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経済の研究No.175
雪印乳業事件に学んだこと

 また食中毒禍の季節に成りました。O157事件などから学んだことは、下痢や腹痛の症状が出たときには、「まず商品そのものを疑え」ということでした。それだけ消費者の意識が高まっている中で、雪印乳業の杜撰な商品管理が明るみに出ました。すでにマスメディアで詳細に暴かれていますので、敢えて叩きませんが、重要なことは競合他社も恐らく五十歩百歩だということです。今回の事件を他山の石として、競合他社も異業種各社も考えるべきことが多々あると思います。

■ 業界トップの油断
 雪印乳業の操業は1925年。関東大震災後の不況の中で、北海道の酪農農家が設立した販売組合が母体であるそうです。農家も大事、消費者も大事で来たことが好感されて、業界トップにまで成長しています(ただし、生乳部門では第二位)。本業重視路線を貫いたことも幸いし、同業他社に比べると財務体質も良好だとの評価でした。株主総会を毎年北海道で開くなど初心を大事にする社風でもあるとされていました。
 事件の発端は、6月26日。雪印製の低脂肪乳を飲んだ大阪市の子供が激しい下痢や嘔吐を繰り返したことから幕を開けました。同日に和歌山県でも報告があったものの、個別の事例という甘い認識を持っていたようです。翌27日には近畿圏一円で食中毒症状が確認され、翌々28日には保健所による大阪工場の立ち入り検査がありました。定期株主総会当日ということもあり社内の対応は手薄でしたが、西日本支社が「緊急品質管理委員会」を発足させ、調査に着手しました。
 さらに29日、大阪工場の商品回収を指示し、支社による記者会見が開かれました。被害報告は200件を越えたものの、影響範囲や原因が把握しきれない状況であったと報道されています。最終的に15,000人もの被害者を出すことになったのは、この遅すぎる立ち上がりにあり、広報の不足、経営トップとの連携の悪さなども指摘を受けたところです。業界最大手・長年の実績というものに油断をしすぎていたのかも知れません。

■ 拙すぎた記者会見
 ここで大きな失態を演じてしまいました。大企業の通例に漏れず、十分に社内調査を行わない段階で、社長自ら記者会見を行ってしまいました。「経営トップの発言は重みを持ち、全社を代表する」という意識に欠けていたようです。社長会見は強い要求を求められても、十分に状況が分かるまで行うべきでありませんでした。しかも会見中に大阪工場長の不用意な発言があり、経営陣の連携の悪さを曝してしまいました。
 事実関係としては、週1回ペースで洗浄されるべきバルブが20日以上も清掃されていなかったこと、そこから10円玉大の固形物が発見されたこと、黄色ブドウ球菌が検出されたこと、でした。いずれも6月30日深夜に把握されていたのに、7月1日の記者会見で肝心の社長に伝わっていなかったことが問題でした。工場長以下の幹部に問題があったのか、社長自ら情報収集する気が無かったのか・・・入念な打ち合わせも模擬会見の準備も、記者会見前に行われなかったのが信じられません。
 また記者会見では、いくつもの失言がありました。記者が引っかけたと見れなくもないですが、石川社長の「クレームの件数が少なかったため、ここまで発展するとの考えがなかった」「(回収がすでに始まっていた)29日午前9時に知った」「もうかっていない商品で、(業績に)影響はあまりない」「私は寝ていないんだ」などという消費者・被害者を無視したコメントも指弾を受けました。さらに「辞任は考えていない」とし、消費者不信を増大させたことも周知のとおりです。

■ 乖離した社内対応
 西日本支社長の会見は、7月2日の夕刻でした。ここでもバルブの清掃マニュアル等について事実関係を把握しておらず、しかもマニュアル通りの運用が行われていないことも後日に明るみに出ました。「従業員から聞き取れていない」「手元に資料がない」「従業員のモラル低下を招いた」などと平然とコメントしたこともマイナスでした。7月2日の各紙朝刊では、社長会見が随分叩かれたはずでしたが・・。
 さらに翌3日。汚染箇所の報告に虚偽があったことと、証拠隠滅が図られていたことが、大阪市保健所に伝えられました。しかも事実関係は経営トップに相談されることなく直接伝えたために、混乱に拍車が掛かったようです。要するに、汚染部はバルブの一部でなくほぼ全部であったことや、その汚染部を保健所の立入検査前に洗浄したこと、使用頻度が当初報告より頻繁であったことなどでした。
 意図的でないとする証拠はありませんが、現場が勝手に処置した問題がトップに知らされず、しかも当局やマスメディアに先に漏れるという失態を重ねました。これらの事実が、問題を大阪工場のみに止まらせず、全工場、ひいては雪印ブランド全体への信用失墜を生みました。記者会見と同様に、社内の危機管理体制の拙さを示してしまった責任は大きいでしょう。
 さらに4日、再度の社長会見。ここでも説明を何度も幹部に訂正させられるという失態を演じました。追加で2商品の回収に及んだことや、さらに社長居座りを強調したことなどもあり、この日の会見でも何の準備もしていないことが分かりました。顧問弁護士などは、全く機能していなかったのでしょうか。6日にようやく社長が幹部役員を含む進退問題に触れましたが、遅すぎた感がありました。

■ その後・・・
 さらに黄色ブドウ球菌以外の細菌が検出された事実も発覚し、売れ残りの乳製品を再加工して販売していた事実も露見し、しかも意図的にトップへ伝えていなかった事実も明るみに出ました。株主総会後の懇親会で、事件を知った幹部役員が情報を握りつぶしたことも一つの象徴でしょうか。事務畑出身の石川社長には分からない、という幹部達の驕りが、社長に無断で商品回収指示などに動いたようです。
 では、社長に責任がないかという問題です。もちろん責任があるでしょう。常日頃から現場情報の入らないことに疑問を感じなかったのか。就任会見で掲げた「スピーディ・アンド・ステディ」は何も実現できていなかったのでは無かったか。記者会見に臨むのに、あまりに情報が不足していることに違和感を感じなかったか。結局、8人もの役員が退任に追い込まれたのは、必然であったのでしょう。
 今回の事件では、雪印ブランド全体の信用を失墜させました。目先だけでも業績に与えた打撃は巨大です。株価も619円(6月27日)から396円(7月6日)まで下落をし、銀行からは緊急融資を受けるまで逼迫しました。1955年に「八雲の脱粉事件」と呼ばれる事件を自ら犯し、森永乳業の「ヒ素ミルク事件」や「かい人21面相事件」なども見てきたはずが、あまりにも杜撰な対応でした。

■ むすび
 一応は安全宣言が出されて、7月28日から雪印乳業の10工場が操業再開を始めました。同業各社でも安全管理の見直しを進めていると報道されており、業界挙げての信用回復に臨むようです。しかし乳業だけでも回収事件が6件あり、製パン3件など計16件もの影響が出たのは、消費者が過敏になっていたからなのか、食品業界の品質管理意識が低いからなのか、いろいろと考えるべきことがありそうです。

00.07.30

補足1
 牛乳と呼ばれる食品には、「牛乳」「加工乳」「乳飲料」の3種類があるそうです。この「牛乳」は、牛の生乳のみを原料とし乳脂肪3%以上という条件をクリアするものだそうです。今回問題となった「低脂肪乳」は、脱脂粉乳などを牛乳に混ぜた「加工乳」の一種であるそうで、乳脂肪分は0.5〜1.5%であるとのことです。
 このとおりの定義であるのなら、学校給食などで「牛乳」配給の中止を行う必要は無かったことになりますが、「牛乳」にもいろいろと問題があるのかも知れませんね。スーパーなど小売店は雪印商品の一斉排除を行っただけですが、一番に打撃を受けたのは全国3,240店もの専業販売店であったようで、7月22日現在で570店もの休・廃業を出したと報道されています。
 またルーツそのものであるはずの酪農農家にも打撃を与えました。農家には厳しい品質管理を指示していたにも関わらず、社内的に杜撰な管理を行っていたと農家の怒りが伝えられる記事もありました。しかし雪印乳業の業績が低迷すれば、協力している農家には死活問題です。販売店同様に大きな被害を被ってしまいました。

00.07.30

補足2
 今回の事件は、東海村で放射能漏れを招いたJOCの事件を思い出します。利益重視でマニュアル通りの手続きを踏まなかった杜撰な安全管理、適当な記者会見と責任転嫁、一般国民に負担を強いた巨大な代償など、そろそろ安全管理を怠ることは利益に繋がらないことを認識するべきときなのでしょう。

00.07.30

補足3
 もともと大阪工場は廃棄の予定であったとされています。設備の老朽化が進み、最新鋭工場が京都に造られたことから、時間の問題とされていたようです。一部では、そのためにモラルが著しく下がっていたとも伝えています。もともと専任であった品質管理担当を欠員として、工場長が兼任していた事実も発覚しました。加えて工場長の任期が数年と短く、かつ業績評価がコスト削減重視とあっては、品質管理を疎かにするのもやむを得ない話なのでしょう。

00.07.30

補足4
 直接の因果関係はありませんが、参天製薬による目薬一斉回収事件との関連も気になります。参天製薬では、異物混入の目薬と脅迫状が送りつけられたため、約3億円相当分の目薬を店頭から一斉回収しました。幸いにも犯人逮捕にこぎ着けましたが、もしも周到な凶悪犯であったならば、何度も商品回収の必要があって商売に成らなかったかも知れません。迅速な対応と消費者重視の選択は見事ですが、いささかやり過ぎとの見方もできます。
 食品や医薬品などではブランドの信用を傷つけないことが重要です。しかし自社ブランドの責任でないことまで、過剰に対応するべきでないことも事実です。早期の状況確認を行い、ひとたび因果関係が見つかれば全力で顧客対応を図るというのが、あるべき姿でないでしょうか。同時に誠実な姿勢を守ることと、情報開示を欠かさないことも必要です。結果的に企業評価とブランドイメージを向上させることもあります。難しいですね、ブランド経営は・・。

00.07.30

補足5
 似たような事件ですが、三菱自動車工業が自動車のクレーム情報を隠していたことが明るみに出ました。クレームについて個別の対応を行って、道路運送車両法に定めるところの「リコール」を実施していなかったことを会社が認め、社長の記者会見になりました。
 これまで出荷台数が少ないことを理由にして、ひそかに部品を交換するなどの行為を繰り返していたそうです。こちらは記者会見で誠意を見せたものの、一歩間違えば大惨事を招いたであろうことは雪印乳業以上かも知れません。申告が漏れていたと釈明していますが、明るみに出た経緯なども考慮すると、イメージダウンやコスト増加を懸念しての意図的な行為と言われても逃れられませんね。

00.07.30

補足6
 補足5の補足です。三菱自動車は恒常的にクレーム隠しを行っていたと認定されました。費用発生のあるリコールを避けるため、個別対応や回答先延ばしを行っていたようですが、結果的に信用を落としました。またクレーム隠しは現場の判断でなく役員クラスの了解も取っていたとのことで、体質的に問題を抱えていたようです。雪印乳業と同様に、企業ブランドの低下と業績悪化を招いてしまいました。

00.09.10

補足7
 「毒素」と報道されているブドウ球菌ほかは、脱脂粉乳を生産していた北海道大樹工場から発見されたそうです。もともと菌が生息していた可能性が高いほか、停電放置の結果として菌が増殖して今回の事件を招いたようです。いずれの工場でも品質管理が十分でなかったことを証明する形になり、さらにイメージ悪化を拡大してしまいました。大樹工場での脱脂粉乳製造は中止され、生産品は全て回収されるそうです。

00.09.10

補足8
 乳業事件から1年半あまり。乳業の子会社である雪印食品による牛肉偽装工作事件が勃発しました。狂牛病禍による農水省の買取制度を悪用し、外国産牛肉を国産に偽装して買い取らせるという悪辣な犯罪でした。金額的には些少な話ながら、次々に余罪も明らかになり・・ついに食品社長の引責辞任にまで発展しました。
 新聞報道などによれば、冷凍倉庫で堂々と詰め替え作業を敢行したそうで、モラルの低さばかりでなく、罪意識の低さを露呈することになったようです。当初は、軽いスキャンダル記事かと思いましたが、大きな話になりそうです。

02.01.30

補足9
 補足8の続報です。すでにご存じのように、2月22日に雪印食品の解散が決まりました。牛肉の産地偽装事件の発覚から、わずか1ヶ月。食肉(ミート)事業からの撤退だけでは許されず、会社存続を否定される厳しい結果になりました。今回は、食品スーパーからの一斉締め出しなど、社会的な制裁が強く働いたことも見逃せません。幹部の独断によるミスリードとはいえ、そういう風潮を許した雪印グループ全体の責任も問われるようです。
 未だに業績回復の見込めない生乳事業は、農協などの協力を得つつ、雪印カラーの払拭に必死です。せっかく育てた雪印ブランドを、自らの手で破壊してしまったのは、とても残念なことです。先日、雪印乳業のバターで、賞味期限の改竄が行われていたとの報道もありました。早くに体質を改善し信用回復に務めなくては、消費者に見捨てられますよ。

02.03.03
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