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政治の研究No.17
市町村合併のジレンマ

 市町村合併の話はよく聞くのですが、なかなか実現していません。1995年9月の「あきる野市」成立が最後であるそうです。最近では浦和市・大宮市・与野市の合併が具体化していますが、なかなか合併発表の話は聞こえてきません。何故なのでしょうか?

 合併のメリットは、とくに政令指定都市と成れる場合が最も大きいです。都道府県と対等の地位になり、機関委任事務も増えます。周辺からの流入人口の増大が見込め、企業の支社・支店が進出してくる可能性も高くなります。歳出枠は増え、都市部・地方部への重点投資も可能となります。
 また合併が具体化してくると、新たな問題が生じるでしょう。市庁舎所在地の問題首長ポストの問題議員定員の問題などの問題です。1987年11月に茨城県の5町村が合併して成立したつくば市では、市長の出身自治体によって市役所が動かされるなどパワーバランスの問題が生じました。同様の問題が生じないと断言はできません。やはり寄合所帯は共有の目的がないと纏まらないようです。

 読売新聞の1998年3月23日号の記事を参照しますと、合併が進まない原因は地方交付税にあるそうです。長野県の諏訪、岡谷、茅野の三市と下諏訪、富士見の二町、原町の6市町村合併が実例として上がっています。少しばかりデータが古いですが、「都市データパック1996年版」(東洋経済新報社発行)からデータを引用してみましょう(小括弧内は全国順位、*はデータ基準年が異なります)。

市町村名 面 積(km2) 人 口(人) 歳 出(億円) 財政力指数(%)
諏 訪 市 109.06(338) 51,998(430) 184 88(185)
岡 谷 市 85.14(400) 58,286(384) 202 72(315)
茅 野 市 266.41(105) 51,984(431) 231 65(377)
下諏訪町 66.90(---) 24,821(---) 72 ---
富士見町 104.76(---) 15,281(---) *63 ---
原  村 43.23(---) 7,131(---) *43 ---
合  計 675.05(015) 209,501(098) *795 ---

 以上総括すれば面積順位15位、人口98位の中規模都市(面積では東京23区+武蔵野氏+三鷹市+調布市+狛江市に匹敵、人口ではほぼ調布市に匹敵する)が出現します。この6市町村であるのは、これらで長野県諏訪郡を構成するためです。

 そこで1997年2月に合併協議会の設置を諮った(今回が三度目である)ものの、原村が否決しました。データを見る限りでは原村が救済合併されるようですが、人口比で3%しか占めない同村が財政費で5.5%を占める不自然さが目立ちます。その仕掛けは原村の歳入の44.5%を占める地方交付税の高さにあります。地方交付税を原資にして、6歳以下の幼児と65歳以上の高齢者の医療費が無料などの手厚い福祉サービスが行われています。原村の住民は、合併が実現すれば手厚い福祉サービスを諦めなくてはいけないため、合併に反対なのです。
 富士見町も原町ほどではありませんが、多額の地方交付税を受けています。したがって合併には積極的でありません。しかし残る4市町で合併したのでは、富士見町・原村の過疎化が加速されるでしょう。合併が過疎化の歯止めになるかは微妙ですが、それは市政次第だと思います。地方交付税を取るか、スケールメリットを取るかの二者択一で、地方交付税を選択する小自治体は多いようです。この事例ではとりあえず4市町での合併を検討するべきなのでしょうか。

 やはり払いすぎの地方交付税が合併の妨げの一因なのだと思います。他市町村よりも過剰な行政サービスを提供する余資があるならば、まず国庫に返納するべきです。あるいはもっと市町村が発展するための何かに投資すべきではないでしょうか。今回の合併は最後のチャンスであるはずで、国が地方交付税削減を打ち出してから合併を望むようでは遅いと考えています。

98.03.29

補足1
 大型合併と期待されている大宮市・浦和市・与野市の合併が遠のきそうです。大宮市はさらなる広域合併を提唱して協議は停滞気味、2000年5月の「さいたま新都心」街開きを目途としていた計画が大幅に遅れるとのことです。
 最大の理由は、大宮市の我が儘。当初、新しい名称の採用に賛意をしめした同市が、名称を伝統ある大宮市にしたいと言い出したのが発端で、その後県庁を含む主要公的施設を全て大宮市に集約する我田引水を強調していることが問題だそうです。大宮市の一方的な態度に浦和市サイドが抵抗し、与野市は傍観という雰囲気だと伝わりますが、政令指定都市化を踏まえた建設的な議論には成っていないようで、残念です。

99.09.10

補足2
 大宮市・浦和市・与野市が二転三転したものの、合併にこぎ着けそうです。「さいたま市」という新市名で発足する予定ですが、合併までに必要以上の時間を要した結果、合併効果が出るのもかなり先送りになりそうです。
 東京都では、田無市と保谷市の合併が実現し、西東京市が発足しました(2001年1月27日)。人口は18万人に、面積は15.8平方キロメートルに拡大し、人口で都内第五位に昇格します。2月に選任される予定の新市長は、譲り合いではなく両首長の直接対決と成りますが、今後は公的機能の統合や、議員・職員削減などで、合併効率を上げていくのでしょう。西東京市では、10年間で189億円の経費削減が可能と試算しているようです。
 今でも多数の市町村が合併へ向けての検討や交渉を進めていますが、なかなか進捗していないようです。1888年に71,314市町村であったものが、2001年1月末現在で3,227市町村に成りました。まだまだ弱小な市町村が多いので、適正な規模になるまで合併に取り組んで欲しいものです。そのためには、国・政府の良い後押しが必要ではないでしょうか。力押しや補助金で釣るのではない、正しいリーダーシップに期待します。

01.01.27

補足3
 5月1日に、さいたま市が誕生しました。人口100万人を越える新政令指定都市の出現です。これで、神奈川や千葉に並ぶ、首都圏中核を占めることになります。埼玉県の地位向上にも貢献することでしょう。
 補足2の西東京市の場合もそうでしたが、さいたま市の市長選挙には、新藤大宮市長と相川浦和市長の一騎打ちが行われるそうです。もちろん第三の候補者達も出馬するようですが、現職市長の直接対決で早くも混乱が予想されます。井原与野市長だけは不出馬を宣言し、両候補に出馬断念を要請したそうですが、覇権争いが起きてしまいそうです。大宮市と浦和市の実力はほぼ互角であるだけに、対等合併の難しさを露呈しています。
 とはいえ、今後も自治体の合併は続いて欲しいです。さいたま市では、早くも大宮市と隣接する上尾市・伊奈町との合併も模索しているそうです。

01.05.04

補足4
 政府の後押しもあり、少しずつ市町村合併は進み始めています。しかし、地域エゴから抜け出せない自治体もあり、本質的でない議論で、合併を白紙撤回するケースも見られます。飴とムチで推進を迫るだけでなく、国による調停などにより、実質的な合併議論を展開して欲しいところです。
 変わり種の事例として、山梨県上九一色村の分割合併が話題になっています。同村は南北で生活圏が異なっており、甲府市などと関係の深い北部と、河口湖町などと関係の深い南部とを分割し、それぞれの関係の深い地域との合併を模索するとのことです。

02.05.19

補足5
 政府の地方制度調査会は、合併しない小規模市町村の権限を縮小し、積極的に合併に取り組むよう誘導するそうです。地方交付税の削減や、職員定数のカットなどが柱で、公共事業や福祉事業を隣接都市に肩代わりさせて単独自治に制限を掛けるのが狙いのようです。同調査会は、中核都市(人口30万人以上)に、政令指定都市並みの権限委譲を行う考えも示し、合併によるメリットを強調する方向です。
#N度の総務省調査によれば、人口35,000人未満の町村の収入は、地方交付税47.0%、国庫支出金4.5%により過半を占める一方で、地方税は9.9%という状況にあります。さらに、地方債10.8%への依存もあり、財政的には自立していると言い難い現状にあります。対する、人口35,000以上の町村の収入は、地方税が46.6%を占めており、地方交付税16.7%、国庫支出金5.0%、地方債5.7%と比較的健全であるようです。

 現在計画されている合併計画が全て実現すると、約2,000ある市町村が半減するという試算もあり、小規模で財政効率の悪い町村が、統合による行政効率化を目指して欲しいと思います。

本補足の数値は、日本経済新聞2002/06/04朝刊から引用
02.06.15

補足6
 東京都には千代田区以下23の特別区があります(通称、東京23区)。これら特別区は、首都という特殊性から徴税権に制限を受けると共に、本来の収入に見合った行政サービスが行えない問題を指摘されています。通常の市町村であれば当然に保有する自主財源のうち、固定資産税・特別区民税(法人分)・特別土地保有税の半分が自動的に都の取り分になるシステムになっています。

 千代田区の石川区長の提言により、特別区の「市成り」の議論が盛んであるそうです。東京23区を6市に分割する「東京6市構想」なる提言(森ビル系、森記念財団も出ているそうで、その去就に興味があります。詳しくは、AERA2002/03/18号を参照してください。
 多くの特別区は「市成り」により自主財源が増え、行政サービス改善などに取り組めるようですが、城東方面には「市成り」による財源減少の懸念もあり、必ずしも足並みが揃わないそうです。いずれにしても巨大な政令指定都市が誕生することにもなります。

 また近頃では、政令指定都市が都道府県と同格になる「特別市」への昇格を希望しており、実現すれば政令指定都市の権限拡大と、さらなる自主財源拡大に拍車が掛かりそうです。一方で、県庁所在地の問題や、特別市から見放された周辺都市の行政サービス低下なども懸念され、弱者切り離しとの批判も出てきているようです。

02.06.15

補足7
 近頃では、政府・自治省の積極的な働きかけにより、市町村合併の議論に熱を帯びてきています。対等合併は当然のこと、吸収合併による中核都市化を目指すケースも増えています。このため、複数の市町村からラブコールを送られる自治体も多いとか、報道されています。
 秋田県岩城町では、隣接する秋田市と本荘市からラブコールを受け、いずれと合併するかを住民投票で決めるそうです。広島県府中町では、広島市との合併か、単独での「市成り」かを住民投票で決めたケースがあります。自治体の長による決定でなく、住民の声により決定するというのが、面白い動きです。
 なお、岩城町の住民投票では、18歳以上の住民(3ヶ月以上在住する外国人を含む)が対象となるそうで、普通選挙権を拡大しての適用についても、画期的な試みと考えます。

02.08.15

補足8
 地方自治体の合併は、議論ばかりで実を結ばないケースが多いようです。無事に合併に漕ぎ着けても、対等合併では何かと対立や摩擦もあるようです。長らく、地方自治に合わせて予算の移譲を求める声が多くありましたが、補助金や交付税に寄りかかっている小規模自治体には、極めてありがた迷惑であるようです。独自税制で潤う余地を持つのは、大規模都市と著名観光地ぐらいであって、現状維持を求める首長も多いと聞きます。
 従来も「飴」を提供して合併推進を促してきたものの、成果は不足です。他方で無謀な投資・開発で負債が膨らみ、危険水域に達している自治体が増えています。いっそ補助金等を抑制して破綻させてみれば・・という構想が小泉首相にあるようだと言われます。
 自分の財布で勝負せず、自己努力を怠る自治体には、少し反省を促すぐらいが良いのかも知れません。

02.11.30
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