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政治の研究No.133 |
一票の格差は、どうなるの? |
ゲリマンダーという政治学用語があります。米国のマサチューセッツ州知事であったエルブリッジ・ゲリー氏が、1818年に州内選挙区の区割りを変更した故事に因っています。彼はのちに、第四代大統領マディソンの二代目副大統領にも就任していますが、自分に都合の良い不自然な選挙区割りを導入したことを指弾されました。その歪な選挙区の形が伝説の怪獣サラマンダー(ギリシャ神話に発祥。炎の守護精霊が具現化したものと謂われる)に似ていたことから、ゲリーに引っ掛けて、ゲリマンダーと呼ばれたのです。
日本では、ハトマンダーという用語もあります。1954年に首相になった鳩山一郎氏が提出した小選挙区制法案において、不自然な選挙区割が多々含まれたため、ゲリマンダーを捩って、名付けられたものです。当時は民主党総裁でしたが、後に自由民主党の源流の一つとなっています。
それとは別に、有権者の「一票の格差」について、議論が長く続けられています。平成12年末において、衆議院で2.44倍、参議院で5.02倍という数字が出ています。ピンとは来ませんね。衆議院の場合で謂えば、19.2万人の投票で選出される議員(島根3区)と、46.8万人の投票で選出される議員(神奈川14区)が居ることに成ります。一旦選出されれば同格ですので、問題が大きいと言われているのです。
これが違憲かどうかは、裁判で何度も争われてきました。最高裁は合憲という結論を繰り返すばかりですので、国会としても小手先の微調整に留めてきました。結局の所、最高裁判事は与党が首根っこを押さえているので、簡単に違憲と主張できないのでしょう。日本の国体として、大きな課題と成っています。とはいえ、完全比例配分が、国会議員制度に有効であるのかどうか、大いに議論すべきではあります。
自民党にとって、地方部は有力な基盤であります。医療・建設・郵便局・農協などの組織をフル動員できるため、野党候補に圧倒的な差を付けています。その地方部に対して多くの議席を配分するのは、当然でしょう。より強力な基盤を持ち組織票が期待できる選挙区に、より多く割り当てています。島根県といえば、昨年に大物議員が亡くなりました。
加えて、自民党政治家が、老人福祉・相続などに力点を置いている理由は、彼らの多くが自民党支持であるためです。その支持票を繋ぎ止めるためにも、バラマキを続け、より有利な状況を演出しようとしています。有名人を多く抱えやすい自民党が有利になるよう、参院比例選挙の投票方式を採用したのは去年でした。自民党のゲリマンダーは、必ずしも選挙区に限らず、有権者全体の配分を自党有利に形成してきたのです。一票の格差は、偶然にできたものでなく、ゲリマンダーの当然の帰結として作られたのです。
その他にも、大きな要因はあります。あれだけ地方に資金をばらまいたのに、地方活性化には役立っていません。相変わらず、地方の人口減少・高齢化が進み、都市部の人口増加・核家族化が進んでいます。この人口移動をバランスさせない限り、ますます地方部の当選得票数は低くなり、都市部の当選得票数は高くなり、格差が一層拡大します。単純人口比で議員数を配分してしまうと、圧倒的な都市部議員の総意で、地方に資金が回らなくなることが懸念されます。
本論から言えば、過疎化に役立たない資金を都市部に窮乏を強いてまで配分する、現在のスタイルが問題です。繰り返し書くように、満足に機能しない公共施設を漫然と作るだけなら、地方に無駄金は要らないのです。しかし、それでも産業として公共事業は存在し、幾ばくかは過疎化をくい止めています。単純に資金を断てば、さらなる過疎・人口流出を招くでしょう。必要なことは、引き続き資金を配分するにしても、それを産業発展に役立て、人口流入に繋げることが必要です。若者がIターン、Uターンで集まってくるような、持続性のある殖産に活かされるべきです。
そのために必要なことは、地方部でバラマキを行って当選する議員ではなく、真剣に地方のためを考え、地域活性化を行える議員を選出しなくてはダメなのです。ただし、それ故に地方部の議員数配分を多くして欲しいというのもナンセンスで、政党としてそういう主張・政策提案のできる相手を支援すれば、十分なはずです。優秀な議員候補を、他選挙区から誘致して担いでしまうのも一策です。
論点が逸れました。一票の格差は、早期に是正すべきです。ただし、それは都市部に利益誘導型議員を増やすということでなく、国家的見地から政策を考え、それを実行できる議員を増やすことです。無駄になるバラマキ投資を止めて、本当に有益な使途に資金配分できる議員や政党を育てることです。その変革を恐れる自民党を、根底から揺すぶってしまわないと、日本は崩壊します。
小泉首相は、どう出るのでしょうか?
01.05.20
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補足1
小泉内閣の支持率が80%近いために、自民党議員は浮かれています。自民党の支持率も10%以上アップしたそうですが、呆れていた支援層が戻ってきたレベルのようです。自民党では、衆参ダブル選挙で過半数をと息巻いてもいるようですが、内閣を支持する国民の大部分が期待するのは、現状の打破と抜本的な改革です。場合によっては、革命と言い換えても良いでしょう。
これまで最強を誇ってきた橋本派を中心に、ダブル選挙反対の声が強いのは、その事実をよく知っているからでしょう。反小泉のレッテルを貼られた議員候補は、間違いなく落選します。そういえば都内では、早くも小泉首相と並んだり握手したポスターが目を惹きます。選挙前なのに、ゲンキンなものです。以前は石原都知事と写っていた人もいますが・・形だけでどうするのでしょうか?
01.05.20
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補足2
ちょっと資料が発見できなかったので、後日に補足します。2000年には議席数の見直しを進めています。衆議院では、島根県ほかから議席を削って、神奈川県他へ配分する定数改正が行われます。人口比例には遠いですが、大物政治家が相次いで消えたこともあり、調整がしやすくなったのでしょう。参議院でも、比例の定数を削って総枠を縮小します。
一票の格差を無くすためと称して、昔は安易な定数増を図ってきました。たしかに文句の出る選挙区の議員数を増やせば簡単ですが、結果的に無用に議員が増えてしまいました。各選挙区に所属する現役議員から見れば、定数減はそのまま自分の失職に繋がります。既得権から反対する議員は多数あります。一応は党内での意見調整もして、定数をこれ以上増やさない方向で頑張っていますが、削っての調整は結構難しいようです。
01.05.20
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補足3
綿引弘氏の「世界の歴史がわかる本」(三笠書房)に興味深い話が紹介されています。英国ビクトリア女王の時代、議会政治は発達したものの、典型的な制限選挙で、有権者は地主などに限られました。産業革命により都市人口が増大する一方で、過疎が進む農村人口が大幅に減少しました。
ある村では5家族12人なのに、議員を2名選出し、ある村では水没してしまったのに地主3人がボートで投票して1名選出するなどしたそうです。それに対して、人口数万人でも1人も議員を出せない都市があったということです。日本も昔は制限選挙でしたが、ここまで酷い話は無かったでしょうか。
いずれにしても、選挙も議員も金持ちのモノという考え方は、万国共通のようです。そういう考え方を、どんどん変えていかないことには、ゲリマンダーも1票格差も無くなっていかないでしょうね。
01.05.29
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補足4
衆議院選挙区画定審議会は、衆議院選挙区の区割り見直し案を作成し、小泉首相に勧告したそうです。具体的には20都道府県の68選挙区の区割りを変更し、一票の格差を2.573倍から2.064倍に縮小するという案です。小選挙区制度に移行してから最初の見直しとして注目されましたが、2倍の壁を崩すことができませんでした(衆議院選挙区画定審議会設置法では、格差が二倍以上にならないことを基本とすると規定してあるそうですが)。
またせっかくの勧告ですが、2002年に与党三党での議論を待つため、今後1年間は事実上の棚上げになるそうです。最大格差は、高知1区(27.1万人)に対する兵庫6区(55,9万人)で、高知1区に対して2倍以上になる選挙区は9。現在の島根3区と2倍以上になる選挙区が95であるよりは改善するという説明がされています。
上記審議会は、細川内閣時に発足し、必要に応じて首相に勧告できる機関です。委員は元最高裁判事や早大名誉教授、元自治相事務次官らがメンバーで、任期は5年間とのことです。今後改めて見直しを行い、新たな勧告がなされることに期待しましょう。
ちなみに、1889年当時の定数は300人(小選挙区)。1900年に369人(大選挙区)、1919年に464人(中選挙区)、1986年に512人(中選挙区)、1994年に300人(小選挙区、比例代表分を除く)という大きな変遷を辿っています。
01.12.31
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