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経済の研究No.164
ソフトバンクの土俵際

 第163回で述べたように、日本版ネットバブルは弾けたようです。未だにIT銘柄の株価は高水準にありますが、これからも実体に合わせる努力を続ける者は生き残り、合わせられない者は淘汰されるでしょう。好んでネットバブルを演出した光通信は目下、大苦戦を強いられています。同様に架空の時価総額を振り回したソフトバンクも・・・どうなるでしょうか?

■ 時価総額で第二位
#N末には5万円台だったソフトバンクの株価は、2000年の1月早々に10万円を突破し、2月15日には19.8万円のピーク(終値ベース)まで登り詰めました。その時価総額は約20兆円に達し、東証1部上場の銘柄ではNTTドコモの42兆円に次ぐ第二位でした。
 店頭市場のように流通株式数が少ない銘柄では時価総額に意味はありませんが、東証1部であれば意味のある数字です。しかし、ソフトバンクの株価水準は、かなりの期待を含んだ数字であり、やはり実体を正しく掴む指数とは言い難いでしょう。その証拠は、企業業績とは無関係に乱高下した株価自体にあります。
 ソフトバンクの株価が10万円を割り込むのは市場が崩壊したとき、などと孫社長は大見得を切ったと言われていますが、3月10日にアッサリと10万円を割り込んでしまいました。1か月足らずでの半値株価には呆れます。4月には6万円台まで崩れてピークの1/3水準ですが、何とか踏みとどまる様子を見せています。時価総額のランキングでは、大幅なダウンですが・・・。

■ ソフトバンクの稼ぎ方
 純粋持株会社に移行したソフトバンクは、定款に有価証券の投資運用を入れています。副業ではなく、本業として有価証券の投資運用を行っているということです。以前からソフトバンクの投資会社としての性格が強調されていましたが、このネットバブルの最中に一層傾向を強めました。
 傘下企業の株式公開を続々と果たす一方で、株式の流通量をコントロールして株価を高値に誘導し、実体を伴わない含み資産を膨らませました。一流事業会社や、新興カテゴリーキラーと合弁で次々に子会社を設立して話題を生み出し、最終的にはこれらの上場を意図しもしました。さらにファンドを設立して、ベンチャー企業への投資傾向を強め、株式公開予備軍を手元に確保しました。
 ここまでは、面白いように資金が集まり、その資金を積極的に投資に振り向けて、さらに株式公開で投資資金を何倍にも回収し、ブームを拡大して時価総額を膨らませ・・・るはずでした。ようやく国有化日債銀をセリ落として巨大な財布を手に入れるチャンスを掴みました(あくまで、優先交渉権を得たに過ぎません)が、一歩間違えると奈落が待っています。

■ ソフトバンクの土俵際
 ネットバブルが崩壊すると、ストーリーは変わってきます。投資先の経営が行き詰まったり、株式公開したものの見込んだ利益が得られなかったり、融資先オーナーや出資者と金銭トラブルを生じたり、と多大なリスクを抱えることに成ります。ファンドの場合、その資金は他人のモノです。融資先との間でトラブルが生じたり、見込み通りの収益が得られなかったりすれば、ファンド資金を引き揚げられてしまいます。引き揚げられる資金の手当ができなければ、即破産です。
 子会社や関連会社を次々に株式公開させて得た利益は、全て再投資に回っています。それらの投資資金が焦げ付くなどすれば、やはり破産です。破産まで行かなくとも、旗艦であるソフトバンク本体が傾けば、子会社や関連会社の株価急落は避けられません。アッという間に含み資産は消し飛び、新規の資金調達はままならなく成ります。子会社や関連会社の株式を売り切れば別ですが、売り切るには相場を崩すしかなく、信用不安を拡大するだけです。ソフトバンクは土俵際に運ばれています。

■ ソフトバンクの正念場
 その予兆はありました。真偽のほどは不明ですが、ソフトバンクが3,000億円規模の資金調達を図っていることが、メディアに流されました。プレゼン経営のソフトバンクですから、意図的にリークしたのかも知れませんが、市場は「ソフトバンク危うし」と判断しました。時価総額が日本第二位となったとは言いながら、実体との乖離幅が大きい以上、相場を崩して悪循環を招くと市場は判断したわけです。
 ソフトバンクは株式の時価発行増資による資金調達の可能性を否定し、珍しく守りの体制に入っています。日債銀を手に入れてIT企業への投資に振り向けられる、との打算が働きもしたのでしょう。しかし、日債銀には多額の公的資金が注入されています。原則として数年間は現在の融資先を維持する義務を課せられる以上、際限なくIT企業、とりわけ自社や系列企業への資金注入は許されません。
 また同じく錬金術の秘策だったナスダック・ジャパンは、すっかり大証ペースで運ばれています。マザーズ並みか、それ以上に冒険的な市場を構築するつもりが、すっかり堅実な公開基準で固められつつあります。このままでは、子会社や系列会社を次々に株式公開させて、早期に投資資金を回収するスキームも行き詰まりです。大量に設立した合弁企業も軌道に乗っておらず、資金繰りに四苦八苦しそうです。まさに正念場でしょう。

■ 期待は、電子コマース
#N3月の連結決算は、550億円の経常赤字になると発表されました。売上高4,200億円に対して過大な赤字は、キングストン・テクノロジーの売却損も含むとはいえ、巨額です。最終利益は、株式売却益で穴埋めして35億円の黒字にするそうですが、昨年9月末の連結予想を大幅に下回るのは致命的です。
 ネットバブルが崩れると、株式売却益で経常赤字を埋めるという操作も不可能になります。すでに二期連続となる経常赤字を、次期で黒字に運べるかどうかがキーになるでしょう。大量に創り出した子会社群を丸ごと売却して人やモノを集約することが必須です。いかにネット財閥とはいえ、無尽蔵の人材や資材を使える状況にありません。そしてオリジナリティをもっと高めることです。
 ようやく入り口に差し掛かった電子コマースが急成長してくれることに期待するしか無いようです。すでに参入企業が増して過当競争気味である上に、ナンバーワンでも多額の赤字を垂れ流すアマゾン・ドット・コムの例もあるなど、先行きは不透明です。しかし事業を集約して挑むのなら、まだまだ逆転の余地はあるでしょうか。

■ むすび
 ソフトバンク関連のコラムもすでに7本目。何とか頑張って欲しいとは思います。日本を代表するITのトップランナーであることに違いはなく、バブルに溺れて滅んでしまうということは避けて貰いたいと考えています。

00.04.09

補足1
 ソフトバンクは、全ての事業部門を分社化して本体を純粋持株会社に移行したものの、より分社化の効率を高めるためとして、さらに中間純粋持株会社を設立しています。週刊東洋経済2000/05/27号が指摘している問題は、その管理部門など重複部門のコスト、グループ戦略としての少数株主の足枷、事業会社間の無用な競合(足の引っ張り合い)などを指摘しています。
 現状では中間純粋持株会社の株式公開は考えていないとしながらも、複雑な株式公開スキームによる時価総額の膨らましは継続的に行われるようで、現状の成功はあるものの、今後には依然として不安が残っています。巨額のキャピタルゲインとう形で、投資家から吸い上げた巨大な資金はあるわけですが・・・。

00.05.20

補足2
 ソフトバンクは2002年3月期決算の見通しを発表しましたが、1994年の株式公開以来初めての最終赤字に転落する可能性があるそうです。
#N9月期の中間決算では、投資有価証券の評価損が350億円に達し、543億円の連結最終赤字となるそうです。通年決算までに赤字を埋めきれないと予測されるため、初の最終赤字転落は確実とのことです。
 これまでにも株式投資損を出したことはありますが、IT関連銘柄の好調で収支は黒字が続いてきました。内外国の株式市場において、IT銘柄の株価下落が相次ぎ、海外ファンドの投資株式資産も半減するなど苦戦が続いているため、当面は厳しそうです。本体の赤字を株式投資の黒字で補ってきた経緯もあり、株式投資による赤字は新規事業進出への大きな足枷になるとしています。
 ソフトバンクの新規事業会社では、14社が黒字で、72社が2002年9月期までに黒字化すると強気ですが、8社について事業撤退に追い込まれ、10社も整理統合の対象とするなどと説明しています。とりあえず既存事業の黒字化を目指しつつ、グループ全体の事業を再編することが最優先課題のようです。近頃は、新規事業を発表する都度に株価が下落する悪循環も見られ、資本と人材の集中も課題のようです。

01.12.29

補足3
 ソフトバンクの社債格付けが、11月末に格付け投資情報センターによりBB+(投機的)に引き下げられたそうです。現状では有利子負債額に比べて保有有価証券の時価総額が上回っており、引き下げ根拠は不透明ですが。複雑で多岐に渡るグループ各社の資金関係が見えにくいことや、IT関連銘柄の株価低迷も原因のようです。
 鳴り物入りで導入した格安のADSLサービスは、工事の遅れや解約トラブル等で苦しい状況にあります。すでに500億円以上の資金を投入しており、失敗すれば今後の新規事業にも大きなダメージを与えると見られます。将来は無借金経営を目指し、社債格付けをAクラスへ戻してみせると強気ですが、どうなりますでしょうか。

01.12.29
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