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経済の研究No.159
長崎屋会社更生法の意味

 ついに来るべきものが来たという印象です。前触れもなかった2月13日、中堅流通企業の長崎屋が経営破綻しました。大手金融機関への資本注入も終わり、国有化した長銀と日債銀の処理に目処がついた中で、いよいよ流通業へも大きな整理の手が入ったようです。

■ 流通不倒神話も崩れる
 もともと流通業は日銭商売と呼ばれており、いくら借金が大きくても資金が回っている間は決して潰れないという不倒神話がありました。また、一定の規模を超えた流通企業は、もはや経済インフラの一つであって、金融機関の一存では処理できないとも言われてきました。こうした神話を一番に信じていたのは、流通企業の経営者自身であったかも知れませんね。
 静岡を地盤とするヤオハンが破綻した当時は、無用に巨大な百貨店を建設したり、中身の不透明な海外事業を展開したりしたことが原因で、流通そのものの責任ではないと言われました。それは長崎屋も同様で、過大な不動産投資や小売業以外に拡げた多角化が足を掬った形に成っています。とはいえ、不動産投資や多角化の失敗で喘いでいるのは、ダイエーやセゾン、マイカルでも同様です。
 景気が上向いていた当時は、消費拡大に助けられてスーパー本体が利益を確保し、多少の投資失敗を吸収することが可能でした。しかし消費が冷え込むほどに景気が低迷するとともに、消費者が賢い買物スタイルを身につけるように成ってから、スーパーが利益を叩き出すことは難しくなりました。これは財務随一のイトーヨーカ堂でさえ同様です。すでに不倒神話の前提が崩れているのですから、当然です。

■ 処理を決断した第一勧銀
 長崎屋は、関東・関西と北海道に基盤を持ち、まずまずの規模を維持していました。とくに衣料品を収益源に持ち、食品スーパーとしての性格と、衣料・日用雑貨中心の品揃えで成長してきました。ところが、バブル時代に大量の店舗用地を確保したものの、バブル崩壊で予定通りの開発を実現できず、値上がりを見込んで抑えた周辺用地なども軒並み担保割れとなったことが不幸でした。加えて、雑貨をホームセンターなどに喰われ、衣料もユニクロなどカテゴリーキラーに叩かれたことが応えました。最後には不採算店舗の閉鎖費用さえ捻出できなかったそうです。
 ある意味で、長崎屋は再建可能な余地がありました。リストラに必要な資金を供給し、店舗網を縮小すれば、それなりに利益の出せる体制を作れたはずです。しかし、時間がそれを許しませんでした。メーンバンクの第一勧銀は、みずほ銀行設立に向け体力のない企業の整理を迫られていました。セゾンに対するような債権放棄でなく、長崎屋を会社更生法適用に追いやったのは、市場インパクトの小ささと再建着手の容易さを読んでいたはずです。負債を切り離せば再建は容易との判断が働いたものと思われます。
 長崎屋の経営陣もそれなりに奔走はしました。不採算店舗の前倒し閉鎖、さらなる人員削減と店舗閉鎖を打ち出してもいました。しかし債務超過転落が確実で、銀行が処理を急いでいる中で、自力で救われる道は無かったと言うことなのでしょう。せめて景気回復の目処が付いていれば・・・結果は違ったかも知れませんが。

■ 失われた時間
 長崎屋の株価を追ってみると、何度も経営破綻の噂に揺さぶられていたのが分かります。バブル期の不動産投資のツケの巨大さは周知であり、約10年間もその処理だけに追われていたことも明らかでした。これを失われた時間と呼んでいた記者がいました。新規出店は抑制され、既存店改装もまま成らず、売上高は既存店ベースで1/4も失われました。当時の経営陣が残した傷跡が、いかに深かったかを物語っています。
 このほか遊園地経営やビデオレンタルチェーンなども手掛けましたが、いずれも巨額の負債を残したばかりでした。コンビニチェーンのサンクスも、大きくする前に100億円で手放してしまったりしました。何となくプチ・ダイエー的な経営が見え隠れし、同じ様な構造的欠陥を抱えた経営であったようです。
 結局のところ、関連会社を含めた負債額は3,800億円にも達し、単体での売上高3,100億円を大きく上回っていました。経営者の暴走と、それを止められなかった無力さとが、今回の破綻劇を生んでしまったようです。ともあれ、この巨大な負債を何とか処理すれば、長崎屋単体は存続できるかも知れません。ヤオハンの場合と同様に、大手流通のいずれかの支援を受けるか、あるいは外資流通の資本を受けるか、スポンサーを見つけられ次第、再建に取り組むことになるでしょう。

■ 周囲への影響
 長崎屋の3,800億円という負債額は巨大です。取引先や取引金融機関の損失は大きなものに成ります。親密取引先の場合、保有株式も紙切れになり大変な模様です。このほか関連企業の破綻も相次いでおり、まだまだ影響は拡大しそうな模様です。長崎屋は現在も営業を続けており、14日の取引先説明会で商品供給の継続を訴えるなど、ゴーイング・コンサーンへの途を模索しています。ヤオハンの3倍以上の規模になりましたが、何とか会社更正計画の開始に漕ぎ着けて欲しいと思います。
 ところで長崎屋の処理が順調に進んだとすると、続いて金融機関は、大手流通グループの整理に乗り出してくると思われます。ターゲットはセゾンとダイエーでしょう。セゾンは東京シティファイナンスの案件を処理したものの、次は西洋環境開発の案件が未処理で残っています。現状ではグループでの追加負担と引き替えに、第一勧銀の債務放棄で決着を見そうですが、追加負担が今後のグループ経営を一層苦しいものにしそうです。ダイエーはリクルート株とローソン株の一部売却で、一応ポーズは決めたものの、借入金総額の2割にも成りません。両社には解体の文字がちらついています。

■ むすび
 大手といえども不良流通企業の整理は避けられないでしょう。見通しのない拡大路線のツケは払わなくては成りません。本来見据えるべき消費者の存在を忘れ、本業外での利益を追い求めた結果、一時はコングロマリットを形成して時代を謳歌したものの、身丈に余る負債を抱え込んでしまいました。不倒神話も無くなり、金融機関による非情な整理が始まった現状では、長崎屋の後に続くのも仕方が無いかも知れませんね。

00.02.20

補足1
 会社更生法適用に際して通常債権は全て凍結されるのが原則ですが、小規模業者救済のため、10〜30万円の債権に関しては凍結対象とされません(凍結解除と言います)。しかし今回は、破綻の規模が大きいことなどを勘案し、東京地裁は、凍結解除の上限を100万円以下にまで引き上げました。これにより1,000社近い取引先が救済される模様です。
 地裁にしては粋な計らいですが、これは今後の大手流通を整理する場合に備えてのテストケースと見ることもできるでしょう。上限引き上げによって連鎖倒産をある程度回避できることが実証されれば、大手流通の整理も呆気ないほど簡単に行われるかも知れません。

00.02.20
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