フランチェスコ・ジェミニアーニはイタリアのルッカに生まれ、後にロンドン、アイルランドで活躍した音楽家である。コレルリ門下の最も有名なヴァイオリニストであり、優れた演奏者として名声を馳せる一方で、作曲家、教育家、理論家としても活躍した。彼の活動の場は主にイギリスであったため、ジェミニアーニはイギリスの音楽家と言えるが、前々回のボイスとは異なり生粋のイギリス人ではない。
ジェミニアーニの作品にはヴァイオリン・ソナタ、チェロ・ソナタ、合奏協奏曲があり、その中には彼の師コレルリのヴァイオリン・ソナタ作品5全曲(ラ・フォリアを含む)の合奏協奏曲への編曲もある。
今回取り上げる作品3は1733年に初版が出版され、1755年に作曲者自身による改訂版が発行されたもので、ジェミニアーニの代表作である。形式は緩−急−緩−急の4楽章制で、当時としてはいささか時代遅れのコレルリ様式である(現在、協奏曲において主流である急−緩−急の3楽章制は、すでにヴィヴァルディの作品8「和声とインヴェンションの試み(『四季』を含むもの)」などで知られていた)。またジェミニアーニの音楽は多声音楽、いわゆるポリフォニーであり、この点でもホモフォニックな協奏曲へと移行しつつあった時代の流れと逆行するものであった。ソロ楽器は複数から単数へと移行しつつあったのだが、ジェミニアーニはヴァイオリン2本とチェロで構成されるソロ楽器群にさらにヴィオラを加え、4声に増やしてさえいる。
時代に逆行した、あるいは形式的な面で保守的な作曲家を受け入れるほど、学校の音楽の時間に余裕がないのはこれまでも触れたとおり。やむを得ないのである。しかし学校の授業(ちなみに筆者は中学校までしか音楽の授業を受けていない)では習わなかったブルックナーやマーラーが今、ブームを巻き起こしているのはご存じのとおり。ジェミニアーニ・ブームを引き起こそうという大胆な野望は持っていないが、彼の音楽の曲想、和声はかなり斬新であり、決して退屈な音楽ではないと感じられるので、ぜひ一度は触れていただきたいと思うのである。
そこで次回から三回にわたっては、「ジェミニアーニいいとこ取り」と題し、作品3の6曲全てから聴きどころできるだけたくさんピックアップしてお届けする、という趣向とした。なるべく多くをお届けしたいのだが、労力とのバランスでほんのさわりしか作成できなかったものもある。ご容赦願いたい。またソロの4声のみとし、伴奏楽器群は省略している。
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