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経済の研究No.198
普通預金はノーサンキュー

 普通預金に対するペイオフ解禁が延期されました。優良でない金融機関は一息ついたようですが、それだけに金融機関全体の不信感が払拭できません。大手銀行でも国費の再投入が懸念されるものの、メガバンクの実質国有化は、世界に対して恥を晒すものです。

■ 個人金融資産1,400兆円の嘘
 ペイオフを恐れる定期性預金は、普通預金にシフトしています。国内外の市場に有望な投資先が無く、タダ同然の金利でも預けられるだけ幸せという感じでしょうか。個人金融資産が1,400兆円と云われますが、これが統計の大きな誤魔化しであることは、何度も述べてきたとおりです。国民一人当たり1,700万円強の預貯金があろうはずもありません。この誤魔化しには、二点の嘘があります。

 まず第一に、金融資産の偏在です。3億円以上の金融資産を持つ日本人は、60〜100万人(結構幅があります)と言われ、こうした大金持ちが全体平均を引き上げているに過ぎません。また1〜3億の小金持ちがそこそこいる中で、200万円以下という人(もちろん子供も含む)も多くあります。
 ペイオフで泣きを見るのは、一金融機関に1,000万円以上を預けた人ですから、大金持ちだけに影響があります。小金持ちは、複数の金融機関に現預金を分散できるでしょうから、少々の運用効率の悪さに目を瞑れば良いのです。預金を一時期だけ引き出せない不便さは、預金者全員にある問題ですが、いくつか実例をこなすうちに解消するでしょう。

 つぎに第二に、金融資産のうち不良化している割合が相当あるはずです。もしも銀行や生保が、即座に不良債権の損切りをしたとすると、いずれも債務超過になると思われます。株式不況は本格化しており、手持ち株式で売却できない銘柄を大量に抱えている彼らは、損切りを表面化せずに隠しています。とくに銀行は、毎年段階を追って不良債権や株式含み損を償却してギリギリなので、時価会計が導入されただけでも火を噴くでしょう。
 預金通帳や預金証書は、額面金額で換金して貰らえます。しかし、預金者全員の換金は無理です。払出しの原資を欠くことになります。これは単なる資金ショートでなく、帳簿価格と時価との乖離が生じているためなので、極めて深刻です。

■ ペイオフ先送りを望むのは
 ペイオフ先送りを望むのは、もちろん前述の大金持ちです。しかしそれ以上に、銀行自体が望んでいます。自行から多額の資金を引き揚げられると、債務超過が顕在化して破綻してしまいます。かといって、他行から大量の資金が移ってきても、逆ざやの現状では首を絞めるだけです。ほどほどの水準で預金があり、ほどほどに利益を計上し、ほどほどに不良債権処理ができる水準が望ましいことになります。
 つまり、一見すると国民のための普通預金保護を謳いながらも、本当は銀行の破綻回避策だという話になります。大金持ちでさえも、ただ漫然と銀行に普通預金を積むはずもなく、その資金力にものを言わせれば、グローバル投資で安定収益が上がるのですから、いい面の皮でしょうか。

 いずれ普通預金にペイオフが導入されると、普通預金にプールされている資金は、当座預金へシフトすると思われます。本来の当座預金は、決済性預金口座ですから、決済目的でない資金がプールされても邪魔なだけです。決済性口座をペイオフ対象とすると、その口座取引に関連した連鎖倒産を招くために、当面はペイオフ導入が見送られます。ほとんど無金利の普通預金の性格からすれば、当座でも良いことになります。
 また、破綻してもペイオフと無縁な郵便貯金は、預け入れ上限が1,000万円とされています。しかし、1,000万円以上を預けることは可能です。ただ金利が付かないだけです。郵便貯金へ資金シフトさせている資産家もあるようです。もちろん家族名義口座などで上限一杯を使い果たした上でしょうが。この郵便貯金もまた、財政投融資などに回っている資金が不良化していると言われます。直接預金者に不利益を与えませんが、不良が顕在化すれば国税で補填されます。

 以前なら、当座預金や郵便貯金へのシフトを嫌っていた銀行が、近頃は何も言わなくなっています。先述のように、普通預金がほどほどの水準であることが望ましいためです。日本銀行による国内銀行の預金調査によって、1億円以上の普通預金のある口座の預金合計額が、全預金額の17.4%を占める事実が判明したそうです。しかも、大手銀行に大幅シフトしているため、アップアップの様子です。

■ 銀行の融資下手、投資下手
 大手銀行が国債投資に大きくシフトしていることを書きました。途中売却しなければ、国債価格が暴落しても元本割れになりません。預金を遊ばせるよりマシという意味での国債投資ですが、この利益から経費と預金保険料を支払うと、すでに赤字です。預金保険料は預金残高に定率で利いてくるため、預かれば預かるほど赤字になります。

 ローリターンの国債投資を止めれば済みますが、中小企業など有リスクの貸出先を正しく査定する能力を持ちません。それでなくとも、大手企業向けで債権放棄や金利減免を続けている中で、ローリスク・ハイリターンの投資先は多くありません。超優良企業は一般投資家向けに社債を販売しており、銀行から借りてくれません。貸出条件などで超優良企業と良い関係を構築してこなかったツケも出てきています。
 比較的に焦げ付きの少ない住宅ローンや、貸し倒れリスクのカバーがしやすい低額個人ローンにもシフトしつつありますが、市場に限りがあって旨味が薄いです。ここでもリスクを少し多く取るだけでリターンが増えますが、ローリスクに拘るあまりにローリターンの傾向にあります。早くリターンを増やすノウハウを培う必要があります。

 融資下手を長らく補完してきた株式投資ですが、国内銀行には良い知恵が無いようです。持合株式の解消も、当初計画ほどには進んでいません。株式市場が冷え込んでいるため、望んだ金額で売却できないことが理由ですが、時間が経つほどに含み損が増えてしまい、ますます売却できないようです。ネットバブル期に仕込んだ株式も、大きな含み損を抱えているようです。
 海外投資にしても、海千山千の海外金融機関を相手にするのは苦手です。米国同時テロで話題になった再保険引受、エマージェンシー市場投資などハイリスクな商品をそれと知らずに買ってしまった金融機関もありました。世界的不況期には、手を出さないのが最善です。結局は、投資下手でもあったわけです。

■ そして、ノーサンキュー
 いつもならボーナス時に預金勧誘に来るはずの銀行が、今夏は消極的でした。今冬はさらに消極的だろう、と言われます。勧誘に人員を割くよりも、回収に人員を割いています。優良企業向けには融資のための日参もしているようですが、中小企業向けには「貸し絞り」に「貸し剥がし」だと言われます。その行動を異常と思わない銀行は、むしろ異常です。

 銀行は、金貸しです。出資者から資金を調達し、自分の利潤を載せて融資するのが王道です。どんなに自身を飾っても、出資者なしに利潤は得られず、これまでその利潤で喰わせて貰ったはずです。その利潤の提供者は、圧倒的に中小企業向けでありました。大企業向けは美味しい稼ぎでなかったはずです。
 出資者である預金者からは、政府の国定金利のお陰で、長年の低利調達が可能でした。現在でも超低利のお陰で首が繋がっています。不良債権に喘ぐ銀行に、1%未満の金利で資金を貸してくれる出資者が他にあるでしょうか。
 つまり銀行は、預金者と中小企業のお陰で食えてきたはずなのです。いずれも個々では小さいため軽く見ているのでしょうが、全体としての存在を見直すべきでしょう。

 そして、ノーサンキューです。預金を引き揚げて欲しいが多額だと困るし、タダで預かって欲しいと言われても新規の預金は要らない。あまりに横柄で、あまりにいい加減です。一等地に店舗を構え、立派な内装、高価な設備、素晴らしいシステム・・これを自分の実力と過信するいい加減さ。これを改めない限り、銀行が本来の役割を取り戻すことは難しそうです。

■ むすび
 確かに、普通預金は荷物かも知れません。ボーナスが纏まって集まってきても、良い運用先を思いつかないかも知れない。しかし、預金獲得のために、中小企業や個人商店を駆けずり回り、様々な情報を入手・分析して融資に道を繋いだ努力は何だったのか。地方で集めた預金を都市で融資し、それを大量に焦げ付かせたのは誰だったか。下位行の優良融資先を横取りしながら、ミスリードして経営不安に陥れたのは誰だったか。
 今、ノーサンキューと言える立場かどうか、冷静に考えて欲しいです。全ての元凶は、銀行自身の融資下手・投資下手にあります。その原因は彼らの勉強不足にあり、さらには大企業重視、中小企業や預金者の軽視・・へと繋がります。さぁ、この苦境にこそ、新規預金の獲得に邁進しましょう!

02.12.01

補足1
 「三人寄れば、文殊の知恵」と言いますね。投資銀行としての実績がある日本興業銀行、資金力に定評のある富士銀行、系列色の薄い第一勧業銀行、これら三つが協力すれば最強のメガバンクとなるはずでした。しかし、システム一元化に失敗し、相互のメリットを出し合えず、早々に沈没の気配が漂っています。どの母体銀行にも、融資や投資で高いリターンを確保するノウハウが無いとは・・誰も予想しなかったことでしょう。他の大手銀行と同様に、無意味と分かって国債を買い漁る様子は、哀れでもあります。
 せめて「三本の矢の教え」のように、互いに助け合って、粘り強く生き残って欲しいと願っています。

02.12.01

補足2
 国内メガバンクが、自身の信用回復に躍起です。株式市場の低迷による含み損の増大、それを織り込んだ自己株価の急落が応えています。メガバンクから国有化銀行を出す可能性が高まっています。UFJ、みずほの両グループは合併差益を捻出して延命策を講じましたが、三井住友銀行も思い切ったM&A策(本体を解散し、子会社「わかしお銀(第二地銀)」を存続会社とする吸収合併を行うというもの)を発表しました。政府による経済対策が実効を上げない限り、これらが「焼け石に水」で終わる懸念もあります。
 一方で、国有化を経て民営化した新生銀行やあおぞら銀行に羨望の声が上がっています。瑕疵担保特約の活用により、両行ともに不良債権を圧縮し、好調な運営をしています。未だリスクを抱えるものの、メガバンクよりは健全なようです。

 またメガバンクでは、不良債権分離会社の設立が流行のようです。銀行本体から一定額の不良債権を分離し、これを持株会社の下に設立する受け皿会社へ移転するものです。銀行本体の不良債権額が減少し、銀行単独での自己資本比率は改善するメリットがあります。また、各支店等に分散する不良債権を一元管理して、企業再生や債権回収を効率化する目的もあるようです。
 先行したUFJが1兆円を分離し、メリルリンチに受け皿会社への出資を求めたことが話題になりました。外資の資本参加による信用補完を狙ったようです。
 続いたみずほ銀行は最大5兆円の分離を発表しました。これに合わせてグループ内の信託銀行2行の合併、カード・システム事業等の子会社の昇格、銀行・証券部門の中間持株会社の新設(正確には、現在の持株会社の上に、新しい持株会社を設立し、カード・システム事業もぶら下げる)などが目玉で、合併後1年未満での再編実施になります。

02.12.29
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