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政治の研究No.01
知 識 階 級 論

 知識エリートなんて言葉が流行した時代がありました。金ではなく知識を独占する特権階級であり、それを人は官僚あるいは民僚と呼びます。だからといって、彼らの頭の中に膨大な知識が詰まっているのでは決してありません。彼らは多くの知識を有効に用いることなく死蔵し、死蔵しつつも独占することで特権階級たる地位を占め続けているのであります。ところが、昨今では知識エリート達の不調が目立ち、ある者は退任させられ、ある者は不祥事で逮捕されたりもしました。これは知識エリート層のモラル低下と、これに因する結束の乱れと、知識階級の下層からの著しい突き上げとに原因があるようです。

 定義します。知識エリート層とは、深い知識は持たず、浅い知識を備えるが、その入口と出口とを掌握する知識と技術を備え、それを巧みに操作することにより、知識の独占を図りうる者であります。彼らは膨大な知識をストックし得るブラックボックスを持ち、かつそのブラックボックスの存在を他に知らしめない技術をも備えています。
 次ぎに知識中間層とは、個々人では多くの知識を備え、あらゆる階級よりも知識を持ちうる立場を占めますが、その情報を自ら活かしうる技術と手段を持たない者です。彼らは知識エリートに生きた知識を提供し、その代償として死んではいますが、他からは入手できない知識の提供を受けます。彼らは知識エリートの庇護なくして存在できませんので、知識エリートの実体やブラックボックスについては下層階級者に知らせる立場にありません。マスコミ上層部やいわゆる専門家を指します。
 さらに知識利用層とは、水準並の知識しか持ちませんが、与えられた知識を有効に利用する手段を有している者です。彼らは強く知識を求めますが、主に知識エリートや知識中間層から与えられる知識に満足をせざるを得ない立場にあります。彼らの内で、より知識を求める者は知識中間層を目指します。当然にブラックボックスの存在は知り得ず、与えられた知識が上位者の都合で変質していることさえ気付かぬ者が多いです。いわゆる良識派といわれる人びとであり、社会的にある程度の地位を占める人びとです。
 最後に知識追随層あるいは知識迎合層とは、自ら知識を集めることも分析することもせず、上位層から与えられた知識をそのまま受け入れ、それを疑わない者です。最近はこの階層に含まれる人びとが増加しつつあります。あらゆるマスメディアが平準化されつつあり、学業教育も一元化が進んでいるためで、自ら思考することを放棄する人びとが増えていることも理由にあります。

 もっとも罪深いのは、知識中間層でしょう。彼らは知識独占が生む害毒はよく知っていますが、それの持つ甘美な魅力をも知り尽くしています。知識エリートたちによる知識独占を必要悪と認め、そのおこぼれとして知識の一端を譲り受けます。そして、知識利用層と追随層には良識派然として、知識を分け与える立場に安住するのです。その行為は、より多くの知識を知識エリートに集中させる働きを成し、一層の知識管理社会を作り上げる意味で危険な行為です。

 我々としては、知識エリート達があらゆる全ての知識を掌握する前に、ささやかでも有効な抵抗を示さねば成りません。たしかに官僚や政治家の逮捕者は出るでしょう。しかし、それは知識エリート層から脱落した人たちに過ぎません。彼らはパワーを失ったからこそ、知識中間層に吊し上げられ、填った水たまりで打ちのめされているに過ぎません。彼らがパワーを失っていなければ、そもそもスケープゴートにされるはずがないのですから。知識利用層以下の人びとは、そのスケープゴートを見て満足し、毎日世の中は良くなっているというのですが・・・。
 かつて知識エリート層に君臨した者たちが一人またひとり消えていくことは、より少数の人間に知識が集中するということであり、一層の知識寡占化が進むということに過ぎません。ブラックボックスに死蔵されていく知識はより膨大になり、社会で有効利用される知識が減少してしまいます。それは一層知識追随層を厚くする原因となり、知識エリート達が制御しやすい社会を創り出すと言うことになります。なんとか打開策を考えなくてはいけませんよ。

98.01.27
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