関連リース会社が不動産投資担保融資に邁進したことが最大の原因で、一時経営不安説が流布されるなどしました。誰の目から見ても低迷しているにも関わらず、「業績低迷の責任を、総会で厳しく追及されたくなかった」という理由だけで継続していたのであれば、恥ずかしい限りです。他社でも、同様の人物との付き合いが明るみに出てくるでしょうか。
02.11.30
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