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経済の研究No.174 |
のたうつIT関連銘柄 |
7月28日、日経平均は15,838Pで大引けして、直近の安値を更新しました。比較的堅調だったTOPIXも1,452Pまで急落しています。九州・沖縄サミットもありましたが、政治への不信感、景気の先行き不透明感、IT関連銘柄の失速などネガティブな要因が多く見られます。今回は、IT関連銘柄の失速を取り上げてみます。
■ ヒカリモノ
光通信・ソフトバンクの両社株式の急落で始まったIT関連銘柄の凋落は、依然として止まりません。ソニー・日本オラクルなど大型IT銘柄も大崩れて、株式市場全体での信用は完全に失われたようです。いろいろな思惑が働くだけに、一本調子の下げではありませんが、株価はのたうちながら下値を依然として模索しています。
光通信関連の銘柄は、近頃「ヒカリモノ」と呼ばれて敬遠されつつあるようです。ようやく株式公開にこぎ着けた関連会社ですが、公開と同時に光通信による売り浴びせを受け、大きく値を崩していることが指摘されています。本業赤字を埋めるべく、手持ちの未公開株式のキャピタルゲインを稼ぐことが至上命題になっています。このため、市場の地合など関係なく、売り浴びせて利ざやを積み上げているそうです。
年初までベンチャー=キャピタルを標榜し、数多くの公開予備軍に出資をし、さらに株式公開指南まで行った光通信です。しかし結局のところ予備軍達は、全てマネーゲームのための手駒でしかなく、同時に自らが生き残るための贄でしか無いようです。ヒカリモノの公募価格は比較的安値で落ち着いているようですが、それでも急落する株価に頭を抱えるオーナー達が多いと聞きます。随分と罪作りなことをしたものです。
近頃の株式公開後の株価急落傾向により、市場から渡り鳥は減った様子です。これまで次々に公開株を奪い合って利益を得てきた渡り鳥も、新しい渡り先が見つからず、初値が公募価格を大きく割り込むようになって、損失も出始めているそうです。このところの株価急落は、1月から2月に迎えた株価バブルの反動で、当時に信用買いを行った個人株主の反対売買が増えているためと説明されていますが、事実であれば巨額の損失であるはずで、大火傷負わされた個人投資家の市場離れがまた繰り返されます。
■ ナスダック・ジャパン奮わず
黒字会社に絞り込んで登場した新市場ナスダック・ジャパンの低迷が語られています。8社が上場した6月19日は70万株近い商いがあったものの、数日で20万株を割り込み、7月以降は数万株しか物色されていない低調ぶりです。市場参加者が少なくなれば商いの細るのは当然で、それはそのまま時価総額の縮小、株価低迷に連鎖します。これまでナスダック・ジャパンへの上場を公約していた公開予備軍は、躊躇しているとも聞こえてきます。
この低迷の原因は、当初からソフトバンク色が強すぎたことと、NASDのザーブ会長の市場制覇の野心が顕わになったことでしょう。また市場開設時に多数のネット証券が閉め出される形になった問題も、指摘されています。表向きは、ネット証券各社のシステム対応が遅れたためだとしていますが、仕様公開が遅れた上に特殊なものであったことが原因とされています。結果的にソフトバンク系列のイー・トレード証券など数社に絞られたことが、市場参加者の枠を狭めました。
さらにナスダック・ジャパンの運営などを手がけるナスダック・ジャパン株式会社の経営資源不足が指摘されています。NASDとソフトバンクの折半出資(各3億円)で設立された同社は、上場支援やマーケティング調査、情報分析・提供などを手がけることに成っています。上場審査や管理監督を行うのは大阪証券取引所ですが、こちらは誘致・宣伝などを行わないため、ナスダック・ジャパン株式会社の資金が枯渇しているそうです。
株式会社本体の上場も目論んでいるようですが、現在の低収益・高コスト体質のままでは企業価値が低いことも問題です。背に腹は代えられず、野村証券ほかの出資を募っているということですが、市場の方向性が見えない以上、厳しい状況です。いずれ市場ごとどこかに吸収されるなんて話も出てしまうかもしれませんので、活性化が先決です。
■ 燃えつくすドット・コム
本来であれば、ベンチャー=キャピタルを使って新興IT企業に資本注入し、これを早期に株式公開に持ち込んで資金を回収し、それを再投資するのが光通信やソフトバンクの「勝利のトライアングル」であったはずです。しかし光通信キャピタルは目標額に全く届かない資金しか集められず、幹部社員の大量離脱などで機能停止とも言われています。
ソフトバンクも買収を決めた日債銀が思ったほどに使えず、ナスダック・ジャパンを利用した錬金術も封じられました。マザーズの低迷も続き、店頭市場からの個人マネー流出も顕著です。もはや両社ばかりでなく、多数の新興IT企業にも寒い冬が訪れようとしています。彼等を代表する「ドット・コム」という呼び名も、空しく響くばかりです。
ドット・コムに共通することは、事業規模も定まらず利益が出ていないウチから、無計画な事業規模拡大や派手な宣伝を繰り広げていることです。大手商業紙やビジネス雑誌にカラーや一面の広告を打ち、記念パーティを開催し、マスメディアに金をばらまいています。資本金を1年足らずで食いつぶして消えていくドット・コムが増えています。企業が手元資金を使い果たすスピードを「バーンレート(燃焼率)」と呼ぶそうですが、異様に大きなレートのIT企業が目立ちます。
今まではバーンレートが高くても、新しいスポンサーが付き、ベンチャー=キャピタルの出資も受け、最後に株式公開でゴールという筋書きでしたが、キャピタルも体力を失い、スポンサーが手を引き、株式公開も狙えない悲惨な状況です。欧米では、燃え尽きてしまったドット・コムが増えていますが、もう話題にさえ成りません。最大手のアマゾンでさえ、時間の問題と言われています。
■ これからのIT市場は?
ここまでIT市場が加熱しながら、あまりにも急激に冷却してしまった理由は何でしょうか? ユーザーが大幅に増加して、一見たくさんのビジネスチャンスが生まれて見えたインターネット市場に、原因は求められます。たしかに日進月歩のコンピュータ業界でも、インターネットの急成長は異常でした。
「ドッグイヤー(人間の1年は犬の7年に相当することから)」などと騒がれ、新規参入し市場拡大したものが勝者になると錯覚させられました。結局は後発でもユーザーの支持を受けたものが勝者となり、やみくもに資金をばらまくだけでサービスの差別化が図れない企業が消えることは必然でした。IT企業だけの聖域は、やはり存在しなかったのです。
これからは参加企業の淘汰が進むでしょう。あまりにも多くの企業が参加し、多くの資本が投下されすぎました。ITもやはりインフラの一種であることが明らかになり、企業の設備投資や在庫調整とも密接に絡むことが証明されました。まずユニークなサービスを開発し、一定数のユーザーを囲い込み、少しずつでも利益を出して経営基盤を安定させ、社会的な信用を得た上でスポンサーを募り、その後に株式公開するという一般企業同様の経営スタイルが求められるのは変わりません。
■ むすび
今回のITバブルの責任の一端は、マスメディアと証券会社にもあります。このあたりで少し冷却期間を置いて、これからの市場のあり方を問い直す必要があるでしょう。争うように株式公開することにより多額の資金が乱舞しましたが、結局は花見酒経済でした。株主・投資家である我々も、もう少し賢くなる必要がありますね。
00.07.30
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補足1
「ナスダック・ジャパン」についての分析は、日経ビジネス00/07/31号が詳しいですので、ご一読ください。「バーンレート」は週刊アスキーの「ニュースの海を旅する 第111回」に詳しいです。
ナスダック・ジャパン株式会社は、すでに株式公開に向けてストックオプション制度を導入しているそうです。これは新たなスポンサーによる出資意欲を大きく削ぐモノです。加えてソフトバンク色が強いことを避ける公開予備軍も少なくないと聞こえてきます。「ソフトモノ」などというレッテルが貼られぬよう、ソフトバンクとその関連企業には透明性確保と適正な公開判断を望みます。
ソフトバンクでは中間持株会社の上場まで意図しているそうです。三階層で三度オイシイという商法は、もうあり得ないでしょう。むしろ健全な事業を巻き込んで連鎖破綻という事態を招きかねません。そろそろ上場親会社が上場子会社の大部分の株式を持つ、歪んだ時価総額経営を放棄するべきです。
00.07.30
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補足2
本文中にも書きましたが、1月や2月に信用でIT関連を買い込んだ投資家が大火傷を負っているようです。これまでにも大型IT株を担保として信用取引を重ねていた投資家で追い証が払えない状況なども伝え聞きましたが、現金や国債・優良銘柄を担保にしていた投資家も、回復を待ちきれずに見切り売りを強めているといいます。これで事実上、個人投資家に見放されました。IT銘柄を組み込んだファンドの業績も最悪ですが・・・顕在化するのはこれから年末に掛けてでしょうか。
7月28日現在のIT銘柄を見てみますと、ヤフーが200万円安の2,620万円、日本オラクルが2,820円安の24,190円、ソニーが180円安の10,180円(ザラ場で9,940円)、ソフトバンクが1,110円安の9,150円、光通信が270円安の4,600円、RAJが10万円安の116万円、INIが55万円安の600万円でした。
ちなみに7月26日という最悪の状況で株式公開したローソンは、日本オラクル以来の超大型株と言われながら、公募価格7,200円を大きく割り込む6,000円で寄りつき、その後5,360円の安値まで売り崩されました。全く時期を得ていなかったということに成りますね。
00.07.30
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補足3
本文中ではナスダック・ジャパン株式会社と大阪証券取引所の関係だけを述べていますが、もう一つ日本ナスダック協会(米NASDに相当)があります。ここでは市場の基本方針が決定されますので、今後の市場回復には欠かせない存在です。
金融ビジネス2000年9月号に、野村総研の大崎氏が寄稿されていますが、ナスダック・ジャパンにはまだ数多くの課題が積み上がっています。本文とはあまり重複がありませんでしたので、ご一読いただけましたら幸いです。本稿では、上場企業の少なさを補うために理念を歪めることへ、警鐘を鳴らしています。上場企業を増やすことが株式会社の収入に直結するため、上場企業の質よりも量を重視するのではないかと危惧しています。
00.07.30
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補足4
ナスダック・ジャパンが低迷している理由として、流動性を高める工夫が無いことが指摘されています。初期上場8社とモーニングスター社の計9社について、ドンキホーテと東海ベルノは他市場にも上場しており物色の魅力がないこと、移籍組を含めてIT関連全体の低迷が顕著であること、商いの板が薄く価格変動が激しいこと、などが指摘されています。
公募価格を含めて、価格決定システム全体の見直しが必要とされていますが、このままでは既存市場へ乗り換える企業が増えてしまうかも知れません。取引手数料や上場賦課金を引き下げることで引き留めたとしても、投資家に見放されればお終いです。IT銘柄の信用回復待ちと合わせて難しい局面です。開かれた市場、リーズナブルな市場づくりに励んで欲しいです。
00.07.30
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補足5
ナスダック・ジャパン株式会社は、市場開設時の公約だった米ナスダックの上場銘柄の取り扱いを2001年夏から行うと発表しました。マイクロソフト・ヤフー・シスコなどの上場ですが、これらIT企業が来夏にも元気であるのかどうか・・。また、そこまでナスダック・ジャパンが存続できるかどうか・・。難しいところですね。
00.08.02
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