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政治の研究No.125
二十一世紀の著作権は?

 インターネットの爆発的な普及は、二十世紀の著作権のあり方を、大きく問い直しつつあるようです。著作権は、無体財産権であるとか、知的所有権であるとか、財産権の一つであるとされています。一般論としての著作権は、著作者が自己の著作物の複製・発刊・翻訳・興行・上映・放送などに関して独占的に支配し利益を受ける権利とされます。
 しかし、十九世紀以前の著作権の概念は、もう少し違ったものでした。著作は専ら啓蒙の道具であって、著作者が著作によって利益を得るのは副次的効果であり、専ら自らの思想(価値観)を広めることが主たる効果であったと思います。もちろん著作物そのものを売って利益を得ることはあったわけですが、美術品や芸術品などが中心であり、その著作権は人でなく作品に付随するという考え方が妥当では無かったかと思います。盗用や盗作を巡るトラブルもあったようですが、これも財産権を守るというよりも、名誉を守るという意味合いが強かったと思います。

 二十世紀は、複製や頒布の技術が発達したという背景もあって、著作権の範囲が拡大した時代だと思います。著作物のコピーを量産する出版が行われ、そこから印税を徴収することで、著作者が喰っていくことが可能になりました。また、著作物を別の媒体に置き換えることで、小説が脚本になったり、脚本が映画になったり、映画がゲームになったり、ゲームが小説になったり・・と人気の出た著作物は、スパイラル的に大きなマーケットを作るように成りました。
 本来は著作権の範囲ではない、二次的著作物へも著作権が及ぶようになりました。例えば、映画やゲームのキャラクターが人気になった場合、原作が小説であれば著作権は及ばないはずです。しかし、原作のキャラクターのイメージから生み出されたものであるから、やはり原作家の著作権が及ぶとする見解が主流のようです(「キャンディ・キャンディ」の著作権問題が、最近では有名でしょうか)。さらにキャラクターグッズにも及ぶとなれば、三次的著作物にも成りますよね。
 また、二十世紀はマス・マーケットの時代、つまり大量生産の大量消費時代でもありました。マス・メディアとのタイアップなどで、アッという間にミリオンセラーが登場したりしました。必ずしも佳作ばかりでなく、業界にばらまかれる金額の多寡が、著作物の頒布力に影響したりもしました。「流行は作られる」などと言ったものです。

 とはいえ、本当に著作者にとって、有り難い時代だったのでしょうか? 自分の著作物が全国くまなく頒布されることで、歴史上の人物よりも有名になるアーチストが何人も登場しています。小説にせよ、レコードにせよ、映画にせよ、爆発的な売り上げによって潤った著作者が沢山います。しかし、それ以上に儲けたのは、出版社やレコード会社や映画会社、所属事務所であります。同時に広告業界なども利潤を上げました。
 著作者にも利益は入りましたが、その大部分は、業界に搾取されているのが実状です。人気のある著作者の利益は、人気のない著作者のために使われている現実もあり、手厚い著作権保護と言われながらも、著作者は不当に扱われてきたのではないでしょうか? 業界団体のあり方に批判的なアーチストが多いのも事実です。ただし、その業界に育てて貰ったアーチストが多いことも現実ですが。

 インターネットの普及により、著作物の頒布が簡単に成りました。これまでは文字が主体でしたが、近頃では音声も映像も配ることが可能です。複製にコストが掛かりませんし、宣伝も口コミで結構拡がります。莫大な宣伝費を投じることなく、自分の世界(思想や価値観)を他人に伝え、共有して貰うことが可能に成ったのです。逆に多大な宣伝費を投じても、ネットユーザーは正直ですから、価値のない著作物には見向きもしません。人気はともかく、実力のない著作者は淘汰されるのです。
 一方で、ネット海賊版の普及には頭を痛めています。二十世紀の海賊版といえば、不正に利益を掠めることが目的でしたが、近頃は善意で無償頒布してくれる例が多いです。最近ではナップスター問題がありました。グヌーテラ問題の方が新しいでしょうか。しかし考えようによっては、ネット海賊版が普及することは、著作者や著作物の宣伝を担うことでもあり、人気のバロメーターでもあるでしょう。頒布により利益を得ることを放棄するなら、有り難いこともあるでしょう。
 それでも著作者にとって、著作権料は重要なものです。頒布で利益が得られないのなら、興行や放映・上演で利益を上げなくてはダメですね。歌手なら、CDの売り上げは放棄するが、コンサートやTV出演などで利益を上げるのも一考です。ネットでファンが増えれば、そのファンを動員すれば良いでしょう。著作物でも一部をフリーで頒布して、メインは有償頒布する手もあります(マーケット・リサーチの要領でもあります)。どこまで行っても、複製権は著作者が持つのですから、不適切な海賊版には対抗措置を執るべきです。

 著作物の複製が出回り人気が出る理由は、一般に頒布される著作物が高すぎることに理由があると思います。アルバムCDが一枚3,000円以上するご時世ですが、印税は数百円でしょう。一枚500円で売り出せば、飛ぶように売れることでしょう。今でも、楽曲を100〜200円で売るサイトがありますが、これが30〜50円になれば海賊版もかなり駆逐できるはずです。多くのユーザーは、海賊版の利用や不正複製に罪悪感を感じているはずですから・・。
 映像では、ストリーミング技術が向上すれば、見限り販売という方法も採れると思います。通信回線が太くなることも前提ですが、ユーザーが見たいと思ったときに見られるライブラリサービスが普及すると良いと思います。映画一本300円という水準ならば、ビデオレンタルの感覚で見てくれるユーザーが多くなるでしょう。少なくとも現状では、巨大なハードウェア投資をしてまで海賊版ビデオライブラリを作る人は、少ないのではないでしょうか?

 ユーザーに著作物の不正利用をさせた最大の原因は、著作物の価格の高さにあると考えています。その価格が下がり適正な水準になれば、正規な方法で利用しようとするユーザーが増えると思います。そのためには、無駄な宣伝費や物流費や人件費を削減し、理想的には限りなく著作者の利益に近づけることだと思います。幸いにも、インターネットの普及により、その可能性は大いに高まっています。もちろん、著作者がコストを負担して、広く頒布する努力をする必要がありますけれど。
 著作権のあり方や考え方が、二十一世紀に大きく変わってくれることに、ポン太は強い期待を持っています。読者の皆様は、どのようにお考えになるでしょうか?

01.01.03

補足1
 例えば、ネット・アイドルの存在を考えてみましょう。
 そう知るわけではありませんが、ネット・アイドルはバーチャルな世界にあって、口コミでファンを形成しているそうですよね。アイドル達の中には、顔も声も知られていなくて、その文章だけでアイドルに成っている人まであるそうですが、業界がイメージを作り上げてしまった従来型アイドルとは違って、興味深い存在です。
 ネット・アイドルであることで、実益はほとんど生まないかも知れませんが、中にはリアルワールドに登場して、有名になってしまったネット・アイドルもあるようです。そういえば、一時期は声優さんがアイドル化してしまった例も多かったですね。

 同じように、ネット・コラムニストの存在もありますか。
 何か主張したいことがあっても、自費出版となると敷居が高いですし、不特定多数の人の手に届けるのは大変な話です。だからと言って、既存の出版社に持ち込んで売り込むのも大変です。しかしネットなら簡単だし、コストもわずかです。弁護士や学者、学生やアイドルまでも、そのコラムで収入を得ることを目的とせず、自分の主張を知って貰いたいという趣旨で書かれたものが多いようです。
 ネット界に溢れている駄文も同様ですね。ポン太の書く駄文も、ネットで無料だからこそ読者が付いて下さいますが、駄文を出版しても誰も買おうと思わないですよね。自費出版する気も、サラサラありませんし・・。

01.01.03

補足2
 国内の音楽出版社やプロダクションなど11社が、2001年10月を目処に音楽著作権の管理ビジネスを立ち上げるそうです。新会社「ジャパン・ライツ・クリアランス(仮称)」を設立して、インターネットによる音楽配信を中心に、アーティストの立場を重視した著作権保護に乗り出すとのことです。
#N11月の著作権法改正により、日本音楽著作権協会(JASRAC)以外にも法人が設立できるようになったことを受けたものです。新会社は、ビッグアーティストを多数抱えており、JASRACの独占体制に風穴を明けられそうで、期待が持てます。ほかにもインディーズ系アーティストの楽曲を請け負うベンチャー企業なども名乗りを挙げていますし、ネット企業による音楽配信にも弾みがつきそうです。
 JASRACはこれらアーティストの著作物の配信を請け負えなくなり、手数料収入が減少することに成ります(1999年は、約1000億円の手数料と言われます)。アーティストの自由活動を阻害すると不評であり、度々トラブルを起こしていましたが、これで手数料削減や規制緩和を進めることを余儀なくされることでしょう。二十一世紀の著作権ビジネスは、早くも動き始めましたね。

01.01.20

補足3
 補足2の補足です。著作権法の改正は、2000年11月21日に国会で成立したものです。著作者個人に代わって著作物の使用料を徴収したり権利を保護したりする「著作権管理事業」を、文化庁の許可制から登録制に規制緩和したことが主たる点です。
 これまでは、JASRACや日本脚本家連盟など特定4団体による独占でしたが、民間企業が自由に参入できるようにしたことが目立ちます。また、従来の音楽・小説・脚本に加えて、ゲームソフト・レコード・放送・実演なども保護対象となることが明記されました。さらに著作物の使用料を管理事業者が設定できるようにした点も見逃せないポイントです。
 なお、特定4団体は、著作権トラブルが発生した場合に、使用料決定などの強い影響力を持つ「指定事業者」となり、トラブルを裁けない当事者と協議するとのことです。協議が成立しない場合は、文化庁が裁定して和解へ持ち込むそうですが、著作権ビジネスの裁判も増えそうです。

01.02.17

補足4
 著作権の無法地帯と言われる、ネットオークションの世界。著作権管理の9団体で設立した「不正商品対策協議会」は、最大手のヤフーに申し入れを行っているそうです。具体的には、ソフトの海賊版や偽ブランド商品の出品の差し止め、出品者の身元確認の徹底です。匿名性を利用した不正商品の出品が明かである以上、身元確認を徹底すれば、問題は解決するという見解です。
 ヤフーは、アダルト規制品など刑法違反の出品が目立つことや、取り込み詐欺も急増していることから、警察からも身元確認の徹底を促されています。2001年3月を目処に、クレジットカードをベースにした身元確認を行うそうです。ただし、毎月高額の会費を徴収することも唱っており、現在調整中ではあるものの、ユーザーの評判は悪いようです。
 実際のところ、身元確認の徹底はあまり意味が無いようです。より大きな組織が、より巧妙な手段を駆使するだけであり、むしろ梁山泊のような存在にして、問題が発生する都度、徹底的に匿名の悪意者を洗う方が、理に適っていると思いますが、いかがでしょうか。

01.02.17
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