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経済の研究No.173
有線電話から無線電話の時代

 一過性と観られた携帯電話ブームは、とどまることなく拡大を続けています。端末機器のダンピング、市場を歪めた販売報酬金制度、過当競争による代理店倒産など、多くの問題は積み残していますが、モバイルやネットをキーワードにした携帯電話事業は堅調に推移しています。いよいよ海外進出なども始まっていますが・・・。

■ 有線電話から無線電話へ
 一般家庭に置かれた機械的な黒電話機が、現在のような電子機器に置き換わるまでには数多くの技術進歩がありました。プッシュホン・留守番録音・着信転送・家庭用ファクシミリ・ディジタル電話など、いくつもの技術が複合化されて普及しました。そして、現在の移動電話の出現へと繋がっています。
 これまで公衆電話回線網と呼ばれてきた一般回線は、ほぼ有線回線のことを指していました。やがて無線電話が徐々に浸透し、自動車固定電話から可動電話になり、現在の携帯電話・PHSへと小型化・高機能化が進みました。有線電話では現在のNTTグループによる寡占体制が揺るぎませんが、無線電話ではセカンドパーティ、サードパーティの活躍が見られます。
 しかし一層の発展を望む場合、NTTグループによる寡占体制は崩す必要があります。そもそも国営企業としてスタートした上に、事業独占で多額の資本と巨大なインフラを構築したNTTは、公正な競争を行う必要があると考えています。世論としては感情論先行の部分も見られますが、概ねNTTグループによる市場独占が続く限り、日本の通信産業の発展はあり得ないと言われています。

■ NTT 対 非NTT
 これまで論じられてきたのが、NTT対非NTTという構図です。ここでいう非NTTは国内資本の通信事業者を指しています。長距離通話から参入の始まった非NTTは、長い間複数資本による非NTT同士の対立という関係を清算できずに来ました。非NTTのバックには個々のバックボーンの違いが色濃くあり、結局のところ非NTT同士でつぶし合ったり、スケールメリットが受けられないことによる高コスト体質などで、NTTの対抗馬には成り得ませんでした。
 非NTTとの競合によって、NTTも独占体制が崩されて競争を強いられはしました。コスト削減にも応じさせられましたし、多額の広告宣伝費等も使う必要がありました。しかし市内通話網の独占による優位や、非NTTから徴収できる回線使用料等で潤い、結果的に焼け太りました。非NTTは随分と消耗を強いられましたが・・。
 携帯電話事業でも苦戦を強いられています。こちらも非NTTとしての連合化は実現せず、スポンサーの思惑なども複雑に絡み合って、NTT優位は揺らぎません。とくに携帯電話事業は、非NTTとの競合がブームに火を付け、そのブームが追い風となって採算ラインを大きく引き下げる効果を生んで、NTTにも予想外のドル箱と成りました。携帯電話事業を一手に握るNTTドコモは市場シェアの過半数を制して、グループ内でも最大の利益を稼ぎ出す存在に成っています。

■ 歪められたNTT分割
 長年、政界でもNTT分割の必要性が論じられてきました。本コーナーでも何度か取り上げましたが、国内市場の健全な成長という前提では、大きすぎる市場独占は望ましくありません。またNTTが単体として大きいだけなら問題はありませんが、国内の非NTTを押しつぶすべく、あの手この手を尽くしていることも問題です。国家によって圧倒的な優位を与えられながら、その優位を誇ってのやり放題は、やはり市場健全化の妨げになります。
 郵政族たちの暗躍などもあり、結局は持株会社の下に東日本・西日本・コム(長距離・国際通信)の三分割とされただけで、実体としては1グループである上に、東日本と西日本での競合さえありません。さらにドコモ(携帯・移動)、データ(情報処理)なども傘下に抑えてしまっています。実体を伴う分割が必要でしょう。
 非NTTは相次いで合併を行い、外資の導入もあり、かなり事業整理が行われました。事業規模も広がり、スポンサーも増えたことで、競争力は向上しました。しかし、非NTTが単一事業体になってもNTTグループに及ぶべくもない以上、NTTグループ内での競合をさせなくては意味を成しません。
 また持株会社が有線と無線と情報処理を全て抑えたために、無線や情報処理の部門が逼塞しているとも言われています。とくに無線事業では国際的な事業再編が活発であり、中でも積極的なM&Aで事業拡大を続ける外資各社に対抗することは難しい状況です。無線や情報処理事業の分離は必須でしょう。

■ 子会社の自主性を高めるべき
 NTTグループのうち、東日本・西日本・コムに対する持株会社の出資比率は100%です。いつまでも100%保有することは、実質的に一体です。これは分割そのものの意味がなく、公正な競争が機能しないので、これらの持ち株は放出されるべきでしょう。どこまで放出するのかが、現在のドコモ・データに対するのと同様に焦点になると思います。
 すでにソフトバンクや日立製作所・富士通のように、上場親会社が上場子会社の過半数の株式を持つことへの疑問が、市場で投げかけられています。上場子会社の議決権を上場親会社が握っているということは、他の投資家にいつ損失を与えるか分からず、株式経済を歪める懸念が大きいことも以前に書きました。子会社群への持ち株比率は、34%程度が妥当な線であると提案します。
 また子会社上場により得られる巨額のキャピタルゲインを持株会社は、どう使っていくのでしょうか。現在の大株主は大蔵省ですから、株主還元という選択肢があるかも知れませんが、現在過酷な国際競争があることを考えれば、M&Aの原資とすることが欠かせません。親会社が事業買収を行って子会社に組み入れていくスタイルと成るでしょうか。
 国際競争に生き残るためでありながら、現金による企業買収という手法では時間が掛かりすぎますし、キャッシュフロー面での不利も免れません。株式交換方式での事業買収は欠かせないはずです。未上場子会社はもちろん、出資比率を下げたくない上場子会社にも使わせられない手法だけに、持株会社の株式交換になりますが・・NTT法の制約や外資制限など多くの問題がありそうです。やはり未上場子会社上場や子会社出資比率の引き下げによる自主性向上が必須でしょう。

■ むすび
 これからは無線の時代です。持株会社がドコモ主体にシフトして事業再編する選択もあると考えます。どうしてもドコモやデータに対する「傍系」という考えが深いようですが、「直系」に引き上げて思い切った事業構築も必要かと考えます。いずれにせよ、NTTグループの再分割は避けられないと考えますが、無線と有線のどちらを選択するのが良い選択に成るのでしょうか?

00.07.29

補足1
 「NTTを実質的に分割してしまうと、外資による買収が心配だ」などという声が聞こえます。現実的に政府出資の比率が高い以上、単体事業規模が小さくなることと外資買収に晒されることとの関係はありません。むしろ巨人NTTが高コスト体質を脱却できず、独占市場であぐらを掻くことにより、じり貧状態に陥ってしまうことの方が懸念材料として大きいです。
 とくに国際通信事業者と血の出る競合をしてきていないだけに、大きな意識改革と国内でのフェアな市場競争を実現して行かなくては、NTTの将来も失われてしまいます。すでに接続料金の引き下げなど外圧が高まっており、外資上陸による激しい戦いが繰り広げられます。大きいことよりも、まず企画力と機動力と競争力を身につけることの方が優先であるはずです。

00.07.29

補足2
 携帯電話事業を中心に国際的な企業再編が進んでいます。独テレコムは米ボイスストリームの買収に名乗りを上げ、結局ドコモを制する形でさらってしまいました。ドコモはせっかく交渉テーブルにまで乗せたにも関わらず、大きな獲物を逃してしまいました。ドコモは部分出資を提案していましたが、独テレコムは株式交換による合併で、条件が良かったことも理由でしょう。
 このままじり貧に陥ると、たとえ日本国内での時価総額が高くとも、買収企業の株主達が魅力を感じない恐れもあるだけに、市場再編の乗り遅れを挽回して欲しいと思います。5月の英オレンジ社の買収でも、仏テレコムの横槍を受けるなどの失策が続いています。

00.07.30

補足3
 現在のドコモに対するNTT持株会社の出資比率は67%です。これを51%まで引き下げるとして、それに見合う増資資金調達可能な金額は、約5兆円とされています。とてもではありませんが、諸外国の大手通信会社を買収するだけの原資には成りません。だからといって、減益傾向のNTT持株会社との持株交換に応じてくれる通信会社も多くないようです。ドコモはNY市場なりに上場して独自の資金調達を模索していますが、持株会社が抵抗を示しているとか・・・大丈夫でしょうか。
 しかしドコモは、iモード利用技術でAOLとの提携を発表しました。電話本体の事業では拡大が望めなくても、コンテンツ事業で業界シェアを握り込めば、あるいは逆転の道もありそうです。果たして、NTTグループのままで大きく飛躍できますでしょうか?

00.07.30

補足4
 今回の「持株会社」は、とくに断らない限り「純粋持株会社」のことです。純粋持株会社に関するテーマは、現在研究中です。純粋持株会社の最大の特徴は、その収入源が持株先の企業配当と、持株会社機能の活用費(実費相当)に成ります。持株会社で発生する費用が、これら収入額を上回ると持株会社は赤字です。ひいては持株会社による持株放出や、持株会社の解体へと繋がります。
 また「純粋持株会社」への対語は「事業持株会社」です。「兼業持株会社」と呼ばれます。これは本体で独立事業を行いつつ、子会社や関係会社の株式を保有するもので、一般企業のほとんどがコレに該当します。事業持株会社の場合は、持株会社部門で赤字でも、事業(兼業)部門の黒字で埋め合わせられる限り、企業体としては存続可能です。それだけ持株会社としての機能に「甘え」が許されます。
 本文中に出てくる企業名では、日立製作所や富士通が事業持株会社で、ソフトバンクやNTTが純粋持株会社です。ちなみに国内の純粋持株会社第1号は、ダイエー・ホールディングス・コーポレーション(DHC)です。

00.08.20

補足5
 NTTグループの最大の懸案は、西日本の動向です。ユニバーサルサービスという建前が、体力もあり非NTTとつばぜりあいを演じている東日本との間で体力消耗を強いられています。これを単純に東西合併に持ち込むのは、短絡的でしょう。どうすれば西日本が立ち行くかを考えるなら、東日本を分割または縮小して収支のバランスを取ることも必要かも知れません。

00.09.10
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