前頁へ  ホームへ  次頁へ
経済の研究No.118
株価上昇で成すべきこと

 日経平均が急上昇し、7月5日は終値ベースで21か月ぶりの18,000P台を回復しました。低迷していた昨年9月から比べて4割近い上昇です。しかも指数銘柄ばかりでなく、ほぼ全業種・全銘柄に渡って株価が上昇しています。理由はいくつか挙げられるでしょう。
 一つは意外にNY市場がねばり強く、ダウ平均が久しぶりに11,000ドル台を回復しています。二つは今年第1四半期のGDPがプラスに転じたこともあります。三つは金融不安も大きく成らず、とりあえず大型企業倒産が回避されたこともあります。あとは政治の安定、国際情勢の小康状態などもあるでしょうか。

■ 株価上昇は長続きしない?
 株価上昇は長続きしないと思います。少なくとも今の株高は実体を伴っていません。例えば6月10日に公表された第1四半期のGDP成長率1.9%成長だったという数字ですが、これまでの5四半期がマイナス成長だったことを考慮すると下げ止まったということしか読めません。政府は年換算で7.9%の高成長と宣伝しましたが、こうでも言わないと好況感が伝わらないため詭弁を使っていただけです。
 6月29日に公表された失業率4.6%に改善というのも、史上最悪の4.8%を付けた前月と比べての話で、依然として高水準であります。同日に発表されたサラリーマン世帯調査での実質消費1.5%増も4か月連続のマイナスを受けた後での話です。4月の景気動向指数や5月の小売業販売額がずっとマイナスであることは、扱いが小さかったために目立っていません。
 7月5日は6月の景気短観で景況感が大幅改善したと派手に宣伝しましたが、ここで示される業況判断指数は企業経営者の主観的判断を集計したものに過ぎず、指数が悪化しているときは見向きもされなかったものです。日銀はダメ押しとばかりに今年二度目の円売りドル買いの市場介入までして楽観の後押しをしています。結局は日経平均もだめ押しの18,000Pを突破したのですから、カラ元気も元気なんでしょうかねぇ。

■ いま、成すべきこと
 しかし2か月後に公表される第2四半期のGDPがマイナスに転じると一発で弾けるバブルです。上述の1.9%にしても、公的需要6.0%増加と特別優遇の住宅需要1.2%増加が貢献した結果です。実体を伴わない限り、息切れも遠くないでしょう。雇用では有効求人倍率が0.46と低迷し、失業率は上述の4.6%ですし、潜在失業者も増える一方だと言われています。いま成すべきことは2つに1つです。
 1つはお祭りムードを盛り上げたまま、日経平均20,000Pを目指すことです。そうなれば金融機関の株式含み益が増え、貸し渋りも大きく後退し、何となく景気が良くなる可能性があります。しかし虚飾相場は外国人投資家、とくにヘッジファンドが一番に好むところです。大きな一撃を喰らって再び奈落の底へ転落する可能性があります。あまりお奨めできません。
 2つは引受先のあるうちに持合株式などを片端から処分することです。日経平均18,000Pの水準ならば多くの金融機関で含み損が解消されているはずですから、上手に処分すれば損を少なくキャッシュが手元に残ります。填め込み先さえ間違えなければ、市場に大きなインパクトを与えないで足抜けできるはずです。

■ 資金を遊ばせないこと
 ところで1999年3月期の時点で10年以上も無配が続いている企業は72社(週刊東洋経済6/26)で、1年以上無配の企業はその4倍以上に達しています。そんな企業の株式を保有し続ける金融機関が結構あるそうです。株価も低迷し無配続きでは有害なだけです。ところが、ここ2か月ほど300円以下の低位株や超低位株が材料もなく物色されて株価を上げています。このチャンスに手放さない手はないと思うのですが、どうでしょう。個人投資家などに損を押し付ける結果に成りますが、個人投資家も自己責任で買うことですから、買い手のあるうちに処分するべきです。
 ここまでの急騰を考えれば、よほどの僥倖がない限り、下がる方の確率が高いでしょう。有価証券含み損がいかに企業決算に悪影響を及ぼすかを、金融機関も一般事業会社も思い知ったはずです。投資効率が見合わない株式からは手を引き、資金運用をやめて本業に投入する決断も必要です。
 投資家の目は厳しくなっています。売上高や事業規模ではなく、如何に資金を効率よく回しているかを睨んでいます。ROE向上やキャッシュフロー充実などの掛け声も高まっています。株式という水物にいつまでも社運を掛けている場合ではありません。不動産にしても同様ですが、さっさと不稼働資産には見切りを付けて、資金を遊ばせない効率経営を目指して欲しいと願っています。

 とりあえず株価上昇のこの機会に、成すべきことを成してみてはどうでしょう? あ〜でも、日経平均がもう一段高したからって抗議のメールは要りませんよ。決断するのは自己責任ですから、お忘れなく。

99.07.05

補足1
 有効求人倍率について誤解がないように補足をします。この倍率は、全国の職安に申し込まれている求職者に対する求人数を表す倍率です。フリーターや新卒学生はカウントされていません。それでも倍率が1.0を下回るということは仕事不足を表しています。求人の中には低賃金や3Kのものも含まれるはずですから、倍率が0.46という状態では3人に1人ぐらいしか望んだ職を貰えないのではないでしょうか。決して好況では無いはずです。

99.07.05

補足2
#N度の4−6月期GDPが前年同期比プラス0.2%であると発表されました。公的資金の枯渇による息切れが見え公的需要は0.4%のマイナス、民間需要が0.6%のプラスで底堅さを見せました。
 ただ公的需要については、経済波及効果が一様でなく、一層のGDP引き上げに過剰な公共投資が必要かどうかは議論を待つべきところです。今年無理なGDP引き上げを実現すれば、来年はさらに厳しい努力が必要でもあります。自然体でのGDP向上に期待することと、民間需要拡大のための政策推進がまず優先されるべきと思っています。

99.09.09

補足3
 東証2部上場のサトーは、取引先銀行の全持株を放出することで、相手先銀行と合意したそうです。低価法を採用している同社は、銀行株の低迷で1998年9月期に評価損1.5億円を計上しましたが、これにより保有有価証券の価格変動に影響されない経営を目指すことに決めたそうです。
 売却の対象は東京三菱銀行,あさひ銀行,岩手銀行などの22万株で、銀行株が大幅に値上がりしているこのチャンスを活かして売却損を抑えつつ市場で売却する方針だそうです。サトーは業績が好調で内部留保も高めているため、銀行側は一部の保有株を手放すだけで引き続き株式保有は続ける方針だということです。
 好業績企業だからこそ思い切った手が打てるとも言えますが、これからもこうした企業が増加してくれることを望みます。また銀行も自社株式の市場ダブつきを回避するために、安定株主工作をするか、自社株の買入償却をするか、決断して欲しいところです。

99.09.10

補足4
 持合株式の解消は順調に進んでいるようです。鉄の結束と言われてきた三菱グループでも、含み益の大きいグループ株式の売却が進んでいるとされています。中でも買い戻しを伴う簿価洗い直しでなく、完全な売り切りが主体であるそうで、一つの時代を感じます。また生保が投資的でなく戦略的に保有していた上場株式の売却も急ピッチで進んでいるそうで、受け皿は専ら外資の投資会社であるそうです。
 しかし一方で、依然として保有株式を多数抱えている企業も多いです。NTTや松下電産、富士通、トヨタ・・・などが多数の株式を保有しています。ただし、これらの企業は多額の含み鋭気を計上する立場ですが・・・。ちなみにNTTの9月末現在の有価証券含み益は15.4兆円。ドコモ・データなど傘下公開企業の含み益拡大が利いています。またソフトバンクは8,800億円の含み益を持ち、これは前年同月比416%増という快挙です。ネット財閥の実力でしょうか。

99.12.31

補足4
 日本経済新聞99/12/28の記事によれば、企業の株式売買動向を見ると、金額ベースで1991年以降ずっと売り越し状態が続いているようです。バブル後の1993年、1994年は2兆円の水準を超え、その後はやや減少の傾向を示していましたが、1998年以降は決算対策での株式売却が進み、1999年は再び2兆円台に迫りました。
 加えて大手銀と地銀の株式動向は、1997年からしかデータが紹介されていませんが、1997年と1998年の8,000億円程度から、1999年は2兆円強に拡大しました。理由の一つに1997年は金融危機が本格化していなかったこと、1998年は依然として益出し中心の買い戻しを行っていたことが背景にあるようです。1999年は補足3に書きましたように、売り切りが目立つようになったということでしょうか。下期の株価上昇も大きく作用しているようではありますが・・・。

00.01.01

補足5
 補足が続きます。1999年上期の個人株式売買のシェアは29.2%となり、10%台で低迷していた1996年下期以降から大きく切り返したようです。下期はネットバンキングによる個人投資家の参入もあり、さらにシェアが拡大することが期待されています。これまで機関投資家重視の姿勢であった情報開示も、個人向けに透明性の高いデータを開示して行かなくてはダメですね。
 個人のシェアが増えた理由は、店頭市場での公開銘柄バブルが引き金となっての好循環発生、超低金利におけるハイリスク投資へのシフト、投資信託の窓販解禁による投資の敷居の減少・・・などが挙げられています。
 一方で外国人投資家のシェアは40.1%に拡大し、機関投資家のシェアが30%を割り込む寸前に成っています。補足4にあるように企業と銀行は専ら売りに回っており、売買高に占める買いシェアはさらに低くなっているようです。

00.01.01
前頁へ  ホームへ  次頁へ