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経済の研究No.182
お寒くなった日本株式市場

 日本の株式市場が、再び低迷期を迎えています。ネットバブルの盛況や、ネットトレードの普及という追い風が失われ、市場の地合がかなり悪化しているようです。外国人の売り越し、個人信用取引の手仕舞い、含み益低下による銀行株の急落、ゼネコンや流通での新たな破綻説、森内閣の不安定など、マイナス材料には事欠かないようです。20世紀も残すところ1カ月余りですが、記録的な安値で幕を引くのでしょうか。

■ 無くならない、外国機関投資家への期待
 内国機関投資家(銀行や生保・証券、および一般企業)が売買に占めるウェートは、かなり落としています。個人投資家の躍進もありましたが、やはり市場全体では外国機関投資家への期待が高まっています。NY市場やナスダック市場は、大きなブレを繰り返していますが、懸念されたほどに急速な下落もなく、緩やかな調整を見せています(NYダウはピークから10%ダウン、ナスダック指数はピークから40%ダウン)。米国大統領選挙の動向も気になりますが、年内は辛うじて安定しそうです。その安定に内国機関投資家は期待を繋いでいます。
 かつては閉鎖的市場と言われ、外国機関投資家の参入は限定的でした。しかし、ここ数年の内国金融で混乱したことや、米国で未曾有の好景気を迎えたことなどにより、外国機関投資家による積極的な買い越しが進みました。いささか荒っぽいやり方に巻き込まれ、内国投資家が大きなダメージを受け、いくつかの内国機関投資家を中心に、破綻企業も相次ぎました。体力を失った内国機関投資家は、結果的に外国機関投資家に従うしか無くなったのかも知れません。
 その外国機関投資家が、売り越しに転じたまま、一向に買い戻しに動いていないようです。内国機関投資家の凋落は歯止めが利かず、一層悪化する方向に進んでいるとアナリストも増えています。政治の混乱がさらなる悪化を招いており、このままでは株式市場も債券市場も大きなインパクトを受けそうだとの見方が有力です。日本政府の国債増発にもストップが掛からず、買い頃はもう少し先というところでしょうか。
 それでも外国機関投資家の積極的な参入に望みを繋いでいる内国機関投資家は、あまりに哀れかも知れません。無用な期待は、裏切られる元です。内国市場は内国資本によって形成されるべきであり、その主体は内国機関投資家であるべきなのですが・・。

■ 個人投資家は沈む
 個人投資家は、再び沈んでいるようです。ネットバブルの時代には景気の良い個人もありましたし、新規上場株を渡り歩いて大金を稼いだ個人も多いと聞いていました。ネットトレードの普及で、これまで株式投資に関心を持たなかった小金持ちが参入したという話も聞きます。投信人気で、間接的に株式購入に手を貸した個人も多かったようです。
 しかし、ネットバブルが極めて短期間で、しかも著しく悪い後味で幕を引いたことから、再び個人投資家の市場離れが進んでいるようです。ネットトレードは、どうも水増しした売買高を申告しているようで、今ひとつ信憑性がありません。夏以降は、かなり投資家が離れているはずなのですが、実態がよく分かりません。しかし、信用取引の残高推移を見る限り、明らかに個人投資家は逃げに入っています。9月初めから9週間連続で、信用買い取引の残高(制度信用と一般信用を含んだ金額ベース)は減少を続けており、年初来最低の記録を更新しているそうです。少ないながらも信用売りは増えているのですが、個人を中心に手仕舞いしているのは間違いなさそうです。
 個人が信用買いを手仕舞っている一つの原因に、「追い証」があります。株式や現金を担保に買った信用の株式が急落して担保不足となり、追加で担保を入れられないために手仕舞いを続け、それが市場にマイナス影響を与えているようです。この追い証対策での投げ売りは、これまでネット株が中心でしたが、地合の悪化で全体へと拡大しているようです。また、ネットトレードでも信用取引を許容した証券会社もあり、これまで参入障壁が高かった個人信用取引が安直に始められてしまったことも影響しているようです。

■ 余力無い、内国機関投資家
 外国もダメ、個人もダメ、となれば内国機関投資家が自ら市場を支えるべきですが、内国機関投資家には体力が無いようです。市場の地合が悪化したから体力がなく、体力がないから地合は悪くなる一方であります。しかし、本当に足りないのは運用資金でなく、運用担当者でありましょう。
 外国機関投資家が水際立った手並みを披露できるのは、その運用マネージャーが優秀であるからの一言に尽きます。株式投信だけで見ても明らかなように、日本の運用マネージャーは、その成績で圧倒的な差を付けられています。日本の投信システムの特殊性という問題もあります。マネージャーが存分に手腕を奮う権限を与えられず、サラリーマンであり報酬面でのモチベーションを欠き、十分な情報を収集したり整理するスタッフを与えられないなど、多くの理由があると言われています。また投資の目が国内にしか向いておらず、国際的な視野が培われていないという声もあります。
 日本の機関投資家は長期展望が無いとも言われます。目前1〜2年で利益の出そうな投資にしか手を染めませんし、頻繁に転がして細かい利益を稼ごうとします。ベンチャーキャピタルにしても、株式公開させてしまえばお終いです。そのくせに惰性や付き合いで低収益や無収益の株式を保有し続け、その企業に業績改善を促すでもありません。運用担当者は当然ながら、経営者に長期展望があれば、こんな間抜けな話は無いはずです。

 国内生保は、長引く超低金利の影響で逆ざやに喘いでいます。しかし、もう何年も経つにも関わらず、その逆ざやを解消できていません。彼らがバブル前のネット企業やハイテク企業に出資していれば、今頃ものすごいリターンを得ているはずです。多くの企業に顧客を抱え情報には不自由しないはずの生保が、なぜ気づかないのでしょう。製造業でもサービス業でも手堅く成長性のある経営をしている企業はあります。なぜそこへ出資するなり融資するなりしてリターンを得ようとしないのでしょう。生保のベンチャーキャピタルは、動向を聞かないような気がします。結局は自身の運用下手を低金利の責任にしているだけです。
 国内都銀については、もう何度も書きました。やはり保有株の軒並み安で前期の含み益を全て帳消しにし、さらに含み損も発生しています。したがって、銀行株も相次いで年初来安値を更新中です。信託銀は資金運用のプロを自称していましたが、全く奮いません。国内証券も、株式市場が萎えるとそのまま減収減益です。自ら長期展望を持って資金運用をしていれば、こんなヘマはしないはずですが・・。

■ 底値の見えない日経平均
#N1月は、日経平均が18,000P台後半で推移していました。2月のネット株狂乱があって20,000Pを一時突破し、4月に大崩れるまで20,000P後半をキープもしました。個人投資家が積極的に介入して持続性があるかと見られましたが、光通信ショック他で18,000P前半まで急落しました。5月末に16,000P割れの局面もありましたが小康状態になり、10月に14,000P後半まで下落し、その後はもみ合いです。11月22日の大引けは14,301Pという安値ですが、ザラ場で14,172Pがありました。場合によっては、13,000P台もあり得るかも知れません。
 日経平均が市場の株価を正しく評価している指標でないことは繰り返して書きませんが、それでも年初からでも2割以上、ピークから3割以上もの下落が与えるインパクトはかなり大きなものでしょう。2001年3月末までに大きく回復しなければ、再び株式評価損で赤字転落する金融機関が増えると思われます。加えて、新たに破綻の列に並ぶ生保や地銀が増えるかも知れません。
 たしかに日経平均の底値は見えない状況が続きますが、こんな指標ごときに本業が揺らぐようなことが、日本を代表する金融機関としてあるべき姿であるのか、我々は問う必要があるのでは無いでしょうか? 恥ずかしくも内国機関投資家として利益を上げる能力が無いのであれば、外国機関投資家に資金を供与して運用して貰うなどを真剣に考えてもらいたいものです。一頃流行だった、外国機関投資家との業務提携とは何だったのか、も検証する必要がありそうです。

■ むすび
 金融界は、4大メガバンクの誕生や、それに関連した企業再編で沸いています。しかし、必要なことは収益性であって、資産規模ではありません。そもそも株式相場や債券相場の短期的なブレで業績が大きくブレる、資産運用における有価証券依存度の高さに問題があるはずです。内国機関投資家として有価証券で安定した収益を確保すると同時に、その収益を拡大させるための影響力行使や、リスク分散のための海外投資やベンチャー投資など、手がけることはたくさんあります。困ったときの政府頼みも大概にするべきだと思います。
 お寒くなった日本株式市場を活性化させて賑わいを取り戻すのは、内国機関投資家の手によるべきだと、ポン太は考えます。

00.11.23

補足1
 金融再生委員会の相沢委員長は、生命保険会社が契約者に保証している予定利回りの引き下げについて、金融機関に対する早期是正措置の一規定に加える意向を表明したそうです。つまり、金融再生委員会が危ないと認定した生命保険会社に対して、予定利回りの大幅な引き下げを指示することができるもので、公的なデフォルトの承認と成ります。
 現実問題として、苦しいという段階で引き下げるのであれば救いがあります。しかし日頃から正しい決算数字を出していない生命保険会社のことですから、早期是正措置が出される頃には、予定利回りの引き下げなど焼け石に水です。加えて経営責任を一方的に契約者に押しつけるばかりで、責任の所在が明確に成りません。さらに中堅生保が相次いで引き下げを指示して貰えた場合、大手は引き続き高い利回りを保証できるのか、という問題もあります。
 そもそも予定利回りは、契約者ではなく保険会社が提示した数字です。実現もできない高数値を出した保険会社が悪いのであって、それでも生きながらえて責任問題を回避しようとは論外でしょう。契約者も血を流すことに成りますが、破産するなり更正特例法を申請するなり、するべきだと思います。目先だけの延命措置では、経営体質も改善されないでしょう。長期視野がより欠けているのは、金融当局の側かも知れません。

00.11.23

補足2
 株式市場の地合の悪化を、ネットバブルなど外的要因の責任ばかりにもできません。古今未曾有となりました新規公開・上場ラッシュは、投資家に手持ち株の売却に走らせる結果になり、市場全体を冷え込ませました。短期的に見れば、公開や上場を手伝った証券会社を潤しもしましたが、市場から資金が逃げ出す方向にシフトさせてしまい、自ら市場を荒らす結果に成りました。新市場の開設も同様で、投資家を呼び込む魅力の無いままに上場を急いだ結果が、大きなツケを生んでいます。
 証券会社ばかりも責められません。最終的に過剰な公開・上場を許したのは、株式市場の責任であります。上場審査を大幅に甘く査定するなど問題があったのではないかと思います。RAJ問題などダーティさを印象づける事件もあり、今後の反省点として欲しいところです。

00.11.25

補足3
 NASDAQの調整が続いています。11月29日には、総合指数が2,735Pとなり、今年の最安値を更新しました。この水準は、約13カ月ぶりの低水準と書かれましたが、業績の下方修正を進めるIT企業が多い中では検討している方だと思います。NYダウも10,000ドルのラインを維持していますので、日本市場ほどの崩れは見せていません。
 こうした状況を裏付ける記事が、日本経済新聞の2000/12/07朝刊に整理されています。以前から言われていますように、FRB議長のグリーンスパン氏の市場操作は絶妙で、市場が大きく変動すると、適度な介入を行って過剰反応を抑える動きを見せています。緩やかな調整と、市場経済のソフトランディング。日本の政治家や官僚には真似のできない、見事な市場操縦です。結果的に国益にプラスな働きを生んでいます。
′獅T日には、グリーンスパン発言により金融緩和の観測が流れ、ナスダック総合指数は274P高となり、2,890Pまで急上昇しました。上昇率と上昇幅の両方が過去最大を記録していますが、それだけ市場が安心感を持つことができている証拠ではないでしょうか?

00.12.09

補足4
′�29日、今世紀最後の大納会は、日経平均が13,785Pで大引けしました。これは1998年末の13,842Pをも下回り、大納会の水準では1985年以来の安値引けに成りました。3月から4月の間のITバブルという要素や、日経平均銘柄の大幅入れ替えなどの要因がありましたが、一時は21,000Pを付けた相場が、21日の13,182Pまで大きく崩れた一年でした。結論から言えば、バブルを含めて米国市場に振り回された相場でありました。
 円相場も12月後半に大幅な円安へ振れ、29日は114円台後半と成りました。目先の円安は多数の企業の決算に好影響をもたらすものの、大幅な円安には警戒が必要です。新世紀となる2001年の相場は、どういう展開になるでしょうか? 行政は相変わらず頼りないので、市場自らが努力を怠らず投資家の信任を取り戻すべきでしょう。未だ金融不安などは拭えない状況ですが、大きく飛躍できる新世紀であってほしいものです。

00.12.29

補足5
#Nは倒産の相次いだ一年でした。信用保証制度による公的保証が外れた結果、13カ月連続で倒産件数が前年同月を上回ったそうです(帝国データバンク調べ)。12月分が未集計ですが、2000年1〜12月の負債総額は23兆1,555億円で過去最高の水準に達しています。
 上場会社の破綻は、インターリースの5,600億円を筆頭に、11社。1964年の12社タイ記録に並ぶ悪環境とのことです。株式市況は補足4に書いたとおり最悪の状況にあり、2001年3月までに上場企業の破綻が続くかも知れません。行政は市場の動向を傍観するに留まっており、宮澤蔵相の引退を望んでいるとも・・。
 一応は明るいニュース(?)もありました。上場企業の70%が積極的に債務圧縮に動き、4〜9月期の半年間で3兆9,200億円もの資金返済超過であったそうです(NTTと日本テレコムで1兆円強の借入超過があったので、実質的には5兆円規模の返済超過です)。商社や石油・鉄鋼・電力会社の動きが中心ですが、財務体質の健全化は良い方向でしょう。背後には提携解消や事業清算など厳しい中小苛めもあったかも知れないですが。。。

00.12.30

補足3
 企業年金の運用利回りが著しく悪化しているそうです。格付投資情報センターの推計では、企業年金(厚生年金+税制的確年金)の2000年度1年間で減少した資産は8兆円で、総資産の10%を越える見込みだと言います。厚生年金の運用利回りも初のマイナスに転じたそうです。厚生年金は約1,800基金、税制的確年金は約80,000基金あり、加入者は1,200万人と1,000万人だそうです(日本経済新聞2001/03/31朝刊)。
 約30%投資している国内株式の低迷が露骨に響いた形ですが、年間5%の利回りを確保する必要があるところに8%のマイナスは大きなダメージです(その差額は企業が補填する必要がありますが、負担に耐えかねて解散することもあります)。コンサルタントに運用を一任している基金が少なくなく、基金の存在を問われかねません。1999年度末の年金資産は、厚生年金が57兆円、税制的確年金が21兆円ということで、国内機関投資家としても重要な存在ですが、2000年度にも24の厚生基金、約3000の税制的確年金が解散に追い込まれており、お寒い状況は続きそうです。

01.04.21

補足4
 企業年金を生命保険会社が受託運用している団体年金保険で、2001年度の配当が大幅カットとなる可能性が高いそうです。2000年度の運用利回りは三井生命が2.85%と首位ですが、明治生命や朝日生命は2.0%と低迷し、配当原資となる株式含み益を吐き出し切ったことで、最低保障水準の1.5%ギリギリに成ると説明しています。
 団体年金はこれまで債券や有価証券の運用益のみで利回り保証をしてきましたが、2000年にITバブルを受けて配当金を増額したことなどが直接響いたようです。プロとしての内国機関投資家が、えせコンサルタント並みの業績ということであれば、切り捨ての対象となるでしょう。

01.04.22
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