前頁へ  ホームへ  次頁へ
経済の研究No.93
GEキャピタルの     
     フルラインナップ

 GECゼネラル・エレクトリック・キャピタルは、世界最大のノンバンクですが、米国が誇る巨大コングロマリットである、ゼネラル・エレクトリック社の12から成る事業部門のうちの1部門に過ぎません。とはいえ、その総資産は2,300億ドル(1ドル=110円換算で、25.3兆円)もあります。9,000機の飛行機,18.4万台の鉄道車両,75万台の自動車、11.9万台のトレーラ,14基の通信衛星を持っているそうです(数字は1997年12月現在、出典:週刊「日経ビジネス」1998年10月5日号)。日本での注目度は低かったのですが、矢継ぎ早に日本企業の部門買収に動いたことから、1998年から著しく注目を集めています。
 元々ゼネラル・エレクトリックの製造部門におけるリース事業を手掛けた会社で、日本で言えば日立クレジットのようなものでした。それが1987年の本社移転を契機として、投資企業へと脱皮を図ってきました。当時6社だった子会社が今では300社を超えており、しかも多くが買収に因りますので、驚きです。買収は新規事業の立ち上げに始まり、事業が軌道に乗り始めると競合企業などを買収して規模の拡大も図ってきました。あくまで投資が目的であるため、子会社化した企業の黒字化について厳しい姿勢で臨みますが、同時に蓄積してきたノウハウを惜しみなく投入するということにも定評があります。

 日本への進出は、1991年の海上コンテナリース事業(現・GEシーコ・ジャパン)に始まります。1993年には東京事務所の開設があり、翌1994年にミネベアの信販部門(現・GEコンシューマー・ファイナンス)を買収しています。事業が軌道に乗り始めた1995年には、新京都信販からクレジットカード部門を買収し、信販系・VISA系・流通系の3系統のクレジットカードを発行しました。当初100億円だった取扱高は、1年で160億円に、2年で200億円に拡大しました。
 同じ1995年には、米国のシグナ再保険の東京事務所から再保険事業を買収しています。さらに1996年には丸紅の自動車リース部門である丸紅カーシステムを買収して自動車リースに参入しています。1997年には不動産投資事業のGEキャピタル・リアル・エステートを設立し、その後、森ビル開発と提携して大型商業ビルの共同購入などに動いています。しかし注目度はまだまだ低いものでした。買収してきたのが企業の特定部門が中心で、いずれも事業規模の小粒な企業であったためです。
 そして1998年1月には、コーエークレジットを買収しました。1997年末で54店舗、融資残高506億円でしたが、1年後には74店舗、600億円を達成する見込みです。資金調達先が低利のGECに切り替わったことで、経常利益も25億円から42億円近くまで急増するそうです。11月にはレイクを傘下に収めて消費者金融部門の強化を図っています。コーエーは親会社の買収による全株式取得という手法で、レイクは消費者金融部門の即金買収という手法でした。レイク(新社名はGEキャピタル・コンシューマー・ローン)には、8,100億円ほどの銀行借入金がありましたが、ほぼ全額をGECからの調達に切り替えていますので、収益は著しく改善されると発表されています(レイクの買収はレイクの浜田会長が積極的に働きかけた結果だと言われています)。
 さらに、1998年4月には経営危機に陥った東邦生命から営業権を720億円で買収してGEキャピタル・エジソン生命を設立して生命保険事業に進出しました。そして1999年、日本リースからリース債権を8,000億円で買収すると共に、子会社の日本リースオートの全株式を取得します。これまでの中では際だって大きな買収金額ですが、これによって、ようやくフルラインナップの体制が確立されました。

 GECはGEグループの1部門に過ぎないと書きました。しかしGEグループの連結営業利益150億ドルの30%を稼ぎ出す優良部門です。財務内容の精査には1年以上の歳月を掛け、査定に基づく買収交渉もシビアなものだそうです。当然ながら買収後の業績計画も練り上げられており、2年で黒字化できない事業には投資をしないと公言しています。日本リースのリース資産買収は、ほぼ額面での買収ですから、良質のリース資産と弾いたと見ることができます。東邦生命やレイクの部門買収でも、企業全体では問題があるものの、部門買収であれば十分に採算が合うと判断したと言うことです。そうでなくてはROE20%は実現できないでしょうね(数字は全て1997年末の数字)。
 さて、GECは事業部門を5つに細分化して戦略を練っています。それは、特殊保険(住宅ローン保険,再保険)、リース金融(主に産業機器)、消費者金融(クレジットカード、生命保険を含む)、商業金融(商業不動産ローンや企業金融)、設備運営管理(航空機などのリース&メンテ)から成ります。設備運営管理部門はやや弱いながらも、日本でもラインナップが揃ったことが分かりますね。黒字化の目安は2年ですから、おそらく2000年末には、揃ったフルラインナップの拡大と強化に動いて来ることになります。現在なお不況から抜け出せない日本企業を相手にさらなる積極的買収をしてくる可能性があります。

 海外企業に買収されることが悪であるとは言いませんが、望ましくは国内資本による国内企業にも頑張って欲しいと考えています。幸いにも国内トップのオリックスは堅調です。三菱グループがリース系会社を集めて国内第二位のリース会社を作るという話も出ています。前述の日立クレジットがGECに倣った事業展開を図るという話も聞きます。学ぶべきことは学んで、国内資本にもできる限り頑張って欲しいと思います。

99.02.13

補足1
 GECは現在のところ、日本の金融系会社にとってのホワイトナイトです。しかし必要な物だけ買い集めて地盤を強化してくれば、相対的に弱体な国内金融系会社は競り負けて潰れるか、軍門に下るかを迫られることでしょう。金融は日本にとって生命線でありますから、何とか頑張って欲しいと言うことは本文にも書きました。しかし規制によって守るのではなく、ノウハウと努力の積み重ねによって守り抜いて欲しいと考えます。そのためには過去の経緯や企業系列を乗り越えた結束と効率化が必要になるのではないでしょうか。くれぐれも分断されて個別撃破されないで欲しいと願っております。

99.02.13

補足2
 コーエークレジットの調達金利は2.5%前後だと見られています。おそらくレイクも同様でしょう。この水準は最大手の武富士に並び、第二位のアコムより0.5%程度良い数字です。国内の消費者金融は銀行から貸し渋りを受けており、とくに上場していない中堅以下には悩み深い問題です。レイクはその点に着目して早々とGECの協力を仰いだと見るべきでしょう。とすれば、今後同様に外資に資金調達を仰ぐ消費者金融が増えるかも知れません。
 消費者金融については第4回街金の金利は高すぎる」に書きましたが、これまで優遇された結果として中小規模の消費者金融が増えすぎました。今後、外資をバックにした消費者金融が貸出金利の引き下げで体力勝負を仕掛けてくる可能性も高く、今のうちから足腰を鍛えておくことも必要かと考えます。

99.02.13

補足3
 GEの1−3月期決算は、売上高が前年同期比6.8%増の241億6500万ドル、純利益が同14.0%増の21億5500万ドルの増収増益になったそうです。GEキャピタルも好調で、日本での事業の利益は前年同期の4倍にあたる4000万ドル以上に達したという発表です。GEそのものが事業のグローバル化を進め積極的な事業買収を行っていますが、GEキャピタルも負けず劣らずというところでしょうか。とくにGEキャピタルは日本国内でフルラインナップの整備ができたので、これからシナジー効果でますます事業拡大してきそうです。脅威ですね。しかしオリックスも頑張っているのですが・・・。

99.04.22

補足4
 日本リースを傘下に収めたGECは、グループ内の日本事業を集約し、法人向けリース業や事業者金融ほかを整理・統合するそうです。とはいえ、事業者向け金融はまだ傘下に収めて居らず、中堅商工ローンの買収などを目指していると見られます。日本リースを傘下に収めたことで、日本国内では第3位のリース会社(物件購入ベース)ですが、これからは第1位のオリックスをターゲットにして、さらなる事業拡大に意欲を燃やすそうです。
 三菱金融グループは、グループ内のリース部門を統合して規模による対抗を始める様子です。何度かメディアに取り上げられていますが、未だに中身が見えてこないのは、おそらく調整が難しいためでしょう。しかし、そろそろ下位リース会社に残された時間は少なくなりそうです。

99.05.07

補足5
 GEの1999年12月期決算が出ました。純利益は前年同期より15%増加して107億円を計上しました。これはGEにとって初の100億円台であると同時に、米国企業でも初の快挙であるとのことです。
 なかでもGEキャピタルは44億ドルもの巨額純利益を稼ぎ出しています。GEキャピタルは日本市場を新たな戦略市場と捉えており、米国では手を出していない消費者金融事業を日本では積極的に抑え始めています。

00.05.03

補足6
 これまで「GEキャピタルに対抗できるのは日立だけ」と言ってきました。その日立でノンバンク2社の合併が発表されました。日立製作所は、東証1部上場の日立クレジットと、未上場の日本リースを10月1日付けで合併させ、国内最大のリース事業を立ち上げるとのことです。日立クレジットが存続会社で、リース扱い残高は5,486億円、単体ベースでは業界最大手のオリックスを追い抜きます。
 M&Aを含めたリテール部門強化も図り、2002年には売上高9,000億円、純利益210億円を目指すそうです。日立グループの金融部門の中核企業として、グループの純利益を三割程度稼ぐのが目標で、これはGEにおけるGEキャピタルを意識した目標のようです。

00.05.03

補足7
 GECに援助を求めていた信販大手のライフが会社更生法適用を申請しました。昨年11月には、GECによる第三者割当増資による再建策を公表しました。しかし、予想以上に不良債権が多いことを懸念したGECが増資に応じず、自力再建も諦める形に成りました。
 このところの銀行の貸し渋りが与えた影響も大きかったようですが、巨額の債務超過に転落したことが原因と報道されています。1,200億円もの不良債権を抱えていたものを、監査法人が一括で損失計上するよう勧告したことにより、968億円の債務超過と成りました。監査法人の勧告は正しいことですが、ここまで追い込まれるまで適切な勧告を行わなかった、監査法人の責任も問われるべきでしょう。
 当面はカード・信販業務を継続するとしています。本業の業績はまずまずなので、後は大資本の支援を受けつつ再建に臨むものと見られますが、結果的に再建支援を行わなかったGECが改めて支援を申し出る可能性もあり、大幅な債権カットを強いられる金融機関との対立もありそうです。

00.05.21

補足8
 補足6の補足です。日立クレジットと日立リースが10月に合併する新会社の名称が「日立キャピタル」に決まったそうです。これではっきりとGECに対抗する姿勢を示したことになります。
 三菱グループもクレジット・リース部門の統合を発表しており、他の企業グループもM&Aを含めた事業統合に動いているようです。これまで数多く存在した中堅クレジットやリースは、合併による存続か、債権譲渡による清算か、厳しい選択を迫られるようです。日本でも本格的なリース業界再編が始まる様子です。

00.05.21

補足9
 GECは傘下のコーエーとレイクを合併し、存続会社をレイクとすると発表しています。同業態の消費者金融を統合し、知名度が高くブランド力のあるレイクに一本化することを狙っています。レイクは957店舗、コーエーは89店舗あり、統廃合を伴うものの1,000店舗に手が届きます。レイクの買収は1998年11月、コーエーは1998年1月でした。
 当初支援を発表していたライフは事実上倒産しましたが、スポンサーにGECが名乗りを上げており、ライフを傘下におさめた場合、GECの個人金融部門は大幅に強化される模様です。また通信販売大手のニッセンと折半出資でクレジット会社の設立を発表しており、2000年もその拡大意欲が盛んな様子です。

00.09.10

補足10
 米国でもGECの快進撃には危機感が広がっているようです。シティグループは、米国消費者金融最大手のアソシエーツ・ファースト・キャピタルの買収を宣言しました。資金力にモノを言わせて手っ取り早く対抗馬に名乗りを上げる形ですが、圧倒的な実力を身につけたGECとどこまで戦えるのか注目されます。アソシエーツは日本でも業界第五位ですから、両者の競争に日本市場も巻き込まれる可能性が大きいと思われます。草刈り場とならないよう、日本の金融グループの活躍に期待させて欲しいです。

00.09.10

補足11
 米国GECに変調が見られるそうです。GEの純利益全体に占めるGECのシェアは、40%の高水準(2002年1-9月期)にあるものの、金額では前年同期比12%減でマイナス成長とのことです。現在のところ2002年通期の純利益は、1999年や2000年並みの予想ですが、ピークの2001年には全く届かない見込みです。安定成長を望むGEとしては、GECによる金融依存からの脱却の道を模索する必要があるようです。

 一つには、これまでの買収戦略で順調に規模拡大・高収益を続けてきたものが、適切な買収先が見つけられないこと。これまでCP発行で市場から資金を調達し買収資金にしてきたものの、その巨大さが財務基盤を弱めているとの批判があるためだそうです。
 二つには、再保険事業が不調であること。欧州の水害を契機にして、将来の支払費用の計上が甘かったのではないかと指摘があるようです。つまり潜在的に、今後の費用負担が膨らむ懸念があるとのことです。
 三つには、投資ファンドがITバブル崩壊で痛手を受けていること。どこの投資ファンドも同じですが、損失に耐えかねて事実上の撤退になるそうです。
 四つには、投資家の不信が拡大していること。事業構造が複雑で、これまでに破綻したエンロンなどと同種の不安を持たれているそうです。GEは資本注入や銀行借入枠の拡大等の支援をしたものの、GE自身の株価にも影響が出ているようです。

 なお、GECはソフトバンクが売却先を模索しているあおぞら銀行(旧日債銀)の株式買収に名乗りを挙げています。すでに株主である投資ファンドのサーベラス、自己資本増強を目論む三井住友銀行、ドイツ系ヒポ・フェラインス銀行に続いて4番目に成ります。買収による成長神話が再び訪れるでしょうか。

日本経済新聞2002/12/16朝刊記事を参照しました
03.01.03
前頁へ  ホームへ  次頁へ