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経済の研究No.80
保護預かり制度と保管振替制度

 ご自分の株券を手に取ってみたことがありますか? 最近は株式投資をしているのに株券を見たことがないとおっしゃる方があります。株券をどこかに預けて取引をされているからですね。
 さて、昔から一般的であるのは、株式保護預かり制度の利用です。保護預かりとは、証券会社が顧客の株券を預かって保護しておくことです。顧客は証券会社に口座を開く際に、証券保管料を支払って、今後の取引で発生する株券を預かって貰います。これに対して、近頃利用されているのが株式保管振替制度(俗称、ホフリ)です。こちらも株券を預ける点では同じですが、預ける先が証券会社ではなく、証券保管振替機構(以下、機構)なのです。

 始めに名義書換の話をしておきましょう。株式を購入しても、株主に自動的には成れません。株主に成るためには、所有者が自分であることを届け出て、登録を受ける必要があります。とはいえ、当該株式会社に持ち込んでも手続はしてくれません。通常は株式事務取扱会社(通常は任意の信託銀行が指定されており、四季報などに記載されています)に名義書換の代行事務が委託されており、指定取扱会社に株券を持ち込んで名義書換を依頼します。名義書換には5〜10営業日が必要であり、その期間は株式売却ができません。また名義書換は無料ですが、自分で信託銀行へ足を運ぶのは面倒なので証券会社に委託すると、書換手数料と余分に2〜4日の日数が必要となります。書換手数料は、株数を基本とする従量制なので、株数が多い場合は自分で手続きしましょう。
 さて、名義書換をしますと、株券のウラ面に株主名,登録年月日,登録証印(扱い信託銀行の登録印)が記されます。この時点で正式の株主として登録をされます。期末までに株主登録が完了しますと、その期における株主として、総会に出席する権利,配当・株式分割等を受ける権利,株主優待を受ける権利が発生します。逆に言いますと、せっかく期末までに株券を入手していても、名義書換を忘れていると一切の権利は発生しません。
 では、名義書換の終わった株券ですが、どうしましょう。証券会社では、担当者が顧客の株券を引き出して流用したり、売却したりするというトラブルがありました。中堅証券で顧客の保護預り証券を担保に運転資金を調達していた、というトラブルがありました。しかし、自分で管理するのは非常に危険です。まず紛失や焼失の危険があります。紛失や焼失をしますと、所定の手続を踏んで再発行を受けなくてはいけませんが、費用にして10万円(株数に関係なく、公告費用や裁判費用に必要です)、期間にして1年間必要です。したがって、まず預けるのが無難であります。

 現在、保護預かりした株券と、証券会社の自己株券を明確に分離するように金融当局が指導しています。同様に顧客預り金も証券会社の自己勘定と分離することになっています。このため、担当者や証券会社が勝手に顧客の株券に手を付ける可能性は少なくなっています。かなり安全になったといえるでしょう。ただし一般的なのは管理専門の部門や子会社を作るというもので、外部に管理を委託するものではありません。株券を預けるに際しては、どういう預かり方をするのか聞いておきましょう。とはいえ、今は機構を利用する方が便利でしょう。
 機構は昭和59年制定の「株券等の保管及び振替に関する法律」に基づいて設立された財団法人です。会員証券会社の顧客株券を一括して取得・保管するとともに、必要に応じて株券の出し入れを行います。また期末になると預かり株券の名義を全て機構名義に書き換えるとともに、実質株主の名義を株式事務取扱会社へ通知します。このため顧客は名義書換を行う必要もなく、株主としての権利を得ることができます。機構と証券会社は完全に分離されている上に、バックに国がありますから株券は100%保証されるというメリットもあります。また株式の売買が会員証券会社間で行われ、かつ株券の授受を伴わない場合は、会員口座間で保管株式数の振替を行うだけで済み、面倒な手続きがありません。また名義書換が実質的に行われませんから、いつでも売却でき、権利取りした翌日に売却することも可能になります。
 発行主体である株式会社には、名義書換の事務負担が軽減されるメリットがあります。株券には、1枚当たり8つ程度の名義書換欄がありますが、頻繁に名義書換をすると必要になる、株券の再発行が省略できます。また1万株券や10万株券を預けることで、株券の発行枚数を少なく抑えることもできます。

 そんな便利な機構ですが、問題はいくつかあります。まず、配当を伴わない中間期には実質株主の変更を行わないません(近々改善されます)から、新しい株主に中間決算報告書が届きません。また、単位未満株(俗称、端株)は預かりません。さらに、あくまで機構名義なので、上場廃止になると自己名義に変更できません(長銀株式がそうです)。機構経由で株券を手に入れるには余分に1日が必要になりました。また家族名義の株券も全て口座名義に書き換えてしまいます。
 このため、保護預かり制度が不要になるのでもありません。自分で積極的に名義書き換えした株券は保護預かりにするのが良いでしょう。改めて機構から株券を取り寄せると、再度の名義書換が必要になります。また株式分割のあった端株も預けなくては成りません(最近は単位未満株は台帳に登録だけして、株券を発行しないことが殆どです)。そして株主優待を家族で受けたい場合は、家族名義の株券を保護預かりで預けましょう。株主優待は少数株主を優遇する方向にあります。家族分を一括して口座名義にするよりも、家族個々人名義にする方が優待が大きい場合がありますので、チェックしておきましょう。

98.12.11

補足1
 株主優待制度の話を少し補足します。株式会社にとって、株主数が多いことは乗っ取りの危険が分散されるという利益を受けることができます。小口株主は、総会通知の発送などに手間が掛かりますが、配当と優待が受けられるとあまり経営に口を出さないために、潜在的安定株主でもあります。また優待の権利取りのために、期末株価を押し上げる要因にも成ってくれます。
 したがって、単位株を持てばもれなく優待をくれる企業が少なくありません。こうした場合は、同一名義で数単位株を持つよりも、家族で単位株ずつ持った方がたくさんの優待が得られます。例えば、東京小僧寿司は、1,000株以上の株主にグルメジェフ食事券(加盟店ならどこでも使える無期限食事券)を一律支給しますから、4,000株を口座名義にするよりも、家族4人の名義にすると4倍の食事券が貰えることになります。ただし、配当などの問題がありますので、あくまで家族がそれぞれの財布から購入資金を出すことが前提です。お父さんのお金で家族の名義を使い分けるのは、地方税ほかの脱税になりますので、ご注意を・・・。

98.12.11

補足2
 法務省は、企業に株券の印刷・発行を義務づける商法を改正し、株式のペーパーレス化(電子データ置換化)を進める意向のようです。企業は株主名簿や証券会社の顧客口座簿に電子的に記録すれば良く、保管負担などが削減されるというものです。定款で定めることが必要ですが、現在の保管振替制度でも投資家のペーパーレス化は進んでいることから、受け入れられるでしょう。仏国は1984年に株券の発行義務を免除する「不発行制度」を導入しているそうです。
 電子化されれば現物の受け渡しが無くなるため、即時決済も可能となります。

01.04.22
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