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経済の研究No.01
この低金利でも銀行は助からない

 いよいよ低金利も続きすぎて預金金利が0.1%を切ろうかという、このご時世です。今度はマイナス金利になるのか、なんて話がありますね。実際問題として、シティバンクは口座管理料という名のマイナス金利を始めていますが...

■ この超低金利で果たして銀行は救済されているのでしょうか?
 その答えは、昔でYES、最近でNOです。かつては預金金利6%に対して、優良顧客に対する貸出金利は9%、その利ざやは3%が相場でありました。ここで預金金利を1%に引き下げれば利ざやは8%となり、さぞや銀行は儲かるだろうと考えたのが大蔵省の官僚です。ところが、長期間の超低金利のために借り換えがどんどん進んで、貸出金利は2.5%前後になっています。預金金利を仮に0.0%まで引き下げても利ざやは2.5%という現状です。むしろ以前よりも利ざやが減少しているのです。
 ところで、銀行の資金調達は預金ばかりでありません。不良資産が増加している以上は、他の金融機関から借りてでも健全な貸出先を増やさなくてはなりません。いわゆるオーバーローンという状態で、オーバーローンの金利は2〜3%になることもあります。こうして調達した資金を2.5%前後で貸したのでは逆ざや(受取利息よりも支払い利息のほうが多い状態)です。しかも不健全な貸出先にも追い貸ししなくては不良債権が表面化しますので、資金需要は増加してオーバーローンの金額が膨れ上がっています。
 また、海外展開している企業のために外貨を調達する機会が多いです。普通は国際市場から短期で調達しますが、最近はジャパン・プレミアムのために高い調達コストが掛かっています。また相次ぐ金融機関の破綻により、調達金利が1%を上回ることもありました。低位銀行の信用状(LC)の受け取りを拒否されるという事態も起こっています。かといって、外貨を調達しなければその企業は他行に乗り換えて、重要な貸出先を失ってしまいます。また国際業務を手がけるためには自己資本比率8%以上という制約(BIS規制)がありますので、無闇に貸出先を増やせません。金庫や日銀で遊ぶ金が増えて貸し渋りが生じ、まだ生きられる取引先を資金ショートに追い込み、わずかな資金不足で企業を倒産させてしまっています。貸出先の倒産がさらに銀行の資金繰りを悪化に招き、一層の貸し渋りとなる悪循環が拡大しているのが現状です。

■ なぜ銀行は体力を急速に奪われたのでしょうか?
 その理由は株式市場の低迷にあります。当初は手持ち株式のうち含み益を持つ株を市場で売却し、貸出資金の原資としていました(いわゆる益出し)。含み益が出る限りは同額までの不良資産償却が可能です。ところが含み益を持つ株式は多くありませんし、取引上手放せない株式も多いですので、この方法には限界がありました。そこで、取引先と相互に持ち合った株式を市場で売却する持合株の解消売りという暴挙に出ました。その結果、お互いの株式が市場でダブつき、しかも荒っぽい投げ売りを続けたので、大きく値を下げる結果に成りました。株価低下は銘柄全般に及び、含み損を抱える株式が手持ちに多くなりました。時期を待てば一層含み損が増えますので、さらに売りを仕掛ける悪循環を辿っています。結果として、銀行の金融資産が減少して銀行本来の体力を奪い、自行の株価が下がって信用も落としたのであります。

■ やむを得なかったのか?それとも他に方法はあったのでしょうか?
 本来ならば、持合株の解消売りではなく、株式を等価交換して自社株消却をするべきであったのです。そうすれば株式の流通量が減少して株価は上昇し、配当の負担も減少したはずです。加えて自社株消却益が出ることも期待できたのです。それを表向きの資本減少を恐れて実行しなかったのは、大蔵省の考えか銀行自身の考えか分かりませんが、バカなことをしたものです。銀行株は一律に安くなり、一律に信用を落としました。この結果、日本の金融機関の対外的信用が下がって、市場調達資金の金利が上昇してしまいました。このことは利ざや減少・利益減少を招いて、不良資産の圧縮をますます遅らせる原因になっています。

■ 金利の引き上げは可能であるでしょうか?
 答えはNO。金融資産を増やし、オーバーローンを圧縮するためには高金利で多額の預金を集める必要があります。しかし、借り換えが進みすぎて、これからの預金金利引き上げは逆ザヤを生みますから、自殺行為につながります。しかし長期の安定預金は絶対に欲しいところです。政府や地方自治体などに大口預金を働きかけています。あるいは話題の優先株や劣後ローンの資本繰り入れに期待もしています。金融機関の他力本願は相変わらずですね。単純に金利を引き上げるには、公定歩合の引き上げと自由金利制廃止をすれば可能です。ただし銀行の収益力を削り、融資先の金利負担が嵩んで倒産が増加しますから、事実上不可能であります。

 銀行を救済できず、融資先企業を救済できず、預金者をも救済できない自由金利制は、誰のために導入されたのでしょうか。また、超低金利もタダ同然になってしまいました。やはり教科書経済を信じる大蔵官僚が悪いのでしょうか。

98.01.05

補足1
 本回コラムで述べたオーバーローンは、銀行預金を貸出が上回っている状態を指したものでした。持株解消や不良債権処理が急速に進んだ結果、1999年2月に無事解消したそうです。ピークだった1990年〜1994年には預金400兆円に対して60兆円ものオーバーローンでしたが、逆に2000年2月末には40兆円もの預金を余らせています。余らせた預金は全て国債へ振り向けられており、国内銀行の保有国債は1999年2月末の30.1兆円から2000年2月の69.1兆円まで跳ね上がっているそうです。

01.04.22
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